塵埃日記

つれづれなるままに、日々のよしなしごとなど。

イギリスのダンジネス原子力発電所を訪ねて思ったこと。

2017年06月28日 | 社会考

突然ですが、今2週間ほどイギリスの知人宅にお世話になっています。距離的にはロンドン中心部から東京~鎌倉間くらいなのですが、まさにイギリスと聞いて思い浮かべるような森と丘が周辺に連なるエリアの小さな村にいます。

車でいろいろ連れていってもらえるので、普通の観光旅行ではまず行かないようなところもあちこち訪ねています。そのうち、今回ちょっとここで取り上げたいなと思ったのが、ダンジネス原子力発電所です。ロンドンの南東およそ100km、ドーバーの南西30kmほどの岬の先端に位置するこの原発は、日本では考えにくいことに誰でも間近で眺めることができます。


ダンジネス原子力発電所


さらに驚くことに、ハイスという町からほとんどミニチュアサイズの観光SLが走っていて、終点のダンジネス駅を出れば原発は目の前です。かわいらしい列車と機関車なので、当然小さな子供に人気で、幼子を連れたファミリーの姿も多数見かけました。


人の背丈よりも小さな列車が原発まで通じています


また、駅前には古い灯台があり、入館料を払って燈心台まで登れば、これまた誰でも原発を斜め上から俯瞰することができます。これもおそらく日本では不可能なことでしょう。原発の前には小石で形成された礫浜が伸びていて、発電所を背に海を眺めながらのんびり過ごすカップルの姿などもありました。


灯台の上から眺める原発


こうした人たちを見ていて、また連れてきてもらった彼と話をしていて思ったのが、どうもイギリス人は原発を危険なものとは考えていないようだということです。もちろん危険視している人はそもそも近づくことはないわけですが、こうして子連れの家族までがルンルンとやってくるさまを見ると、どうにも日本との意識の差は感じざるを得ません。


原発前の礫浜


ダンジネス原子力発電所は比較的古い原発で、2基あるうち1基はすでに運転を終了し、残る1基も近々稼働を続けるかどうかの判断がなされるそうです。新たな3基目の建設計画もとりあえず白紙になっているということで、それほどコアな原発とはいえないようです。とはいえ、原発は原発。安全性に対する不安はないのだろうかと訝るところですが、イギリスには地震がないことから、日本のような天災のリスクはあまり考えられていないようです。

と、こうしてダンジネスを「観光」した先に思ったのが、「原発は必要かどうか」ではなく「原発は日本に合っているのか」という視点が必要なのではないかということです。福島の場合、現在に至る結果・経過をもたらしたのは人災でしょうが、直接の契機は天災です。すなわち、日本ではどこでも地震・津波によって危険に晒される可能性があるわけなので、原子力が良い悪い以前に日本という気候風土に適しているのかどうかが議論の焦点になるべきだと思うのです。おそらく、福島を受けて原発停止を訴える日本人と、地震のないドイツが「原発全廃」を唱えるのとでは、立脚している観点が異なっているように感じます。

一番良いのは、安全でかつ原子力並みの安定供給が可能な発電方法が開発されることですが、これはそう簡単にはいかないでしょう。現下のところは、各自がそれぞれ自分の環境および日本の気候風土に合った電力ソースについて考え、そしてそれに基づく供給ルートを選択できるようなシステムを作ることが重要なのではないかと思いました。