1歳9ヶ月の乳児がこんにゃくゼリーをのどに詰まらせ死亡した事故を受けて、製造元のマンナンライフが今月、当該製品の一時製造中止を決めました。こんにゃくゼリーは、自分で買うことは余りないものの、置いてあれば必ず食べたくなるものだったので、今回の製造中止は残念です。
そもそも、こんにゃくゼリーの危険性を巡る議論は今に始まったことではなく、結構前からその弾力性とつるんとした食感でのどを詰まらせる事故は断続的に起きていました。その都度、メーカー側はその危険性を訴え続けてきていたので、幼児やお年寄りが食べる際には特段の注意が必要であることはかなり周知されていたように思います。僕にとっては、乳児にこんにゃくゼリーを与えること自体がもはや非常識に感じます。にもかかわらず、保護者がそばにいた上でこのような事故が起きたことには、保護監督者の責任も同時に問われるべきではないかというのが僕の率直な感想です。
もし幼児やお年寄りが口にすれば危険な性質の食品を製造していたことが問題だというのであれば、まず全国の餅の製造を禁止しなければならないはずです。餅の危険性はこんにゃくゼリーよりずっとポピュラーですし、正月に餅を詰まらせて死ぬ人の数はこんにゃくゼリーのそれよりずっと多いでしょうから。
さらに言えば、製造中止のきっかけとなった上記の事故は、「凍らせた」こんにゃくゼリーが原因とされています。事実とすれば、凍ってしまえばこんにゃくゼリーも普通のゼリーも同じですから、これまでの窒息事故とは問題点が全く異なります。この場合、凍らせて固形化させたことが窒息の原因ということになるので、別にほかのゼリーでもあるいはゼリーでなくても起こりえた事故ということになります。とすれば、この事故を契機として製造中止が叫ばれたとすれば、ちょっと突飛な議論という気がします。
ではなぜ今回、改めてその危険性が声高に叫ばれ、製造中止にまで追い込まれたのでしょうか。
ひとつには、このところの食品に対する不安から、消費者の神経が過敏になっていることがあるように思います。特に、産地偽装や事故米問題など消費者が判断しようがない事件が相次いでいることから、消費者の不安や被害者意識が過度に膨らみ、「食品に関する問題は全て業者か行政の問題」と考える風潮があるような気がします。もちろん、先にあげたような事例は100%業者と行政の責任ですが、だからといって消費者は何も判断できなくても仕方がないかといえば、そうではないでしょう。食品に関する事故は生産サイドの責任というダイレクトな反応を、世間やマスコミが無批判に受け入れていることが、今回の製造中止という事態の背景にあるように思います。
そしてもうひとつ。これは完全に僕の憶測の話ですが、事故米問題などで業者と同様に矢面に立たされている行政サイドが、比較的政治の責任が薄いと考えられるこんにゃくゼリーの窒息事故を食品問題におけるスケープゴートとしたのではないか、とも考えられます。特に根拠がある訳ではないのですが、今まで長年注意を呼びかけられていた食品が、今になって突然、今まで指摘されてきた要因と無関係の事故を受けて厳しい措置に追い込まれた、という不自然さを考えると、そうした穿った推測も浮かんできてしまいます。
ともあれ、危険性を指摘されながらも他方で長年確実に親しまれてきたこんにゃくゼリーですから、この危機をどうにか乗り越えてより安全な形で食卓を彩ってくれる日が早く訪れるよう願っています。