日本は、2070年には人口が現在の約7割の8700万人、うち外国人が1割になるとの予測が出た。移民政策であれ外国人の増加を快く思わない人たちはショックを受けているとも。技術を教えるどころか、日本人がしたがらない3K職場で使い捨てる実態の技能実習制度の本質がばれ、日本に来る外国人が本当に増えるのか。それほど魅力のある国であり続けるのか。
「ウィ、シェフ!」は現代のおとぎ話である。自分ひとりの力で有名レストランのスーシェフまで上り詰めたカティ・ラミーは、オーナーと喧嘩してクビに。すぐに雇ってもらえると考えていたが、やっとありつけた職場は移民少年らが滞在する寮の料理人。ラビオリの缶詰しかない調理場で掃除もきちんとできていない。施設長からは「飾りつけ、味付けは要らない。量があれば良い」と言い渡される始末。ゲームやサッカー以外には無為の時間を過ごす少年らを、調理助手としてマネジメントする立場になったカティにムラムラと意欲が沸き起こる。食材の選び方から、調理の基本など、それらにまつわってフランス語もメキメキ上達する少年たち。そして、カティが因縁あるレストランと対決する番組で少年らの不安定な立場を訴えることに。
実は、あながちおとぎ話ばかりでとは言えない。フランスの移民割合はすでに約12%。しかも「移民」の定義が「外国生まれで外国籍を持ち、フランス国内に在住する人々」であって、日本の在日韓国人のような存在はカウントされないので、実際にフランス以外にルーツを持つ人はもっと多いだろう。少年たちの将来は過酷だ。18歳時点で職業訓練学校に入れないと強制送還されるからだ。彼らの年齢は厳密に調べられる。骨年齢をCT検査で解析し、18歳を超えているとされたら送還対象になる。「故郷では料理は女がする。男は女に指図されない」とカティに言い放ったジブリルは、教室から追い出されてしまう。しかし、寮の規則正しく、謹厳な生活を離れた移民の少年らにある現実はヤクの売人など違法なものばかりだ。サッカーでクラブからスカウトされることを夢見るジブリルはやがてカティの重要な調理補助となる。コートジボアールに、コンゴ、パキスタン。命からがら祖国から逃げてきた難民ではないが、彼らの肩には故郷の両親らの期待が背負わされている。だから必死なのだ。それを受け入れ、統合に費用をかけ、また統合できないと強制送還するフランスの政策はある意味、寛容で合理的でもある。トリコロールの赤と白を体現しているということか。
トルコで迫害されているクルド系をはじめ、ドイツにはシリア難民その他が押し寄せている。ロシアのウクライナ侵攻後にはそれも含まれる。ドイツでは、移民・難民に徹底的なドイツ語教育を無料で施し、ある程度の理解力まで得られないとやはり送還する政策とも聞いたことがある。正確なところは不明だが、仏・独とも地続きの欧州諸国では、かくも移民対応に時間も人出も割いている。人権的観点から。
翻って、日本で移民少年らに希望を与えることができるだろうか。そもそも、児童養護施設育ちのカティに自ら切り拓く道を用意しただろうか。入管施設で医療も受けられず亡くなったスリランカ女性、死産したことで刑事責任を問われたベトナム人技能実習生。おとぎ話以前の酷薄な現実がこの国の実態だ。