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242)がん患者の生命予後を決める血清アルブミン値とリンパ球数と炎症反応(CRP)

図:抗がん剤による正常組織のダメージ、栄養不良、感染症、がん細胞による組織破壊や炎症は、相互に作用して、体力や抵抗力や治癒力を低下させる。体重減少や、血液検査での低アルブミン、リンパ球数減少、CRP上昇は予後不良の指標となる。補気・補血や清熱解毒の効果を組み合わせた漢方治療は、これらの病態を改善することによって延命効果を発揮する。

242)がん患者の生命予後を決める血清アルブミン値とリンパ球数と炎症反応(CRP)

【体重減少は生存期間を短くする】
がんとの戦いにおいて最も重要で基本的なことは、体の栄養状態を良くすることです。栄養状態が悪いとダメージを受けた正常組織の回復が遅れ、がん治療による副作用に耐えることができなくなり、さらに感染症を起こしやすくなります。
体には病原菌やがん細胞に対する抵抗力や免疫力が備わっており、これを「生体防御力」と言います。手術や抗がん剤投与、精神的ストレス、栄養不全などが重なると生体防御力は低下していきます。生体防御力がある一定のレベルを超えて低下すると、もはやがんの進展を抑えることも、感染症を防ぐことも、生命を維持することもできなくなります。がん患者の死因の40%以上は、がんそのものによるものではなく、栄養不良による抵抗力の低下によるものだと言われています。
すなわち、栄養状態を良くすることは、生体防御力を高めてがんの進展を阻止し、さらに治療に伴う副作用を軽減し、感染症を予防し、治療効果を高めることができるため、延命につながるのです。
患者さんの栄養状態を総合的に評価する最も簡単な方法は体重です。体重減少は栄養不良を意味し、ほとんど全てのがんにおいて、体重の減少は生命予後(生存期間)を悪くする重要な要因となっています
例えば、栄養不良に陥った非小細胞肺がん患者では、体重減少度に比例して、生存期間が短くなることが報告されています。
抗がん剤治療を行う前の6ヶ月間に体重の減少があったか無かったかの2つのグループに分けて治療後の生存期間を比較すると、体重減少があったグループは、体重減少が無かったグループより生存期間が短いことが報告されています。
一般的に、診断前に 5% 以上の体重減少があれば、治療に対する反応が不良で、生存期間を短くすることを予測させます。
がん患者にとって体重減少を防ぐことは、治療効果を高め、生命予後を良くするために、最も重要な目標になります。そのためには、十分なカロリー摂取と、蛋白質や脂肪やビタミン・ミネラルの不足を防ぐことが大切です。

【予後栄養指数とは】
手術前の栄養状態を評価することは、手術の危険度を予測する上で極めて重要です。栄養状態が悪いと、術後合併症の発生率や手術後に死亡するリスクを高めることになります。そのような観点から、外科領域の患者において予後と関係が深い指標(血清アルブミン値、総リンパ球数、血清トランスフェリン、血清亜鉛、上腕三頭筋部皮厚、体重減少など)を使って、リスクを評価する予後栄養指数のようなものが様々提唱されています。その中で最も簡単なものが、小野寺時男博士が考案した予後栄養指数(Prognostic Nutritional Index: 略してPNI)です。
PNI は10×Alb+0.005×TLCの式で計算されます。
Albは血清アルブミン(g/dl)、TLCは総リンパ球数Total Lymphocyte Count(/マイクロリットル)です。
アルブミンの正常値(健常人の基準値)は3.8~5.3g/dlです。がん治療中の場合は、体力や免疫力を維持するためには4.0g/dl以上が理想です。
総リンパ球数は、白血球数にリンパ球の割合を掛けて計算します。白血球の正常値が3300~9000/マイクロリットルで、リンパ球の割合は20~50%程度です。総リンパ球数は多いほど免疫力が高いと言え、1500/マイクロリットル以上(できれば2000以上)あるのが理想です。1200未満は軽度低下、1200~800が中等度低下、800 未満は高度の低下と言えます。抗がん剤治療などがん治療の副作用で、500以下になることもありますが、リンパ球数が少ないと、抗がん剤治療の副作用が出やすく、効果が出にくくなります。
この小野寺の予後栄養指数では、40以下の場合は、消化管の手術(切除や縫合手術)は禁忌ということになっています。例えば、アルブミンが3.2で、総リンパ球数が1000の場合は、この計算式でPNI=10 x 3.2 + 0.005 x 1000 = 37となり、消化管の切除や縫合を行うと合併症を起こすリスクが高いので、手術はしない方が良いという評価になります。
低アルブミンは栄養状態が悪いことを意味し、リンパ球数が少ないことは免疫力が低下していることを意味します。このような状況で胃や腸を切除したり縫合するような手術を行うと、縫合不全や術後感染症を発症するリスクが高くなるということです。
このPNIはステージ4の消化器がんの予後の推定にも使用されています。この式でPNIが40以下は予後不良、35以下は60日以内に死亡する可能性がある、と考えられています。
50以上あれば栄養状態はあまり心配は無いと言えます。40以下の場合は、栄養状態を良くする必要があり、35以下の場合は、より積極的に栄養状態を改善しないと、栄養障害で亡くなる可能性があります。たとえば、アルブミン値が2.8で、総リンパ球数が800だと、PNIは32で、極めて予後が悪い状況と判断できます。この状態が改善できないと、余命は1~2ヶ月くらいということです。
進行がんや末期がんの漢方治療や食事療法においては、PNIを40以上に高めることが大きな目標になります。そのためには、食事の工夫やサプリメントによる補充で栄養状態を良くすると同時に、滋養強壮作用や肝臓でのアルブミン合成を高める作用などをもった生薬を使った漢方薬が役に立ちます

【がん患者の低アルブミンは栄養不良と炎症が関与】
血清(血液から赤血球や白血球など細胞成分を除いた液体成分)中には多くの種類の蛋白質が存在しますが、アルブミンは血清蛋白の50~60%を占める分子量が約66000の蛋白質です。血液の浸透圧の維持や、血液中の物質(ホルモンや薬剤など)の運搬、各組織へのアミノ酸の供給などの役割を担っています。肝臓で生合成されるため、肝機能の指標にもなります。
血清アルブミン値が低下する状態を低アルブミン血症と言い、腎臓疾患(ネフローゼ症候群など)で尿中にアルブミンが漏れる場合、肝硬変などの肝機能低下をきたす肝臓疾患によってアルブミンの合成が低下する場合、慢性的な栄養失調などによって起こります。血液の浸透圧を維持できないので、むくみ(浮腫)が起こります。
進行がんや末期がんで低アルブミン血症の起こす原因としては、栄養失調炎症が重要です。
がんの進行に伴い、正常組織の破壊などによって炎症が起こり、炎症性サイトカイン(IL-1, TNF-アルファ, IL-6など)が多く産生されます。この炎症性サイトカインは肝臓に働きかけてアルブミンの合成を抑制します。炎症性サイトカインは骨髄における造血機能を低下させるため貧血の原因にもなります。つまり、炎症性サイトカインが多量に産生されている状況では、栄養状態を改善するだけでは低アルブミンや貧血の改善は困難です。
がん患者における炎症反応の程度を示す指標として
CRP(C反応性蛋白)があります。CRP高値も予後不良の指標として有名です。
C-反応性蛋白(C-reactive protein=CRP)とは、体内に炎症が起きたり、組織の一部が壊れたりした場合に、血液中に現れる蛋白質の一種です。このCRPは、もともと肺炎球菌という肺炎を起こす菌によって炎症がおこったり組織が破壊されたりすると、この菌のC-多糖体に反応する蛋白が血液中に出現することからC-反応性蛋白(CRP)と呼ばれていました。しかし、肺炎以外の炎症や組織の破壊でも血液中に増加することがわかり、現在では炎症や組織障害の存在と程度の指標として測定されます。
CRPは炎症に対する生体反応として肝臓から産生されます。細菌感染症や自己免疫疾患(膠原病)、心筋梗塞、肝硬変、悪性腫瘍などにおいて、炎症や組織破壊の程度が大きいほど高値になり、炎症や破壊がおさまってくるとすみやかに減少します。そのため病気の活動度や重症度、あるいは病気の予後を知る指標として使われています。
手術後のがん患者や手術不能のがん患者などを対象に、CRPの血中濃度と予後との関連を検討した報告は多数あり、CRPの血中濃度とがんの進行度やがん患者の予後不良とは正の相関があることが示されています。すなわち、CRPが高いほど、予後が悪い(生存期間が短い)ことが多くの研究で明らかになっています。
CRPそのものは炎症の程度の指標ですが、CRPが高いということは炎症性サイトカインの産生が高い状態で、これはがん性悪液質の原因となり、その結果として低アルブミンや貧血の原因になります。低アルブミンや貧血の改善には、CRPが高い場合は炎症を抑えることが必要となります。

【悪液質に伴う栄養不良を改善する方法】
悪液質は、十分な蛋白質とカロリー投与によっても改善させることができない点が、単純な飢餓とは異なります。飢餓では、体重減少は貯蔵脂肪の涸渇と相関していますが、悪液質では、骨格筋と体脂肪の両方が失われます。
進行がん患者あるいは抗がん剤治療中の体力低下や倦怠感の治療を目的とした漢方治療では、滋養強壮薬が主に使われます。すなわち、体力や抵抗力を高める高麗人参(コウライニンジン)、紅参(コウジン)、田七人参(デンシチニンジン)のような人参(Ginseng)類や、黄耆(オウギ)、大棗(タイソウ)、炙甘草(シャカンゾウ)、当帰(トウキ)、熟地黄(ジュクジオウ)、枸杞子(クコシ)、女貞子(ジョテイシ)などの生薬を多く使います。このような生薬は補気・補血薬に分類されます。
また、抗がん剤によって低下した免疫力を高める目的で、霊芝(レイシ)、梅寄生(バイキセイ)、茯苓(ブクリョウ)、猪苓(チョレイ)などのサルノコシカケ科のキノコが多用される傾向にあります。このような滋養強壮薬は、ダメージを受けた細胞や組織の修復や回復を促進する目的では有効です。人参(Ginseng)類や黄耆には、肝臓のアルブミン合成を促進する作用もあります。
しかし、進行がんで組織の破壊や炎症莪強いような場合、つまりCRPが高い病態では、このような滋養強壮薬や免疫増強薬を多く使うと病状を悪化させる可能性も指摘されています。
免疫を高めるといわれる生薬や健康食品はマクロファージや単球を活性化して炎症反応を増悪させる可能性があるからです。
発熱、血中のCRP(C反応性蛋白)、フィビリノゲン、ハプトグロビンの濃度が高いときには炎症性サイトカインの産生が高いといえます。 IL-1,TNF-アルファは肝細胞に作用しCRPを誘導し、IL-6はフィブリノゲン、ハプトグロビンなどを誘導するからです。このような場合には、免疫細胞を刺激する治療よりも炎症を抑える治療の方が有効です。
炎症性サイトカインの産生を抑える治療として、西洋薬では、副腎皮質ホルモン、プロスタグランジンの産生を抑えるシクロオキシゲナーゼ阻害剤、TNF-アルファの産生を阻害するサリドマイドなどがあります。サプリメントとして魚の油のドコサヘキサエン酸(DHA)エイコサペンタエン酸(EPA)も有効です。DHAやEPAは抗炎症作用によって悪液質を改善すると同時に、がん細胞の増殖を抑える作用もあります。さらに、活性酸素やフリーラジカルを消去する抗酸化物質(ビタミンC、アルファリポ酸、セレンなど)の摂取も有効です。

漢方薬でも、抗炎症作用やNF-kBの活性阻害をもった生薬を使用することによって炎症性サイトカインの産生を抑える効果があります。そのような効果をもつ生薬として
清熱解毒薬があります。
漢方薬の「清熱解毒」という薬効を西洋医学的に解釈すると、抗炎症作用と体に害になるものを除去する作用に相当します。
体に害になるものとして、活性酸素やフリーラジカル、細菌やウイルスなどの病原体、環境中の発がん物質などが考えられますが、「清熱解毒薬」には、抗炎症作用、抗酸化作用、フリーラジカル消去作用、がん細胞増殖抑制作用、抗菌・抗ウイルス作用、解毒酵素活性化作用などがあります。
清熱解毒薬に分類される生薬としては、
黄連(オウレン)・黄ごん(オウゴン)・黄柏(オウバク)・山梔子(サンシシ)・欝金(ウコン)、紫根(シコン)、夏枯草(カゴソウ)・半枝蓮(ハンシレン)・白花蛇舌草(ビャッカジャゼツソウ)・山豆根(サンズコン)・板藍根(バンランコン)・大青葉(タイセイヨウ)・蒲公英(ホコウエイ)などがあり、感染症や化膿性疾患に使用されていますが、がん治療の副作用軽減と抗腫瘍効果増強にも有用な生薬です。
清熱薬の代表である黄連(キンポウゲ科オウレンの根茎)には、がんを移植したマウスの実験で悪液質改善作用が報告されています。その機序として、炎症性サイトカインの産生抑制やがん細胞増殖の抑制作用などが示唆されています。黄ごん(オウゴン)に含まれるフラボノイトや、ウコンに含まれるクルクミン、板藍根や大青葉に含まれるグルコブラシシンがNF-kBを阻害して炎症性サイトカインの産生を抑えることが報告されています。
感染症の治療に対して漢方薬は古くから使用されてきました。結核や肺炎や感染性胃腸炎による死亡が多かった昔は、このような感染症の治療のために漢方医学が発展してきたといっても過言ではありません。したがって、感染症や炎症性疾患に使われてきた生薬は、がんに伴う炎症や感染症や悪液質の治療にも効果が期待できます。
熱があったりCRPが高いときには、清熱解毒薬を主体にした漢方薬を使うことが大切です。免疫力を高める漢方薬一辺倒では、病状を悪化させることもあることに注意が必要です。
以上のように、体重減少や、低アルブミン、リンパ球数の低下、CRP上昇があるときは、これらの異常を改善することが延命につながります。食事からの栄養摂取を高めると同時に、適切な漢方治療は有用です。また、栄養素の補充としてマルチビタミン・ミネラル、必須アミノ酸の補充も有効です。栄養状態が悪く、PNIが40以下で生命予後が悪化しているときは、このようなサプリメントや漢方薬や医薬品を積極的に利用して、生命が危ない状況から脱することが大切です。

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