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46)ストレスによる免疫力低下を改善する漢方治療

図:精神的ストレス(①)は脳の視床下部-脳下垂体系を介して、副腎皮質からステロイドホルモンを分泌し(②)、交感神経が刺激されて過緊張状態になる(③)。不安や心配は睡眠を悪くし、交感神経緊張は消化管機能を低下し、食欲が低下する(④)。副腎皮質ホルモンは抗ストレス作用があるが、副腎皮質ホルモンは免疫細胞のリンパ球を死滅し、マクロファージの貪食能も低下させ、免疫細胞の機能は低下する(⑤)。交感神経過緊張は血管を収縮させて組織の血液循環を障害し(⑥)、消化管機能の低下や血液循環障害は、組織の新陳代謝を低下させる(⑦)。これらの総合作用によって精神的ストレスは免疫力や治癒力を低下する。

46)ストレスによる免疫力低下を改善する漢方治療

【ストレスは免疫力を低下させる】
現代西洋医学は、心と体を分けることにより生命現象を科学的分析の対象とし、医学を発展させてきました。しかし、1936年にハンス・セリエ博士ストレス学説を発表してから、西洋医学も心と体の関係を次第に認めるようになり、心が重要な因子となって体の病気を引き起こす「心身症」という病気を認めるようになりました。
ストレスとは元来、ひずみ応力を意味した力学的用語ですが、セリエ博士によって精神と身体のひずみへと拡張されました。種々の感情がどのようにして身体の機能に影響を及ぼすのか、情緒が神経系や内分泌系や免疫系に影響するメカニズムも少しずつ解明されてきています。

脳の働きが免疫系の機能を左右するといった考えは1970年代までは多くの研究者から受け入れられず、免疫系は独立して機能する生体防御システムであると考えられていました。しかし、精神(心)と神経系や免疫系の関係を研究する精神神経免疫学(Psycho-neuro-immunology)という研究領域も認知され、感情がホルモンや神経伝達物質を介して神経系に作用し、さらに免疫機能を始めとする種々の生体機能に影響することは、今や常識となっています。

ストレスは、肉体的であれ精神的であれ、適度であれば生体機能を活性化して治癒力を高める刺激になります。しかし、過度のストレスは逆に生体機能の異常をきたす原因となります。過度のストレスががんに及ぼす最大の悪影響は免疫力を低下させることにあります(トップの図)。
人間はストレスが与えられると、交感神経が刺激され、副腎皮質からステロイドホルモンが分泌されます。副腎皮質ホルモンは抗ストレス作用があるのですが、免疫細胞のリンパ球はこのホルモンに弱く死滅していきます。またマクロファージの貪食能も低下させます。
不安や恐怖心などの精神的ストレスがあると、食欲がなくなり、不眠に陥って体調が崩れます。交感神経の緊張は消化管運動や分泌を抑制するので、このような状態が長く続くと、消化吸収機能の低下の原因となり、栄養障害から免疫力の低下の原因になります。交感神経の過緊張は、血管を収縮させて組織の血液循環を障害し、新陳代謝や治癒力を低下させてがんが再発しやすい体質にします。
胸腺・脾・骨髄・リンパ節などの免疫担当器官へも自律神経が分布しています。自律神経はこれらの免疫器官の血管を支配し血流調節を司るのみならず、一部は免疫器官の実質に終わりリンパ球に直接作用して免疫反応を調節することが明らかになってきました。例えば、脾臓のNK細胞活性は交感神経活動によりアドレナリンβ受容体を介して低下します。このようにストレスによる交感神経の異常緊張は体の免疫力を低下させて癌に対する抵抗力も減弱させてしまうわけです。逆に笑いや精神的な安心がNK細胞活性を高めることも良く知られています。

【ストレスや攻撃的感情は血液循環を悪くする】 
ストレスは交感神経を刺激します。特に人に対してイライラするとか敵意や怒りを持つ状態では、交感神経は過緊張状態になります。このような状態では血液が固まりやすくなり、血管は収縮して組織の微小循環は悪くなります。
交感神経の末端から放出されるノルアドレナリンは細動脈の収縮を引き起こし、副腎から放出されるアドレナリンには血小板を刺激して粘着・凝集を促進する作用があります。血小板から出る血小板由来増殖因子は、血管壁の平滑筋を増殖させて動脈硬化を促進します。ストレス時には血中コレステロールが増加することが知られており、血液の粘稠度が増します。
このような攻撃状態の時に血液が固まりやすくなるのは、生理的には合理的なことです。相手と争ってケガをしたときに、血が早く固まるほうが有利であり、体の巧妙な仕組みでもあるのです。しかし、この仕組みが、ストレスによって心筋梗塞や脳梗塞が起こりやすくなる原因ともなっています。
ストレスによる情緒的失調は血液循環の障害の原因としても重要であり、この血液循環の障害は免疫力の低下の一因となります。

【ストレスによる免疫力低下を改善する漢方治療とは】
漢方医学では病気の原因を内因、外因、不内外因の3種類にわけていますが、そのうちでも特に内因を重視してきました。内因とは7種の感情(七情)の失調すなわち精神的原因を指しています七情とは「喜・怒・憂・思・悲・恐・驚」の七つの感情であり、これらの失調は生体内を循環する気・血・水に影響してこれらを損傷し、内臓諸器官の失調をきたすと考えています。これは現代医学での心身症の考えかたと同じです。
免疫力を高め、生体防御能を活性化する生薬として、高麗人参黄耆などの補気薬が代表です。これらの生薬が老化や病気によって低下した免疫機能を高めることが、多くの研究で明らかにされています。
特に高麗人参は、種々のストレスに対する非特異的な抵抗力や適応能力を高めることから、Adaptogen(適応促進薬)と呼ぶ研究者もいます。
また、霊芝冬虫夏草のようなキノコ由来の生薬も利用されます。これらの生薬に含まれるβ-グルカンなどの抗腫瘍多糖が免疫細胞を刺激する効果が知られているからです。
免疫力を高める漢方治療では、高麗人参や黄耆などの補気薬と、霊芝や冬虫夏草のようなキノコ由来の生薬の組み合わせが使用されています。さらに、血液循環や胃腸の状態を良くする生薬や、気の巡りを良くする生薬をうまく併用すると、さらに免疫増強効果を高めることができます。
つまり、免疫細胞を刺激する成分だけでは、効果的に免疫力を十分に高めることはできません。ストレスによって生じる情緒失調や血液循環の改善も重要であることは上記の説明で納得できると思います。

情緒失調は漢方ではの異常を考えます。気の巡りが停滞している状態を気滞といい、精神的な抑鬱や種々の臓器機能の失調や障害などにより引き起こされます。精神的あるいは肉体的なストレスは気滞の原因として重要です。
気滞を解決する手段として生薬の中に理気薬があります。理気薬には陳皮、木香、厚朴、香附子などがあります。
気を補う補気薬(高麗人参や黄耆など)は体力や免疫力を高めますが、気滞があるときに補気薬のみを使用すると気滞の症状を悪化させることがあります。川をダムで塞き止めているときに水の量が増えれば、水が溢れてくるのと同じで、詰まっているときに、量が増えれば、その詰まりは増悪するからです。
体力や気も充実しているような人に補気薬を過剰に投与すると、返って血圧が上がったりという副作用が出る可能性も指摘されています。補気薬を用いるときは、同時に気を巡らす方法も併用することが大切なのです。
また、血の巡りを良くすることも免疫力を高めるうえでは重要です。漢方薬では血の巡りが悪い状態を「オ血」という、オ血を改善する駆オ血薬が多く用意されています。(オ血のオはヤマイダレに於という漢方独自の漢字です)血液循環が良くなることによって、組織の新陳代謝が促進され、治癒力や免疫力が高まります。
胃腸の状態や睡眠を良くすることも、免疫力を高める上で無視はできません。
以上のように、肉体的や精神的なストレスがあるような状況で免疫力を高める場合には、補気・理気・駆オ血といった複数の効能を上手に組み合わせ、心身ともに体調を良くすることが大切であり、そのような総合的な治療ができる点が漢方治療の特徴であり、健康食品やサプリメントとの違いでもあります。
(文責:福田一典)


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