kenroのミニコミ

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美しい「大和魂」に収斂されたのが残念  東京バレエ団「ザ・カブキ」

2012-01-01 | 舞台
黛敏郎という人は、音楽的功績はよく知らないが、そのド右翼・超タカ派の言辞はよく見聞きしていて好もしいとは思っていなかった。そして、今回の演出に黛ならではの、というか黛であるからこそ描かれた世界にかなり辟易したのが事実。
そもそも、ベジャールの誤った日本(史)理解を前提に、日本人も知らない、理解できないような日本像=ヤマト像を描き出したのが間違い。武士道も、忠臣蔵も、その肯定的評価と同時に、否定的・前近代的側面を十分に知った上で、武士道も、忠臣蔵も楽しんでいるのではないか、多くの日本人は。しかし、描かれているのは、武士道すばらしい、日本すばらしい、忠臣蔵最高である。
象徴的なのがラスト、大きな「日の丸」で終演。「日の丸」については賛否はもちろんあるが、その当否はさておき、「日の丸」が日本国民、全国で一般化するのは明治以降。18世紀の忠臣蔵の時代にはそぐわない。そもそも、忠臣蔵事件に喝采した江戸の庶民は知らない記号なのだ。そして、忠臣蔵そのものが、きれいごとだけではないというのが史実上も分かっているのに、それを全く無視した脚色もいかがなものか。
ところで、筆者は白状すると時代劇や忠臣蔵が大好きである。忠臣蔵については上記誤った描き方はもちろん、四十七士の名前と功績を覚えた身からすると、突っ込みどころはたくさんあるが、日本贔屓と、武士道あるいは忠臣蔵は直接なんの関係もない。だから、忠臣蔵を描くなら黛の国粋主義、大和魂とは分けてほしいのだ。
ダンスの演出そのものはとてもおもしろかった。東京バレエ団は男性ダンサーが充実していることで有名だが、あれだけの数をそろえることができるのはすごい。しかも、高岸直樹や後藤晴雄などもう40歳をとうに超えた現役ダンサーが迫力のパフォーマンスを見せるあたり、東京バレエ団は、男性ダンサーに不自由しないのが明らかだ。いや、男性ダンサーこそ東京バレエ団の真骨頂かもしれない。でも女性ダンサーでは吉岡美佳や上野水香ももちろん健在である。
演出は、これでもかというほど変化に富み、楽しい。時代劇をバレエで表現するなんてどうするのだろうというこちらの杞憂をさしおいて、次々に繰り出す舞台演出とそれに見合うダンス。バレエでは関係のないバク転の演出もあり、出演者の身体能力の高さ頼りの面もあったが、次々に繰り出される新幕には、全体で2幕構成であるのに、工夫されている場幕には、かなり楽しめた。ただ、海外公演ならジャポニズム好きの西洋人には面白いだろうが、少しやり過ぎのところはある。ともあれ西洋人の描く日本像は十二分に描かれているし、ダンサーの適格性も間違いない。東京バレエ団はシルヴィ・ギエムでも最高のパオーマンスを見せた(http://blog.goo.ne.jp/kenro5/e/546f65edbad47f48c6c2332a58c8a454)。であるからこそ、期待したいのだ。ベジャールの描く決めつけの日本像ではないものを。そして、忠臣蔵はもちろんいいのだけれども、大和魂と関係のない解釈で。

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