kenroのミニコミ

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再生と恢復の物語   ずっとあなたを愛してる

2010-02-22 | 映画
最初本作はダルデンヌ兄弟のものかと思った。それくらいキツイ題材で、エンドでも救いがないように見えたからだ。しかし、本作がフィリップ・クローデルというフランスの人気作家の映画化を前提とした脚本、初監督作品だというであるから驚きだ。
アメリカ映画で刑務所の中を描いたものはよくあるし、「デッドマン・ウォーキング」などすぐれた作品もある。「グリーン・マイル」のようなちょっと荒唐無稽なものもあるが、総じて刑務所ものはおもしろい作品が多いと思う。
ところで、名古屋刑務所事件(看守が受刑者を死亡させた事件(放水事件2001年、革手錠事件2002年))を契機に、矯正管区内の拘置者、受刑者の処遇について外の眼を入れようと拘置所委員会や刑務所委員会、警察署委員会までつくられという。聞くところによると、刑務所委員会や拘置所委員会は、地域の温度差はあるにせよ、それなりに被収容者の人権について「改善」の歩みもあるとか。ただ、警察署委員会はかなりお飾りとも聞く。ここでこんな紹介をしたのは、フランスでの受刑者の処遇と矯正(更正教育)がどんなであったか想像力をはたらかせざるをえない作品であったからだ。
ジュリエットは15年の刑期を終え、出所したが、迎えに来るはずの妹レアがまだ来ない。いらいらと煙草をもみ消す前に現れたのは嬉しそうなレア。レアの家に身を寄せたジュリエットだが、レアの夫リュックは「自分の子どもを殺した女に子守は任せられない」と血相を変え、レアの大学の同僚は何年も不在で突然現れた「ジュリエットは何者だ」と責め立てる。「さあ、誰が本当のところを当てるか。賭けよう」とまで酔いに任せて言い放つ。
「殺人で懲役15年過ごしたの」とさらりと答えるジュリエットに一同大爆笑。しかし、レア、リュックそしてレアの大学の同僚ミッシェルは笑わなかった。
席を立ったジュリエットを追いかけ、「僕は君の話を信じるよ」。「僕は以前刑務所に教えに行っていたことがある。あれで変わった」と。
ジュリエットを取りまく様々な人たち。レアとリュックの養女であるベトナムから来たプチ・リスは次第にジュリエットに懐き、定期報告に訪れる警察のフォッグ警部、就職支援のカウンセラー、そしてレア、リュックの友人たち。ミッシェル。
かたくなで、心に鎧をつけていたジュリエットも次第に人間関係を溶きほぐされていく。しかし、息子殺しの本当の理由は決して語らなかったが、ある日ジュリエットの寝室から見つかった書類でレアは真実を知ってしまう…。
これは再生の物語である。恢復の物語である。ほとんど話さず、決して自分を見せなかったジュリエットが、行きずりの名も知らぬ男とは寝るが、心を許しつつあるミッシェルには触れさせない。まるで、幸せをつかんではいけないかのように。けれど、そんなジュリエットでも少しずつ、少しずつ「愛」に力を信じていくようになる…。

『日本の殺人』(河合幹雄著 ちくま新書)によれば日本における殺人事件は60~70%が家族内でおこっているという。介護疲れと子どもへの虐待あるいは妻へのDVである。フランスでの「殺人」がどれほどの中身やパーセンテージであるのか知らないが、刑事事件として公訴されると「殺人」という罪名が重くのしかかり、その本当の中身は見えなくなってしまう。日本で言えば、介護疲れによる家族の致死は要保護責任者遺棄致死もあるであろうが、検察によって「殺意」が認定されれば「殺人」罪で起訴される。
ジュリエットの犯した罪は「殺人」か? 「殺人」の状況、中身に対する深い想像力を喚起されるとともに、罪を背負う人の悲しみ、孤独感、悔恨などいろいろな思いがない交ぜになった複雑な感覚を簡単には理解できたと言わせない逡巡を要求される。そして知っている人と知らない人がいるとてつもなく微妙な周囲の感覚。
ジュリエットは加害者であるともに被害者(遺族)である。犯罪とくに「殺人」事件加害者を非難するだけなら容易い。しかし、受刑者はいつか社会復帰し、それを支えるコミュニティや人間関係の力が問われている。
重大事件には時効撤廃と日本の殺人事件の割合から言えば、圧倒的に少ない通り魔や犯人の分からない事件について時効撤廃という法改正が国会でもとおりそうだが、「殺人」の多くはそうではないし、そのような状況に至るさまざまな苦しみがある。
ジュリエットを支え、ジュリエットが希望の道に歩み始めるかの一端を本作の将来に見た。同時に死刑廃止までなしたEUの状況と、死刑支持85%の上に時効撤廃までいく、課罰感情の激しさを持つ日本(人)の被告人に対する姿勢の違いに大きな衝撃を受けた。
それが本作の大きな価値であると思う。

 

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