kenroのミニコミ

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少しでも長く現役でいてほしい  熊川哲也「海賊」

2010-03-07 | 舞台
「海賊」は熊哲のオハコで、数年前行ったところ熊哲が直前に足を負傷し、急遽代役で公演されたことがあり、とても残念だったことを覚えている。
 今回初めて会う熊哲の「海賊」はさて。
 イギリスの詩人バイロンによるロマン主義物語の原作とは大分違うようであるが、もともとイギリス、西欧のアラブ観、ユダヤ観がかいま見えるオリエンタリズム性は致し方ない面もある。そしてDVDで見たキーロフ・バレエ団のそれはその特徴が強く出ていたが、熊哲の「海賊」はそれがかなり薄められていて、かつコンパクトである。キーロフ版が3幕であるのに対し、2幕構成である。ただし上演時間は熊哲版の方が長いようである。
本演のもっとも面白いところは男性ダンサーによる群舞。コール・ド・バレエといえば、女性ダンサーが定番でその美しさがウリの作品も多い中で、海賊は男性集団であるから男性による群舞。当たり前と言えば当たり前であるが、意外なうれしさと言ったらいいだろうか、通常の女性コールドのようなアラベスクが延々と続いたりせず、コミカルかつアグレシッブである。これら振り付けを考えるのが熊哲の仕事。バレエの基本的動きに加え、側転や相方を乗せるような動作までするまるでアスリートさながらである。
 開演当初おとなしい振り付けだなと思っていたら、どんどん激しくなってくる。そしてメドーラを演じた荒井祐子とアリ役の熊哲の超絶技巧も楽しめる。クラシックを引退した草刈民代がビルエット(回転)する時、音楽に合わせて速さを保とうとすると軸足が大きくずれてしまい、己の体力的限界を感じたからとテレビでしていた。荒井の軸足はもちろんずれない、すばらしい速さだ。そして熊哲。男性の場合はグランド・ビルエットと言うらしいが、足を大きく水平に上げたままコマのように回る様は熊哲ももちろん超絶技巧の持ち主で、かつ38歳とは思えぬ動きだ。しかし、望遠鏡でよく見ると踊った後の熊哲の肩が震えていた。それはそうだろう、この熊哲の回転をいつまで見られるか。
 知人の熊哲ファンが、ジャンプしたとき、後ろの男性ダンサーの誰より高さが足りなかったと指摘していたが、それでもよい。美しかったから。
 そしてダンサーとしては決して大きくない熊哲が、イギリスで大きな西洋人バレリーナを持ち上げてきたことを思えば、日本人バレリーナのリフトなどそれほどでもないのかもしれない。しかし、現役を続ける限りはまた見てみたいと思う。
 
 

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