今回の最終目的地フランクフルトに着いた。ドイツ最大の金融の街というから高層ビルが林立するものと想像していたが、駅前からトラムが発着する親しみやすさ。ベルリンでも高層ビルがにょきにょき、ではないので東京やニューヨークがむしろ異常なのだろう。フランクフルト中央駅から大聖堂や美術館がある中心部までトラムが、街の主要交通手段なのだ。
街の中心を東西に流れるマイン川の両岸に美術館がいくつもある。南岸のリービクハウス。小さな美術館だが、リーメンシュナイダーには珍しく砂岩の聖母子像がある。ここで見つけたリーメンシュナイダーに関する新著が福田緑さん(kenroのミニコミ ドイツ中西部の旅 2017ドクメンタを中心に①参照)も入手していなかったもので新鮮かつ貴重な発見となった。リービクハウスは本当に小さく、リーメンシュナイダー以外には魅力的な作品は少ない。その隣にあるシュテーデル美術館の方が有名である。
フランクフルトの銀行家シュテーデルの寄付によって設立された街随一のコレクションを誇る。ホルバインやデューラー、クラーナハなど北方ルネサンスはもちろんのこと、バロックから近代にいたる蒐集はとくにすばらしく、レンブラントやフェルメール、フリードリヒ、そして印象派とドイツ表現主義の面々がそろう。とくにブリュッケのキルヒナーは1室があるほど。さらに広い構内には戦後美術、抽象表現主義やコンセプチュアル・アートまでありご満悦。そして、この美術館で人気なのが、併設レストラン「ホルバイン」。筆者はここで、珍しくお寿司をいただいたが、味はともかく、ツナとサーモンだけのネタの少なさが淋しかった。ただ、お寿司であるのにおいしいパンがついてくるのがドイツらしい?
シュテーデル美術館はショップも充実していて、いくつか物色した。ミュージアム・ショップは美術館好きを狙っているうまい品ぞろえで、デパートや専門店では探すのが下手な人間に思わず手に取りたくなるグッズや装飾品がある。ここでいくつかお土産を手にした。
マイン川の北岸には大聖堂近辺にモダンアート美術館、シルン美術館、歴史博物館が居て並ぶ。歴史博物館はリーメンシュナイダーの作品目当てだったのが見つけられず、係員も「知らない」という。残念。モダンアート美術館は、面白い作品もあるが全体にビデオ作品が多く、英語バージョンがないのもあり、見続けるのは難しい。しかし、CGで虚無な雰囲気の男性が自身の目玉をくりぬいたり、手首を切り落として、空港のターンテーブルに載せていく作品はグロテスクだったけれど、人間が現代社会の中ではパーツでしかないことを示していて興味深かった。一方シルン美術館は、企画展のみ。現代アートによくある体験型のもので子どもなら楽しめたのではないか。
ところで知らなかったのだが、フランクフルトはゲーテの故郷である。旧市街にあるゲーテハウスは日本語オーディオガイドもあり、結構オススメ。超裕福な家庭に生まれ育ったゲーテは、子どものころから普通の家庭では得られない人文、自然科学、芸術などあらゆる知識を培っていた。それらの中から後に文学の才を現したのは、やはり若い頃からの熱烈恋愛体験が関係ありそうだ。数か国語を操り、留学から帰国後は一応弁護士として執務していたゲーテは今でいうスーパーインテリであったろうが、いくどもの失恋、悲恋に悩まされたそうだ。そのあたりの人間臭さもいい。そして最愛の妹をはじめ兄弟姉妹を早くに失っている。ゲーテのことをほとんど知らなくても、楽しめるのは、ゲーテの生家がきちんと残っているからだろう。
フランクフルト最後の夜は、(多分)毎年マイン川両岸で開催される美術館コラボ(3日間美術館入場無料のフェスティバル協力券がある)の大屋台市。「大」と書いたのは、本当にすごい規模で2キロはあろう片岸にそれぞれ屋台がひしめき(それも両岸!)、川のすぐそばではロックなどの舞台もあちこちに。その規模と楽しさに圧倒された。そして驚いたのが、これほどの屋台の数、規模であっても、使い捨てのコップは一切使用しないことだ。筆者もビールやワインなど楽しんだがすべてグラス。頑固で環境問題に厳しいドイツを垣間見た楽しい夕餉でこのドイツ中西部の旅も終わった。(マイン川南岸の情報通信博物館で展示されていた電話コードでできた羊)