kenroのミニコミ

kenroが見た、読んだ、聞いた、感じた美術、映画、書籍、舞台、旅行先のことなどもろもろを書きなぐり。

夕凪の町 桜の国

2007-08-26 | 映画
 違和感があった。映画の中身にではない。本作を東京都知事が「推奨」していることと、現在の広島の平和教育の状況が世良高校校長の自殺以降かなり悪くなっているにもかかわらず「広島」が舞台になっていることを。「強い」日本を求め、自衛隊を都心に闊歩させ、軍国化を指向する石原慎太郎都知事もまた「平和教育」を敵視する人であるからだ。
 石原知事から「推奨」を受け、沖縄戦で軍隊が住民を自死させた事実を教科書から削除した文部科学省の特選を受け、また広島県教育委員会からも後援を受け入れることが作品の唯一の弱さと言えるかもしれないが、画面に現れる皆実のフジミの、そして旭や娘・七波らの真摯な平和への希求、遺す想いの重さに落涙することとは別問題である。
 いわゆる原爆の怖さを描いた作品は数知れない。「はだしのゲン」や丸木夫妻の絵のような直接的な怖さ、悲惨さを描いたもの、事実を事実として伝えようとする資料館や被爆者の語り部のような実績もある。夕凪…はフィクションであるが、原爆投下は事実であるし、本作で重点をおかれて描かれていた被爆2世、3世の苦悩も事実だろう。原爆を投下したアメリカや操縦士にとっては広島市民はただの虫けらすぎない。一人一人の生など関係がない。その一人一人の生きたい、生かされたい、いや生きて幸せになっては申し訳ないといった複雑な心境を静かに、静かに小さな声で語る生き残った人の優しさに、そして理不尽さに見る者を落涙させるのだ。
 憲法9条堅持を語る異端の経済人である品川正治経済同友会終身幹事は、「殺されても殺さないと誓った」との趣旨の発言をしている。憲法改正(要するに9条改憲)を絶対的に政治日程に載せようとする安倍首相といい、石原都知事といい、皆実の「うちは、この世におってもええんじゃろうか?」という問いや打越の「生きとってくれて、ありがとうな」という言葉は絶対に通じないのだろう。
 ドキュメンタリー「ヒロシマナガサキ」や「陸に上がった軍艦」の公開もある。60年たとうが、何年たとうが、経験者が全くいなくなろうが、原爆投下もあの戦争も決して肯定してはならないのである。「しょうがない」ことなど全くないのである。
コメント
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