がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
73)漢方は非科学的か(2)

図:長い歴史の中での臨床経験の積重ねで発展してきた漢方理論や、多くの天然薬草(生薬)をくみあわせる漢方薬の作用機序を、細胞や遺伝子レベルで説明することは現代の科学のレベルでは困難である。したがって、「薬効成分や作用機序を科学的に証明しなければ正式の医療として認められない」という意見は適切ではない。
73)漢方は非科学的か(2)
【西洋医学が漢方治療や統合医療を拒否する理由】
がん細胞を攻撃する西洋医学の治療法と、体力や免疫力を高め自覚症状を改善することを目的とする漢方治療を併用すると、よりレベルの高いがん治療が実践できるように思います。このようながんの統合医療の有用性は多くの人が提唱し、たくさんのがん患者さんから受け入れられています。
しかし、実際の医療現場では、がん治療中の漢方治療の併用について拒否されることが多いのが実情です。
西洋医学を教育された医者の多くは、漢方薬の治療効果に懐疑的です。漢方治療を受けて「効いた」といっても、それはプラシーボ効果だとか、暗示効果だとか、偶然で片付けてしまいがちです。
「漢方は科学的でない」と言う医者もたくさんいます。漢方を少しは認める医師でも、「漢方の理論は納得できない」という感想をもっている人が多いのが実情です。
漢方を否定する西洋医学の医師たちは、治療効果を具体的に検討する前に、全否定の立場をとる場合がほとんどです。
「漢方薬が効いた? では何の成分が効いたのか説明できますか」「経絡? ではそれを見せてください」という質問をします。
唯物論を根拠とする科学的思考では、物質的に説明できなければ、それは『エビデンス(証拠、根拠)が無い』と片付けてしまいます。『科学的に証明されないかぎりは、漢方はいわゆる合法的な治療法とはなり得ない』というのが西洋医学の基本ですので、科学的なエビデンスの乏しい漢方治療を拒否するのは仕方の無いことかもしれません。
しかし、漢方のことを何も知らないで、ただ拒否するのはフェアではないようにも思います。漢方薬を服用すると肝臓障害が起こるからだめだと患者に説明する医者もいますが、批判するのであれば、漢方のことを十分に理解してから行うべきだと思います。
【西洋医学のいう「科学的」とは何か】
医学において「科学的」だと認められるためには、生理学や生化学や薬理学や病理学など西洋医学が認める知識と方法で作用メカニズムが説明でき、その有効性を統計的手法で証明する必要があります。科学的に証明されないかぎりは、漢方はいわゆる合法的なものとはなり得ないというのが現代医学の考え方です。
たとえ多くの症例で効果が確認されていても、どの成分がどのように効いているのかを「科学的」に証明できなければ、正当な医療と認めようとしません。
しかし、多くの薬草を組み合わせて作るような、多成分の天然薬物の作用メカニズムを証明することは現代科学では困難ですので、証明はできないことになります。
漢方が科学的か非科学的かという問題は、それが生理学や生化学や薬理学で証明できるのかという問題にすり替わっていますが、複雑な成分の相乗作用で効果を発揮する漢方薬の作用メカニズムを証明する研究手法が無いのが、漢方薬の研究が遅れている原因であることを理解しておく必要があります。
つまり、現在の科学や西洋医学のレベルでは、複雑すぎて漢方薬の効能効果を評価できないというのが、漢方薬の科学的解明が遅れている真の理由なのです。
漢方医学が数千年の歴史の中で生き残ってきた理由は、病気を治す効果が認められてきたからです。したがって、『たとええ治ったにしても、その理由が科学的に説明できなければ治療法としては認められない』という科学万能主義の論理は間違っています。科学が万能でないことは明らかだからです。
【科学で説明できない所に漢方薬の存在価値がある】
漢方では、長い歴史の中での治療経験から、治癒力を高めたり体のバランスを改善するための方法論を集積し独自の理論を体系化してきました。
漢方薬の使い方においては単なる経験だけでなく、漢方独自の理論があります。その漢方理論は科学や統計という手法がなかった数千年前に治療経験の積み重ねの中から体系化されたもので、科学の基準では理解できない点が多くあります。「観念的」「主観的」で経験的要素が多いため非科学的という批判を受けがちですが、治療経験を根拠とした治療体系には、現代科学の知識を超えた真理に基づいている可能性もあります。
ある理論に基づいて治療法が決められその結果病気が治るのであれば、漢方もある意味では理論的な医療体系といえます。むしろ、科学で説明できないものの中から、経験的に効果のある治療法を発展させてきた点に、西洋医学の限界を漢方治療が補うことができる根拠があるのです。
漢方医学では、体に備わった自然治癒力や生体機能のバランスを改善することによって病気を治すことを目標にしています。西洋医学は体の治癒力や生体機能調節作用を分析的に解明はしていますが、全体を視る視点がないため、漢方の効果を説明できないのです。つまり、体に働きかけて病気を治す漢方の理論は、生命機械論と要素還元主義を基本とする現代の分析的な科学の手法では証明が困難なのです。
墨絵と油絵との違いは何かというと、画材が墨か絵の具かという違いの他に「何をもって美とするか」という哲学の違いもあるはずです。同じように、西洋医学と漢方医学も、その哲学や価値観の違いを受け入れながら議論すべきだと思います。
少なくとも医学というものは、治療効果が経験的に認められるものであれば、全てを科学の言葉で証明する必要はないのです。
漢方を見るときには、「科学的」な視点ではなく、歴史的な視野とともに、実際に役立っているかという、現実を見据える視点を持つ必要があります。
「漢方は科学か否か」という論争は無意味なことであり、科学という唯一の物差しで漢方を判断することはナンセンスだと思います。
現代西洋医学の欠点を補う医学・医療法として漢方医学が評価されているのは、全く異なる生命観・疾病観を基盤としている点にあるからだと言う点に気付く必要があります。漢方医学には生化学や生理学による要素還元的な研究では見いだせない効果があることを理解しておくことが大切です。(文責:福田一典)
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