越年も差し迫った天皇誕生日の今日、自民党の宮崎謙介衆議院議員・金子恵美衆議院議員夫妻が、揃って育児休暇の取得を検討しているというニュースが、大きな話題となっている。といっても、国会の規則には女性議員の出産休暇についての規定はあるものの、育児休暇についてはないため、国会の開催期間中にその都度休暇届を提出するつもりだという。
これについて、さっそく方々では賛否両論沸き起こっているという。常日頃男女平等を心がけている私としては賛成派に与しそうなところだが、今回の件に限っては批判的にならざるを得ない。
理由は、一言でいってしまえば彼らは国会議員であるからだ。突き詰めていうと2つの点において、彼ら国会議員が育休を取得することには疑問を感じる。
一つは、国会議員は一回の任期がかなり限定されている職であるという点だ。参議院議員は6年で解散なしとやや長めであるが、衆議院議員は長くても4年である。この4年の間に何らかの成果を出すことを求められる職分であるが、そのなかで数か月の育休を取る余裕があるのか疑問である。極端な例を考えれば、議員の任期が一年だったとして、そのなかで育休を取得するなどという選択肢が生まれるだろうか。一応定年まで勤め上げる予定のある会社員や公務員などとはワケが違う。自分が引退を宣言するまで国会議員でいるつもりだから、育休を取った方が「地に足の着いた政策を出せるようになると思う」などと言われれば、どうにも閉口せざるを得ないが、山積する課題に限られた期間で取り組まなければならない身分であるという自覚がないというのは、いかがなものだろうか。
もう一つは、国会議員という職の特殊性および職責の重さだ。これも、ちょっと極端な例を挙げれば分かりやすいが、もし大臣を務めている議員が育休取得宣言をしたらどうだろうか。どう転んでも国民の理解が得られるとは思えない。国民の理解が必要であるという点から明らかな通り、国会議員は国民によって選出された国民の代表である。等しく参政権をもつ有権者の一票一票を預かり、選挙区の有権者の声を国会に反映させなければならないはずだ。そのような国会議員が、緊急不可欠というわけではないプライベートな理由で国会を休み続け、その間その議員の地元選挙区は意見が政治に反映されない空白地帯となってしまう。両議員の地元の方々においては、まことにお気の毒という他ない。この点についても、もし両議員の選挙区が東日本大震災の被災地だったらと考えれば、事の重大さは容易に感じ取っていただけると思う。
ここで改めて確認しておきたいが、私は国会議員の育休については批判的だが、女性の出産休暇についてはこの限りではない。男女平等とはいっても、肉体的・精神構造的に取り払うことのできない壁は厳然として存在するもので、出産はそのもっとも大きな壁の一つだ。出産直後の女性は肉体的にも精神的にも著しく不安定であるといわれ、そのような状態で責任ある職務に就くというのは、逆に問題につながりかねない。しっかり安定するまで休んでいただいた方が、むしろ全体のためになるといえる。
最後に、宮崎議員は「国会議員が率先して男性の育児休暇が取りにくい状況を変えたい」と記者会見で述べたとされるが、これは勘違いも甚だしい。男女を問わず育休がなかなか社会に浸透しない理由はいくつかあるだろうが、その根本にあるのは、育休を認める側の雇用主体にそれだけの余裕がないという点だ。とくに、収益を上げなければならない民間企業にとって、育休を認めることはリスクでしかない。男が稼いで女は家を守ってという考えが浸透している日本社会において、育休制度を充実させてもなかなか宣伝効果に繋がらないからだ。
では、国会議員が育児休暇を取れば、一般社会もそれに倣って育休制度に寛容になっていくだろうか。第一子ができたという喜びもあるのだろうが、そう考えているとするなら、ちょっと頭の中がお花畑になりすぎている。国会議員が育休を取得しても、リスクを負うような雇用主体に相当するものはない。負うとすれば、前述の通りの有権者だ。さらにいえば、国会議員は地元や所属団体の都合でしばしば国会を休むものであり、休みを取りすぎたからといって罰則規定はないはずだ。したがって、両議員が毎日休暇届を出し続けても、おそらく議員報酬が減額されるということはないだろう。そして、議員報酬の元手は、いわずもがな税金である。結局、国会議員の育児休暇にともなう負担をしょい込むのは我々国民であり、本人たちや所属政党ではないということだ。
育児休暇をどう無理なく社会に浸透させていくかということは、政治の課題として大いに議論していただきたいところだ。だが、国民の信任のもとで預けられている職責を放棄して、休暇中の給与も国民の税金でしっかり確保したうえで、「私たちは育児休暇を取得しますので、皆さんも私たちを手本に見習って下さい」といえるような方には、ちょっと課題の解決は望めそうもない。せめて、他の真面目に働いている議員の間に、真剣な議論を喚起するきっかけとなってくれればと願うところだ。