塵埃日記

つれづれなるままに、日々のよしなしごとなど。

ドイツ発、パタノスター存続の危機

2015年06月17日 | 徒然
 
 突然ですが、みなさんは「パタノスター」というエレベーターの一種をご存知でしょうか。私は日本では見たことがないので、おそらく知っている方はほとんどいないのではないかと思います。とりあえず一度見ていただかないことには説明しづらいので、こちらの写真をご覧ください。

 

 

 写真は今から10年ほど前にウィーン大学にあったものを映したものです。なにぶん動いているものなので、ぶれているのはご容赦ください^^;

 パタノスターはドイツを中心に使用されている古いタイプのエレベーターで、写真のように必ず2列で運用されています。分かりにくいかもしれませんが、片方のレーンは上に、もう片方は下に動いており、人の乗るボックスが順繰りに無数に通過します。イメージ的には、ファミコン時代のスーパーマリオとかにあったような、上がったり下がったりのリフトみたいな感じです(伝わるかしら^^;)

 パタノスターとは、いわゆるロザリオの意味です。ロザリオというと、日本ではアクセサリー的なイメージが強いかもしれませんが、本家のキリスト教では敬虔な祈りの道具です。キリスト教徒でも、ましてや首飾りをするほどオシャレが似合う訳でもない小生には日本のロザリオがどんなものかは分かりませんが、もともとのロザリオは紐の部分が必ず数珠状になっています。これを1つずつ繰りながらお祈りをするわけです。たしか仏教にも、祈祷の際に数珠を繰りながらひたすら唱えるのがあったような…ということで、この宗教慣習は双方同じくインドあたりから派生したのではないかとする説が結構強いそうです。

 で、勘のいい方はなぜこのエレベーターがパタノスターと呼ばれるかお気づきになるでしょう。私は語源を知らずに好奇心だけで乗ったもので、初めてのときは上へ上へと登りながら不安になりました。というのも、先述の通りファミコンによくあるリフトのような感覚なのですが、たいていこうしたゲームでは一番上まで乗ってしまうとゲームオーバーとなってしまいます。いや、まさか死にはすまいとなかばビクビク乗っていたのですが、最上階を過ぎたところでカタタンカタタンと…ボックスは反対側の下りレーンに移ります。そう、輪っかの珠を繰るように、ボックスはひたすらくるくると回り続けるのです。

 日本語に無理に訳せば、循環式エレベーターとか、輪廻式とかって言うんですかね~。ちなみに、ウィキペディアの日本語版には「パーテルノステル」という表題で載っていますが、これは古い発音に則ったもので、今のドイツ語でこのような発音をすることはまずありません。

 長々とパタノスターとは何ぞやという話をしてきましたが、ここからが本題で、このアトラクションといっても過言ではない面白いエレベーターが、今ドイツでは存続の危機に瀕しています。理由は、たいていのものが古いからということと、単純に危ないから、ということのようです。少なくとも、ここ数十年で新しくつくられたものは1基もないらしく、上掲の私が乗ったウィーン大学のものも(ウィーンはドイツではなくオーストリアですが)、今は撤去されています。

 で、新しくつくらないのはもちろんのこと、今年に入って新しく法律が制定され、パタノスターへの搭乗が免許制になることになりました。免許といってもお金を払ってどこぞの役所で発行してもらってということではなく、既存のパタノスターを所持する建物の所有者が許可証を発行するということのようです。発行の条件が厳しいというわけでもなく、当該のパタノスターの利用法について講習やペーパー試験を受ければ良いという感じのようなのですが、逆に言えば何度もその建物を利用する人でなければ、許可証を受ける動機も機会もないということになります。

 つまり、もしその建物のエレベーターがこのパタノスターのみだった場合、新参の利用者は乗ることができず、その建物が何階建てであろうとも、階段を登らなければならないことになります。そもそも、ドイツでは2004年に新規のパタノスターの建造を禁じる法律が成立しているそうで、明らかにパタノスター廃絶を目指したい官僚の悪知恵というように捉えられているようです。まぁ、このあたりはドイツも日本も変わらないもんだと感嘆すら覚えます。

 他方で、私のようにこういった面白い乗り物が大好きな人種も少なくないようで、ドイツには「パタノスター協会」なるものが州ごとにあるようで、これが「このようなノスタルジー溢れる乗り物を廃絶しようとするとは何事か!」と抵抗を続けているそうです。私も、できることならこの協会に加入したいものです(笑)。

 ただ、パタノスターを愛する人間として一言付け加えさせていただくと、こいつにはもう1つ大きな利点があります。それは、ボックスが絶えず次から次へとやってくる構造になっているため、待ち時間がほぼゼロになるということです。エレベーター待ちでイライラする経験は、現代人なら誰しもが感じたことではないでしょうか?このパタノスターは、そうしたイライラを取り去るとともに、ゲーム感覚の楽しさと、ゆったりとした動きがもたらすノスタルジーを添えて、冗長な縦移動に躍動感を与えてくれるスグレモノだと、自分は信じています。

 どこか日本の優秀な企業が現代版として新しく開発し直してくれないかなぁ…と、個人的には大いに期待したりします^^;

  



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2 コメント

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Unknown (k,y)
2015-06-18 05:17:58
 法律で、パタノスターへの搭乗が免許制になるというところがいかにもドイツらしいですね

 画像で見ると、取っ手のついた小さい冷蔵庫の上に人が足を出して乗っているようで、これがエレベータならあまり乗りたいとは思えませんね 

 
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Unknown (うじょう)
2015-06-19 13:54:49
>k,yさん

やはり写真が分かりづらかったですね^^;おっしゃる通り、難点は常に動いているので、冷蔵庫のような2~3人乗りの大きさになってしまうことと、幼児や高齢者などにはちょっと危ないということですね。

日本の企業力で、モダンで新しいパタノスター式エレベータができないものかと、ひそかに期待しています。
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