kenroのミニコミ

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教室の後ろに戦争が立っていた  「教育と愛国」

2022-05-18 | 映画

映画のパンフレットでは斎藤美奈子が「迂闊だった‥」「1990年代後半から歴史修正主義が台頭し、戦後の敵視認識がズタズタにされた時代」を「注視してきたつもりだった」のに「甘かった」と後悔の念を吐露している。

教育現場では、日教組が強かったり、部落解放教育が盛んだったりとの背景に「日の丸」「君が代」強制に抵抗する教職員を狙い撃ちにするべく攻撃が苛烈だったのは、福岡や広島、そして大阪、東京であった。広島県立世羅高校の校長が現場での「日の丸」「君が代」反対が多いのを、教育委員会からなんとかしろと苛烈に責め立てられ自死した事件(2月)によって一気に「国旗国歌法」が成立した(8月)1999年がメルクマールとされる。そして、東京都の「10.23通達」が2003年、労働組合や公務員を敵視する橋下徹大阪府知事の誕生が2008年。第1次安倍晋三内閣は教育基本法に愛国心条項を入れ(2006年)、第2次安倍政権では道徳の教科化(2015年)、安倍と松井一郎大阪府知事が、教育への政治の介入を当たり前と意気投合し、府は「大阪府教育基本条例」などを制定した(2012年)。斎藤は、これら一連の流れを追い、右派側は着実に歴史修正主義や復古主義、戦前回帰の流れを敷いてきたのに自分もメディアも追いきれていなかったと自戒する。しかし、『教育と愛国』はそのような状況、特に維新(政治)に忖度、追従、ヨイショしてきた大阪のメディアと私たちに「目を覚ませ」と迫ると記す。

監督の斉加尚代さんは2012年当時、橋下府知事を(まともに答えられないから)激昂させた記者としてネット上などでバッシングされた過去を持つ。斉加さんは、およそ30年に渡り、教育やメディア、弁護士・学者らへの右派攻撃を追い続けているが、それらを真摯に取り上げたドキュメンタリー制作(映画は、2017年7月に放映されたMBSドキュメンタリー『映像』ディリーズの「教育と愛国〜教科書でいま何が起きているのか」がもととなっている。)をしてきた自分自身にも攻撃の矛先が向かうと予見し、ネット上の攻撃を収集・分析・調査していた。そして自分への攻撃が拡散アプリを使用していることも解明する。

教育現場以外のお話は『何が記者を殺すのか 大阪発ドキュメンタリーの現場から』(集英社新書 2022)に詳しいが、映画でも、書籍でも右派攻撃の先導、火付け役と見られる政治家や学者にも礼を失せずにインタビューしている様が圧巻だ。というのは、例えば安倍と昵懇で教育再生首長会議の初代会長を務めた松浦正人山口県防府市長は、「従軍慰安婦」との用語を使うなとする政府の見解とともに載せた教科書(学び舎)を採択するなと執拗に学校へ抗議ハガキを送った首謀者だが、学び舎の教科書を「(表紙くらいしか)見ていない」と自白する。あるいは、菅内閣より日本学術会議員任命拒否にあった加藤陽子東京大学教授の師でもある伊藤隆東京大学名誉教授は、育鵬社教科書の執筆者だが、「歴史から学ぶ必要はない」「(戦後日本は、教科書は、一貫して左翼に牛耳られているから)そうではないきちんとした日本人を育てる」旨述べる。実証主義が根本の歴史学者の言ではない、単なるデマゴギストであり、映画パンフで述べられた「ペラッペラで無責任な国」(白井聡)の象徴である。もちろんそのトップランナーは、籠池某が教育勅語、戦前の天皇制に則った小学校を作ろうとして財務省や大阪府から便宜を受けた森友学園(に絡み財務省職員が公文書改竄を強いられ自死した)問題の張本人安倍晋三その人である。

ロシアのウクライナ侵攻で、安部を中心に核共有や敵基地攻撃論が喧しい。岸田政権は、核共有は否定するものの、完全に安部・菅路線の継承で参議院選後憲法改正を目指すという。そして岸田の後には安倍の再登板とも。戦前に抗する胆力を斉加さんらともに備えたい。

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