227)イノシトール-6-リン酸(フィチン酸)のキレート作用

図:ビタミンB群の一種のイノシトール(Inositol)の6個のヒドロキシ(OH)基が全てリン酸化されたのがイノシトル-6-リン酸(Inositol Hexaphosphate)で、フィチン酸とも呼ばれ、IP6と略記される。IP6はカルシウムやマグネシウムと結合した「フィチン」という形態で、穀物の糠や種子に多量に含まれている。IP6は金属とキレートして結合する作用が強く、体内の有毒なミネラルの排泄を促進する効果が知られている。「キレート」とは「カニのはさみ」を意味し、カニが両方のはさみで物質を捕まえる姿がイメージされている。IP6とイノシトールを組み合わせたサプリメントは、免疫力や抗酸化力や解毒力を高める効果が報告されている。


227)イノシトール-6-リン酸(フィチン酸)のキレート作用


【イノシトールとIP6(イノシトール-6-リン酸)】
イノシトール(Inositol)は6個の炭素からなるシクロヘキサンの各炭素上の水素原子がヒドロキシ(OH)基に置き換わった構造の物質で、生体内でブドウ糖から生合成され、生体成分として広く存在し、特に穀物の糠(ぬか)や豆に多く含まれています。細胞成長に必要はビタミンB群の一種と考えられており、抗脂肪肝作用が知られています。食品添加物(強化剤)として使用が認められています。
このイノシトールの6個のヒドロキシ(OH)基が全てリン酸化されたのが、
イノシトール-6-リン酸です。イノシトール-6-リン酸は別名フィチン酸と呼ばれ、組成式は C6H18O24P6 で、IP6と略記されます。穀物の糠や種子など多くの植物組織に存在する主要なリンの貯蔵形態です。
穀物の糠には、イノシトール-6-リン酸(IP6)がマグネシウムやカルシウムと強く結合(キレート)して存在します。マグネシウムやカルシウムとキレートした状態(フィチン酸のカルシウム・マグネシウム混合塩)を
フィチン(Phytin)と言い、水に不溶性です。米ぬかにはフィチンが10%以上含まれています。
米ぬかに多く含まれるフィチンから、マグネシウムやカルシウムなどの金属イオンを除去して精製したIP6がサプリメントとして使用されています。
以上のことから、イノシトール-6-リン酸(IP6)が強いキレート作用をもち、金属イオンと強く結合することが理解できます。玄米を多く食べるとカルシウムや亜鉛や鉄などのミネラルの吸収が妨げられてミネラル不足になると言われているのは、米ぬかに多量に含まれるフィチン酸がこれらの金属(ミネラル)と結合して吸収を妨げるためです。また、サプリメントとして販売されているIP6が体内の有毒なミネラルの排泄促進に役立つ根拠も、その強いキレート作用によります。

【キレートとは】
キレート(chelate)という言葉は、ギリシャ語の「カニのはさみ」から派生した言葉です。カニのはさみのように物質を挟み込むことを「キレート化する」と言います。
有毒なミネラルをキレート剤で挟み込んで排出を促進する場合で使用されることもありますが、逆に、吸収されにくい必須ミネラルを挟み込んで、小腸から吸収してくれるという働きで使う場合もあります。ミネラルの吸収を促進するためのキレート化は後者です。ミネラルは単独では吸収が悪いので、アミノ酸などでキレート化した製品が米国では主流になっています。動物では小腸の上皮細胞からミネラルなどの栄養を吸収していますが、水にイオン化したミネラルはそのままでは小腸からの吸収は極めて悪いことが知られており、アミノ酸などと結合しキレート化されることによって吸収が促進されるのです。
これとは逆に、体内に吸収された有毒な物質を体外に排泄する目的でキレート剤が使われています。米国等では「
キレーション療法」という方法が有毒ミネラルを体外に排泄するデトックス療法として盛んに行われています。キレーション療法とは、金属をキレート化するEDTAという薬剤を点滴し、このEDTAが水銀や鉛などの重金属とキレート化して結合し、体外への排泄を促進して血液を浄化する方法です。金属性の必須ミネラルも一緒に排泄されるので、不足する必須ミネラルをサプリメントで補充すれば、差し引き勘定で、有毒ミネラルが減ることになります。米国ではすでに50年の歴史があり、1日に数十万人が受けているといわれています。
点滴のキレーション療法よりもっと簡単で経済的な方法として、
IP6(フィチン酸)のサプリメントが役立つ可能性が検討されています。
ウラニウムのような放射線物質による放射線被曝の治療法としてIP6の可能性を検討した研究報告があります。

【IP6はウラニウムをキレートして体外への排泄を促進する?】
IP6(イノシトール-6-リン酸)が放射線物質のウラニウムに対して強い結合能(affinity)を持つことを報告した論文を以下に紹介します。









Inositol hexaphosphate: a potential chelating agent for uranium(イノシトール-6リン酸:ウラニウムのキレート剤としての可能性)Radiat Prot Dosimetry (2007) 127 (1-4): 477-479.

【要旨】
放射線被曝に関連した危険性を低減する方法としてキレート療法は有効な治療法である。
ウラニウムの体内取り込みに対して、今までは1.4%炭酸水素ナトリウム(sodium bicarbonate)の点滴が治療に使用されていた。しかし、有効性はそれほど高くはなかった。この研究では、ウラニウムの体外排泄に有効な物質を探索する目的で、炭酸水素ナトリウム、クエン酸、ジエチレントリアミン5酢酸、エチドロン酸、イノシトール-6-リン酸について、ウラニウムをキレートする作用を検討した。
その結果、検討したキレート剤の中で、イノシトール-6-リン酸(フィチン酸)がウラニウムに対して最も強い親和性(affinity)を示した。したがって、イノシトール-6-リン酸はウラニウムを体外から排泄するキレート剤となる可能性が示唆された。



(解説)
ウラニウム(ウラン)は核燃料として原子力発電に利用されている元素です。原子力発電はウラニウムの核分裂でエネルギーを得ています。原子力発電所では、ウラニウムはジルコニウムという金属によって被われているため、通常はウラニウムが原子炉の外に漏れ出ることはあり得ません。
今回の福島原発の事故では、すでに原子炉近辺の土壌からウラニウムが検出され、これは、それは炉心の核燃料棒が融解を起こし、ウランを含んだ水蒸気が大気中に放出されていることを意味しています。
ウランは体内被曝を引き起こします。
原子力発電所の事故などで飛散したウラニウムは、吸入して肺から取り込まれたり、傷口から体内に取り込まれ、血中に入り、一部は尿から排泄されますが、腎臓や骨に沈着して長い期間体内被曝を引き起こします。ウランの放射能の半減期は数億年ですので、体内に沈着すれば、体内被曝は一生続くことになります。
ウラニウムが体内に入った場合の治療法としては、キレート剤を使用して臓器や組織に沈着したウラニウムの尿中への排泄を促進する方法があります。
ウラニウムのキレート剤として、炭酸水素ナトリウムがあります。炭酸水素ナトリウムを投与すると尿のpHが上昇し(アルカリになる)、ウラニウムイオンは炭酸水素ナトリウムと結合して複合体を作り、尿中に排泄されます。しかし、炭酸水素ナトリウムの治療の効果はあまり高くありません。
そこで、ウラニウムに対してさらに効果が高いキレート剤が必要です。様々なキレート剤が研究され、その効果が試されていますが、現時点で人間での効果が期待できるものはありません。
この論文では、イノシトール-6-リン酸がウラニウムと強く結合(キレート)することを示し、このイノシトール-6-リン酸(フィチン酸)のキレート作用がウラニウムの体外排泄の促進に効果が期待できる可能性を報告しています
イノシトール-6-リン酸は天然ではカルシウムやマグネシウムをキレート作用によって強く結合しています。このような金属に対する強いキレート作用がウラニウムやその他の有害なミネラル(放射線物質も含めて)にも利用できる可能性があります。したがって、IP6を多く摂取しながら、IP6のキレート作用で不足するかもしれない必須ミネラルをサプリメントで補うというのは、放射能汚染の一つの対策として有効性が期待できそうです。

【IP6 & Inositol】
食物繊維の豊富な食事はがん予防効果があることが報告されていますが、その理由の一つは、食物繊維に含まれるIP6に抗がん活性があるからだと言われています。
IP6は抗酸化作用や免疫力増強(ナチュラルキラー細胞活性の増強)、金属に対する強いキレート作用によって、がん予防効果や美容や健康増進効果が示唆されています。
IP6はイノシトールとの同時に摂取したほうが効果が吸収されやすく、さらに抗がん作用が強くなるので、IP6とイノシトールを混ぜたサプリメントががんの予防や治療の目的のサプリメントとして販売されています。
米国のメリーランド大学医学部病理学のシャムスディン教授は、IP6とイノシトールを一緒に摂取するとその効果が高まること、とくにIP-6とイノシトールが4:1で含まれる商品がもっとも抗がん活性が高いこと明らかにし、特許を取得しています。
IP6は穀物やマメ類に豊富に含まれていますが、IP6をサプリメントとして摂取することは幾つかの利点があります。
まず第一に、穀物やマメ類に含まれるIP6は、蛋白質やミネラル(カルシウム、マグネシウム、カリウムなど)と結合して複合体を形成し、水に不溶性で消化管からの吸収が悪い状態で存在しています。したがって、食物繊維の形で摂取してもIP6はほとんど体の中に吸収されません。精製したIP6は、食物繊維中のIP6より極めて吸収が良いことが多くの研究で明らかになっています。
さらに、IP6はがん細胞にいち早く取り込まれることが知られています。これはIP6が抗がん作用を発揮する理由でもあります。動物の発がん実験では、食物繊維を多く与えるとがんの発生が低下することが報告されています。その食物繊維に含まれるのと同じ量のIP6を与えると、さらにがんの発生を抑制する効果が高まりました。
前述のように食物繊維に含まれるIP6は生体に利用されにくいので、純粋な形でIP6を摂取する方が抗がん活性が高いのです。食物繊維の豊富な食事を取ることは大切ですが、それに加えてIP6をサプリメントとして摂取することは抗がん力を高める上で意義があります。
イノシトールはビタミンB群の一種であり、IP6の抗がん作用と免疫力増強作用を著明に高めます。イノシトールと適切に組み合わせると、IP6は体内で2分子のIP-3に変換されることが報告されています。
イノシトールはIP6の骨格構造であり、リン原子が結合できる炭素原子を6個持っています。これらの6個の炭素原子が全てリン酸エステル化したものがIP6です。6個の炭素原子のうち3個のみがリン原子と結合したものがIP3と呼ばれます。IP-6の抗腫瘍活性に関わっているのは実はこのIP3であると考えられています。
培養癌細胞を持いた研究で、IP3は癌細胞増殖のon/offを調節するスイッチの役目を果たしていることが明らかになっています。細胞内のIP3の濃度が低い時には、その細胞はコントロールを失って増殖します。これはがん細胞の特徴です。がん細胞をIP3の豊富な培養液に入れると増殖を止めます。これは、IP3が細胞の増殖や細胞間コミュニケーションなどの重要な細胞機能を調節する中心的役割を果たしていることを意味しています。シャムスディン博士は、体内でのIP3が効率的に生成されるために必要なIP-6とイノシトールの比率を4:1で投与した場合がもっとも抗がん活性が高いことを示しています。
IP-6とイノシトールの組み合わせは、抗酸化作用と免疫力増強作用の効果を持つことが報告されています。特に、がん細胞に対する免疫力の中心であるナチュラルキラー(Natural killer)細胞を活性化する作用があります。ナチュラルキラー(NK)細胞というのは白血球の一種であり、がん細胞やウイルスや多くの感染微生物などを殺す役目を果たすので、このような名前がつけられています。ナチュラルキラー細胞はがんや感染症から体を守る重要な役割を果たしている細胞です。
IP6とイノシトールを4:1で組み合わせたサプリメントは、抗酸化力と免疫力を高める効果が強いので、放射線被曝による発がんを予防する効果があります。また、IP6は体内に吸収されたウラニウムとキレート(結合)して体外に排泄する効果も報告されています。したがって、放射線に被曝した場合にIP6&Inositolを服用すると、放射線被曝に起因する発がんを予防する効果が期待できます
(IP-6 & Inositolのサプリメントについてはこちらへ

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