CLASS3103 三十三組

しがない個人ホームページ管理人の日記です。

【読書】蔭の棲みか

2024-05-29 20:55:20 | 読書感想文とか読み物レビウー
蔭の棲みか  作:玄月

結構前の芥川賞受賞作品
なんとなし読んでみたんだが、いわゆる芥川賞っぽさはもちろんだが、
そういった人間性や、社会性みたいなものにも時代というのが色濃く出るんだなと
小説の情景をはっきりと、古い、あるいは、今ではない現代劇だと思い知らされて
小説内容と違うところで驚愕したのであった

内容としては、大坂にある朝鮮人部落の出来事といった感じで
この設定そのものが、すでに現在存在していなそうなのと、
そこでの特殊ともいえる状況や、哲学のような人間の信念が
これまた、古いといっていいのか、独特のそれで、根元的にはみなに備わっていそうなと
そういう感じのようでもあるのだけど、現在、これは無い側の話しになっているのではと
ともかく、社会、人間というのは変化しているんだなというのが
よりそれを純化させた物語だからこそか、とても強く感じたのでありました

戦後から現在に向かってくる途中、
確かにそういった部落があって、アナーキーな世界があって、
そこ特有の臭いというか、風習や怒り、鬱屈としたものが間違いなくあったろうと思うのだが
今はそれの形というか、色が変わったように思えて、
書かれている、ある種の差別などの触れられる何か、抵抗の礎みたいなものが
現在には違うものになっているというように感じられて、
当時読んでいないからこそ、その怒りの明確さというか、はっきりと見えるようになったと
読みながら感じたのでありました

独自の文化といっていいのか、そういう世界観、あるいは集落があったんだろうなと思わされる
昭和異聞、いや、もしかすると平成異聞といえるそれなのか、
間違いなく当時の文化世相が描かれて、切り取られていると思うのだが
今はもうない怒りの残滓みたいなものを読んだと思えて
なんというか、実に不思議な気持ちを抱いて読み終えたのでありました

はっきりと怒りだとわかるのだが、それを支えていたというか、
見えやすくしていた対象が消えたような現在でも、
多分この熾り火は続いているのだが、その違いがないはずの差異がとても不思議だった