226) CT検査による発がんリスクを低減する漢方治療

図:CT検査は放射線被曝量が高いので頻回の検査は新たながんの発生リスクを高める。がん生存者にとっては不要なX線検査を避けると同時に、放射線被曝の害を軽減するための対策(漢方治療や抗酸化性サプリメント)も必要である。


226) CT検査による発がんリスクを低減する漢方治療


【CT検査による放射線被曝量はどれくらいか】
今回の大地震(東北地方太平洋沖地震)に被災した福島第一原子力発電所からの放射性物質(放射能)漏れによる放射線被爆が問題になっています。例えば、福島県内を中心に大気中の放射線量が高い状態が続いており、3月14日から21日の7日間の積算放射線量が福島市で1770マイクロシーベルト、いわき市で299.7マイクロシーベルト、宇都宮市で34.1マイクロシベルトに達したという新聞報道がありました。(ただし、これは24時間屋外にいた場合の数値で、屋内にいればこれらの数値はかなり少なくなります)
日本人が浴びる1週間分の自然放射線量の平均値(29マイクロシーベルト)を上回ったということで、放射能汚染が問題になっています。
シーベルトというのは人体への影響を考慮した放射線被曝量の単位です。数値が大きいほど人体への害が大きくなります。1ミリシーベルトは1000マイクロシーベルトです。
宇宙線や地球からの放射線によって、普通の生活を行っていても、世界平均で1年間に一人当たり2.4ミリシーベルト(2400マイクロシーベルト)の放射線を浴びていると言われています。日本ではラドンなど気体の放射線物質が少ないので年間約1500マイクロシーベルト、ブラジルやイランでは地域によっては年間1万~2万マイクロシーベルト(10~20ミリシベルト)の自然放射線を浴びている所もあるそうです。
高い所にいくと宇宙線を浴びやすいので、東京とニューヨークを飛行機で往復するだけで200マイクロシーベルトを被曝します。
このようなことから、1週間に100マイクロシーベルト(1年間で5000マイクロシーベルト=5ミリシーベルト)くらいはほとんど問題無いということになります。
国立がん研究センターは「現状では原子炉での作業者を除き住民に健康問題はなく、食品や水も十分すぎるほど安全といえる」とする見解を発表しました。政府も「直ちに健康には影響しない」と言っています。確かに、現状では、放射能漏れによる被曝(大気や野菜や水道水などからの放射線被曝)は、多く見積もってもせいぜい年間数ミリシーベルト以下であり、発がんリスクが高くなるレベル(200ミリシーベルト以上)からはかなり低いと言えます。
病院で放射線治療にあたる技師の年間被曝上限は50ミリシーベルトで、放射線影響協会によると、200ミリシーベルト以下では人体への影響が臨床例でほとんど報告されていない、がんになる確率はほとんど増えないと言っています。
さて、問題は、福島原発の事故のことではなく、「CT検査による放射線被曝が心配だ」という相談が私の所に複数寄せられてきたことです。
上記の福島原発事故による放射能汚染が極めて少ないということを説明するときに、テレビなどの解説では、「CT検査1回で6.9ミリシーベルトを被曝するので、原発事故による放射線汚染はほとんど問題ない」というようなコメントがなされています。
一般の人は、「病院で受ける医療行為であるCT検査が人体に害があるはずは無い」→「CT検査で受ける放射線の量に比べると福島原発事故による大気汚染の放射線量は極めて少ない」→「したがって、原発事故による大気汚染は問題ない」という3段論法に納得しているのかもしれません。
しかし、これは、「CT検査で受けている放射線量が人体に影響ない(害を及ぼさない)」という前提で成立つ説明です。しかし実際は「CT検査は発がんリスクを高める可能性がある」というのが医学界の常識です。体に害はあっても、医療上のメリットがあるからCT検査が行われているわけで、CT検査そのものが安全というのは間違いです。CT検査の被曝量を比較に持ち出すのは、政府やメディアによる世論操作の意味合いもあるのかもしれません。
胸部X線撮影で50マイクロシーベルト、胃のレントゲン撮影(バリウムを飲む上部消化管撮影)で1回4000マイクロシーベルト(600マイクロシーベルトという記載もある)、胸部CTは1回で4.6~10.8ミリシーベルト、腹部CTは1回6.7~13.3ミリシーベルトという報告があります。
CTは撮影する部位や機械によって異なりますが、概ね1回で5~15ミリシーベルト(5000~15000マイクロシーベルト)、がんの検査では胸部と腹部両方を検査することが多いので、この場合だと1回で20ミリシーベルト(20000マイクロシーベルト)を超えることもあります。Wikipediaの解説では胃のレントゲン検査は1回4ミリシーベルト、CT検査1回で7~20ミリシーベルトとなっています。
国際放射線防護委員会が勧告している被ばくの上限値(自然放射線を除いた数値)は、一般公衆の線量限度は1年間に1000マイクロシーベルト(1ミリシーベルト)で、放射線に関連する業務に従事する人は5年間の平均が1年間に20000マイクロシーベルト(20ミリシーベルト)となっており、ある年に20000マイクロシーベルトを超えても他の年に下回っていて5年間の平均で20000マイクロシーベルト/年を超えなければよいという勧告になっています。
CTよりもずっと放射線量の低い胸部レントゲン(50マイクロシーベルト)でも、定期健診などで「妊婦や妊娠している可能性のある方」は受けないようにという注意が促されます。
したがって、CT検査で浴びる放射線量(1回で10~20ミリシーベルト)というのは、年に2~3回程度であれば、それほど問題ありませんが、頻回に受ければ、安易に無視できるレベルでは無いと言えます。

【CT検査による放射線被曝とがんの発生リスク】
放射線ががんの発生リスクを高めることは良く知られています。がんの放射線治療では晩期の副作用(後遺症)としてがんの発生があります。
一般的には、100ミリシーベルト以上の蓄積でなければ発がんのリスクは上がらないと考えられています。危険が高まると言っても、100ミリシーベルトの蓄積で0.5%程度という記述もあります。人間は一生の間に約50%の確率でがんを発症しますので、それが50.5%になる程度だからほとんど無視できるという解説もあります。
短期間に数百ミリシーベルトを被爆するとがんの発生率は高くなりますが、同じ量の被爆でも数年かかる場合には、発がんリスクはほとんど上がらないと考えられています。放射線でダメージ(変異)を受けたDHAが修復するからです。
しかしそのような推測とは別に、通常のエックス線検査ががんの発生を高める事実が複数の疫学研究で明らかになっています。
例えば、2004年の英国からの論文(Lancet 363:345-351, 2004)では、「英国を含む15カ国を調査対象に、各国のエックス線検査の頻度、放射線被ばく量と発がんの危険性などのデータから75歳までにがんを発症する人の数を推定したところ、日本では年間発症するがんの3.2%が医療機関でのエックス線検査(CT検査を含む)による被ばくに起因すると見られ、他の14カ国における割合(0.6-1.8%)と比べて突出して高くなっている」と報告されています。
発がんの原因としてタバコと食事がそれぞれ30~35%を占めていますので、放射線による発がんへの寄与が2~3%程度というのは、がんの原因としては低いことは確かです。しかし、年間一人当たりの自然放射線量は日本では1.5~2ミリシーベルトくらいですが、日本国民一人当たりの医療被曝(エックス線検査など)は1年間の平均で2~3ミリシーベルトと言われており、自然放射線量よりも医療被曝の方が多いことが問題視されています。
また、米国では2007年に7200万件のCT検査が実施され、これらの検査による放射線被曝によって将来約29000例のがんが発生する(このうち約半分ががんで死亡)という推計が報告されています。これは米国のがん罹患数(2008年)140万例の約2%に相当します。CT検査の部位によるがん発生数の内訳は、腹部と骨盤部からが14,000例で最も多く、胸部からが4,100例、頭部からが4,000例、胸部CT血管造影からが2,700例などです。また、臓器によるがん発生数の内訳は、肺が6,200例で最も多く、結腸が3,500例、白血病が2,800例などと推計されました。 (Arch Intern Med, 169:2071-7, 2009)
この論文の考察の中には、1回のCTスキャンで10ミリシーベルトの被曝を受け、被曝によるがん死亡は2000回のCTスキャン当たり1例になるという推計が記載されています。この割合だと、20回のCT検査を受けても、放射線被爆に起因するがんが発生して死亡する確率は1%増える程度という計算になります。
普通の生活をして一生の間にがんで死亡する確率が30~40%程度ですので、20回のCT検査を受けると30%の確率が31%になる程度なので、それほど大きな数字とは言えません。
したがって、CT検査の放射線被曝による個人レベルの発がんリスクは小さいという意見は間違ってはいないのかもしれません。しかし、多数のCT検査が行なわれれば、集団レベルでの発がんリスクは無視できない大きさになる(全体のがんの2%)と言えます。少なくとも、日本や米国では、発生したがんの2~3%がエックス線検査に依るものであるのは確かなようです。
今月報告された論文では、心筋梗塞の患者は検査や治療(心臓カテーテル検査など)で一人1年に5.3ミリシーベルトの医療被曝を受けており、その被曝によるがん発生への影響を計算すると、10ミリシーベルト当たり5年間の追跡でがんの発生率が3%上昇するという推計が報告されています。(CMAJ, March 8, 2011, 183(4))
CT検査も回数が増えれば、個人単位でも無視はできない発がんリスクとなります。
がんの患者さんにとっては、原発事故よりCT検査の方が発がんリスクを高める要因として注意が必要です。今回の原発事故による大気や食品や飲料数の放射線汚染によって、がんの発生率が高くなる可能性は低いと言うことを示すために、テレビや新聞などのメディアが盛んにCTによる放射線被曝量を比較の対象にしているのは、逆の意味でCT検査の発がんリスクが心配になってきます。
ちなみに、タバコを1日20本吸っている人はCTを毎週1回受けている以上の発がんリスクになると思います。したがって、タバコを吸っている人は、原発事故による被曝もCT検査の被曝もほとんど無視できます。放射線被曝を心配するよりタバコを止める方が先です。
また、CT検査が多く行われる理由の一つに、病気の見逃しによる訴訟を恐れるために、医療機関が過剰に検査している、あるいは患者側が検査を要求しているという事情もあるようです。CT検査の放射線被爆が、発がんリスクの観点から無視できないということを思い出させた点では、今回の原発事故で、CT検査の放射線被曝量が比較対照にされたのは良かったかもしれません。


【放射線被曝による発がんリスクを低減する漢方治療とサプリメント】
がんの一次予防では、食事だけで発がんのリスクを30%くらいに減らすことができます。がんの再発予防でも、野菜や果物や豆類を多く摂取する食事で、再発を半分近く減らせる結果も報告されています(効果が無いという報告もあります)。頻回のCT検査で発がんリスクが数%上昇しても、がん予防の方法を実践すれば、そのリスクをほとんど減らすことは可能かもしれません。
放射線の生物作用を抑制する薬剤を放射線防護剤(radioprotector)といいます。
まず、放射線がなぜ発がんリスクを高めるのかを理解すれば、その対策が明らかになっています。
放射線は、細胞内の水と反応して、ヒドロキシラジカルという活性酸素を発生します。このヒドロキシラジカルは反応性に富むフリーラジカルであるため、遺伝子(DNA)と反応して遺伝子変異を引き起こし、この遺伝子変異によってがん細胞が発生します。
したがって、ヒドロキシラジカルを直接消去する抗酸化剤や、フリーラジカルを消去する細胞内の抗酸化酵素(SOD,カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼなど)の産生を高め、細胞や組織の抗酸化力を高めると、放射線による遺伝子変異を防ぐことができます。
フリーラジカルを消去する抗酸化剤としては、ビタミンCアルファリポ酸コエンザイムQ10などがあります。また、漢方薬に含まれるポリフェノール(フラボノイドなど)も放射線による遺伝子変異を防ぐ効果があります。
アルファリポ酸は体内にある補酵素で、強力な抗酸化物質です。アルファリポ酸が放射線障害から組織や臓器を保護する効果が動物実験などで確かめられています。チェルノブイリ原発事故でも汚染地区に住んでいた子供にアルファリポ酸を1 日 200~400mg の経口投与 が行われ、白血球機能の正常化や、腎臓や肝臓機能の改善が報告されています。
抗酸化酵素の産生を高めるサプリメントとしてはセレンが有効です。
(アルファリポ酸とセレンのサプリメントについてはこちらへ
放射線障害からの保護作用が報告されている生薬の代表は高麗人参です。高麗人参はストレスに対する抵抗力を高めるアダプトゲンの代表で、含まれる人参サポニンのジンセノサイドには、抗酸化作用や免疫増強作用があります。免疫増強作用は発がん予防にも有効です。
致死量に近い量の放射線をマウスやラットに照射する実験で、高麗人参を照射前や照射直後に服用させると、生存率を著明に高める結果が多数報告されています。
抗酸化作用と免疫増強作用があるチャーガ(カバノアナタケ)も放射線障害の予防に有効です。
がんの放射線治療の副作用軽減に有効な漢方薬(十全大補湯など)が知られています。このような漢方薬を基本にしながら、抗酸化力や免疫力を高める生薬(霊芝、チャーガなど)やサプリメント(ビタミンC,アルファリポ酸、コエンザイムQ10、セレンなど)などを併用すると、CT検査などによる放射線被曝に伴う発がんリスクの増加を抑えることができます。一種類の抗酸化サプリメントを摂取するのでなく、複数の抗酸化サプリメントや漢方薬を併用することで放射線障害に対する保護作用を増強することができます。例えば、高麗人参、黄耆、当帰、チャーガ、霊芝、などを組み合わせた漢方薬、抗酸化性サプリメント(アルファリポ酸、コエンザイムQ10、ビタミンC、セレンなど)、放射線治療の副作用軽減効果が報告されているメラトニン、セフェランチンなどの併用は放射線治療や頻回のCT検査などによる2次がんの発生予防に有効だと言えます。
原発事故による放射線被曝とCT検査による被曝との違いは、CT検査はそれを実施して得られる医療上のメリットがあることです。原発事故による被曝はデメリットのみです。
検査することによってがんの早期発見につながれば、がんによる死亡数を減らすことができます。がん治療後も再発を見つけて早めに治療するためには定期的なCT検査はメリットがあります。このようなメリットが、放射線被曝によるがん発生率の上昇というデメリット(危険性や害)に勝る場合は、CT検査は受ける方が良いと言えます。しかし、放射線を使わない検査(MRIやエコーや腫瘍マーカー検査)をうまく活用しながら、CT検査を減らす努力も必要かもしれません。そして、必要なCT検査のデメリット(発がんリスクの上昇)を予防するために、野菜や果物などの抗酸化作用の豊富な植物性の食事を増やし、場合によっては、抗酸化力や免疫力を高め、がん予防効果のある漢方薬やサプリメントの利用は有効だと思います。
がんの漢方治療は、標準治療の副作用軽減や末期がんの緩和治療だけでなく、再発や2次がん(抗がん剤や放射線治療や検査による放射線被曝などに起因する新たながんの発生)の予防にも有用な効果を発揮します。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 225)『新しい... 227)イノシト... »