見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

アイスショー"Fantasy on Ice 2019 神戸"

2019-06-10 23:31:01 | 行ったもの2(講演・公演)

Fantasy on Ice 2019 in 神戸(2019年6月8日 14:00~)

 FaOI後半の2会場は神戸からスタート。前日、金曜日の公演を見た人たちから、オープニングが「残酷な天使のテーゼ」だった!というレポートが流れてきて、SNSでは大騒ぎになった。アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」(1995年)の主題曲である。でも私は「エヴァ」は見ていなくて、知識としてしか知らないので、残念ながらあまり興奮を共有できなかった。 朝から新幹線で神戸入り。神戸ワールド記念ホールは2015年のFaOI以来である。リンクが近い感じがして、見やすい会場という記憶があった。しかし今回は、なんとか手を尽くして入手したチケットで「注釈付きA席」というもの。どこかと思ったら、ステージの上(裏側)だった。こんな視界は初めて。しかし最前列なので見晴らしはよかった。 

 ゲストアーティストは、Toshl(龍玄とし)さんとバイオリニストの末延麻裕子さんに加え、May J.さん。出演スケーターは、仙台から荒川静香、安藤美姫、ハビエル・フェルナンデス、カペラノがOUT。INはデニス・バシリエフス、キャンデロロ、坂本花織、三原舞依、鈴木明子、ペアのボロトラ(タチアナ・ボロソジャル/マキシム・トランコフ)がIN。

 オープニング衣装は、アンシンメトリーなデザインで片側が黒、片側に色違いのシフォンかちりめんみたいなふわふわした生地を貼り付けている。ステージ裏から見ていると、誰が出て行き、誰が戻ってくるのか、よく分かって面白かった。そしてToshlさん登場。白のキラキラ衣装だったか明るい緑色のジャケットだったか。「残酷な天使のテーゼ」は、基本群舞なのだが、途中で羽生結弦くんがぐいぐい集団の前(ショートサイド)に出ていき、ほぼソロパートの見せ場になる。キレッキレの動きは、後ろから見ているだけでも眼福だった。

 楽しみにしていた日本の仲良し女子コンビ、三原舞依ちゃんは赤い衣装の「Hero」、坂本花織ちゃんは忍者(くのいち)プロだった。コラボは、メドベージェワとMay J.の「Faith」もよかったが、Toshlさんと宮原知子の「ひこうき雲」が絶品。特にステージ裏から見ていたので、Toshlさんの歌声に押されるように遠ざかって小さくなっていく宮原知子の姿が、本当に天に昇っていくように見えて泣けた。

 ジョニーは前半が白衣装(片袖だけヒラヒラつき)で「ある愛の歌」、後半は幕張から持ち越しの「Fuego」。ランビエールは前半が持ち越しのシューベルト、後半は一転して都会的な、テンポの速いダンスミュージックで、客席にがんがんアピールするので、一部では「煽りプロ」とも呼ばれていたが「Down the road(C2C)」という曲だそうだ。幕張・仙台は2曲ともしっとり系だったので、このへんで弾けたかったのかも。しかし静も動も美しいスケーターである。

 トリの羽生くんは「クリスタル・メモリーズ」だった。幕張2日目は、え?マスカレイドじゃないの?という動揺が激しくて、この素晴らしいプロを集中して見られなかったのだが、今回はしっかり味わえた。Y字バランスはどんどんきれいになっていくし、気高さ、純粋さ、柔らかさなど、他の選手の追随を許さない、羽生くんらしいプロだということを再確認した。まあしかし、仙台で「マスカレイド」を見る機会があったので、こんなふうに冷静に見ることができたのだ。来年は必ず1会場2日連続で見る機会をつくることにしよう。

 フィナーレは「君の瞳に恋してる」。2人ずつペアになって中央に出ていくところ、プルシェンコとザギトワの年の差ペアが微笑ましかった。終了後のジャンプ大会では、羽生くん、4Lzを跳んで、体勢を崩しながらもこらえて着氷。仙台では駄目だったものね。総立ちのお客さんは大歓声だった。なお、次の日のSNSによれば、最終日はついに完璧に着氷したそうである。こういうストーリーを見ていくのもツアー観戦の面白さ。この日は、ザギトワが繰り返しジャンプを失敗してしまい、羽生くんが成功し、他のスケーターたちが退場したあと、座長の羽生くんに「もう1回」とねだって、ついに成功させるところを見た。昨年の紀平梨花ちゃんもあきらめない子だったなあ。

 付記。この日、ジョニー・ウィアーが、ある選手(メドベージェワだと言われている)のギフトボックスに入っていたという中傷の手紙の写真をSNSに上げたことが議論を呼んでいる。ジョニーの厳しくも品位ある忠告「あなたは全てのスケーターのファンである必要はないが、彼ら全てをリスペクトすべき」は本当にそう思っている。しかし、世の中はこんなに美しいものであふれているのに、憎悪を抱かざるを得ないひとは可哀想だなあ。

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蘭州ラーメン「一天一麺」@神戸三宮

2019-06-09 23:47:57 | 食べたもの(銘菓・名産)
 週末はアイスショーFaOI(ファンタジー・オン・アイス)2019神戸公演を見に遠征してきた。そのレポートは後回しにして、ついでに楽しんできたことがいくつか。まず、三宮の「一天一面」で蘭州ラーメンを食べてきた。



 見通しがよくて明るい店内。土曜日の夕方、お客の回転は早いが、来客が途切れず、ほぼ満席が継続している感じ。



 麺の種類等はテーブルの上の紙に書いて渡す。ラー油は少なめ、牛肉はスライス、麺は中細麺にした。そして喉が渇いていたのでビールも頼んでしまった。

 スープはなかなかの美味! 大根も硬からず柔らかすぎず。麺はしっかりした手打ち麺だが、私はもう少し柔らかい(細い)ほうが好みかな。パクチーは追加を頼んでもよかった。でも満足~。

 次回はラム串焼も食べてみたい。一過性のブームに終わらず、ぜひ長く営業を続けてもらいたい。
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戦中の経験から考える/歴史戦と思想戦(山崎雅弘)

2019-06-08 00:04:27 | 読んだもの(書籍)
〇山崎雅弘『歴史戦と思想戦:歴史問題の読み解き方』(集英社新書) 集英社 2019.5

 いわゆる「歴史戦」への対応を、戦時中の「思想戦」を参照しながら解説する。「歴史戦」とは「歴史修正主義」の別名で、中国政府や韓国政府による、歴史問題に関連した日本政府への批判を、日本に対する「不当な攻撃」だと捉え、日本人は黙ってそれを受け入れるのではなく、中国人や韓国人を相手に「歴史を武器にした戦いを受けて立つべきだ」という考え方である。

 論点別に言えば「慰安婦は性奴隷ではなかった」とか「南京大虐殺はなかった」「日本の戦争は侵略戦争ではなかった」という主張のことだ。こうした主張に骨の髄まで浸かってしまった人はともかく、なんとなく胡散臭いとは感じながら、どこがどう間違っているかをうまく説明できなかった人には、大変役に立つ、ありがたい本だと思う。

 導入部で著者は、「『歴史戦』でよく使われるトリックに取り込まれないためのヒント」をひとつ提示する。それは「日本」と「日本国」と「大日本帝国」の違いで、中国や韓国が「大日本帝国」時代の侵略や植民地支配を激しく批判した場合、「大日本帝国」は「日本」という国の一部であるから、「日本」を攻撃していると単純化することは、嘘ではない。しかし、現在の自国が攻撃されているように危機感を覚えたり、日本人であれば「日本=大日本帝国」に味方するのが当然という考え方は正しいかどうか。

 そして「大日本帝国」に否定的な評価をする日本人を「自虐的」と呼ぶのは正しいかどうか。著者は、過去の「国策の誤り」を認めて反省する行為は「名誉の回復」をもたらすものであり、マゾヒズムとは正反対の「前向きな態度」だと考える。私も100パーセントこれに同意する。

 にもかかわらず、「大日本帝国」に批判的な歴史認識を「自虐史観」と呼びたがる人々が存在するのはなぜか。彼らが自分のアイデンティティーの帰属先を「大日本帝国」に置いているからだという。ううむ、そうか。そんな気はしていたが、スパッと言われると明快である。彼らは自分を「大日本帝国」という立派な集団の一員だと考えることを自尊心の拠り所としている。それを自覚している人と自覚していない人の二種類がいるという分析も興味深い。

 一方、自分のアイデンティティーを戦後の「日本国」の価値観や思想に置いている人間には、過去の「大日本帝国」を批判することがなぜ「自虐」なのか、さっぱり分からない。これは私だ。思わず笑ってしまったが、笑いごとでない、深い「断絶」が両集団の間にある(同じ現代日本に生きているのに)ことをあらためて認識した。

 なぜ今日でも「大日本帝国」に憧れる人々がいるのか、という疑問にも、著者はひとつの回答を示す。大日本帝国は、現状の国家指導部を「絶対的な権威」とみなし、これに国民や下部組織が絶対服従する「権威主義国」として完成された国家だった。121頁の「権威主義国」の7つの特徴は大変面白い。そして、ある種の人々は、自由よりも「権威」に服従し、それと一体化することを好む。古典的名著『自由からの逃走』によれば、不安や孤独を伴う「自由」よりも、高揚感や自尊心を与えてくれる「権威への服従」に憧れる気持ちは多くの人間に共通する。だとすると、「歴史修正主義者」の主張が単なる無知に基づくものでないとすると、むしろ厄介なんじゃないかな、と思った。

 もちろん「歴史修正主義」の単純な論理矛盾を突いた解説もあって面白かった「東南アジアやアフリカ諸国は日本が戦ってくれたおかげで独立できたので感謝している」と言いながら、「日本を戦争に追い込んだのはコミンテルン」という主張もある。それなら、東南アジアやアフリカ諸国が感謝すべきはコミンテルン?というロジックには苦笑した。

 コミンテルンが何から何まで糸を引いているような憶測を大真面目に主張する態度は噴飯ものだが、実はこの源流が太平洋戦争期の「思想戦」にあることは初めて認識した。当時の内閣情報部が展開した「思想戦」は、内容の荒唐無稽さ(コミンテルンの脅威)からも、国際輿論に対する効果の希薄さからも、あまり顧みられていないようだが、どれだけ馬鹿馬鹿しく無意味なことをやっていたかは、国民全体でよく検証しておくべきだと思う。それをしないから、同じロジックに騙される人々が再生産されてしまうのである。

 特に「過去の出来事について、その全体像を解明するために細部の事実関係を丁寧に検証していく」ことを仕事としている歴史学者に対して、結論先行で都合のいい事実だけを集めた「歴史書」(もどき)で対抗しようとするくらい、迷惑で愚かしいことはない。ほんとにやめてほしい。
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2019端午節の粽(ちまき)

2019-06-05 21:57:47 | 食べたもの(銘菓・名産)
 愛読している「80C[ハオチー] 中華料理がわかるWEBメディア」というサイトで、先週、気になる記事を見つけた。

・横浜オールド中華探訪11:限定ちまきを狙え!端午節の横浜中華街で、広東粽食べ比べ(2019/5/28)

・横浜オールド中華探訪12:横浜中華街で買える台湾・上海・広東系ちまき(2019/6/4)

 旧暦5月5日は端午節。2019年は6月7日(金)に当たる。端午節といえば粽(ちまき)で、春秋戦国時代、楚の詩人政治家・屈原は、左遷を命ぜられたことに絶望し、汨羅(べきら)の淵に身を投げて死んでしまう。その死を悼んだ里人は、命日の5月5日に供養として米の飯を川に投げ込むようになった(詳細は異同あり)。これが端午節に粽を食べる習慣の由来とされている。

 私は中華粽が好きで、5月5日に限らず、ときどき食べたくなるのだが、横浜中華街には、この時期だけの限定ちまきがあると知って、土曜日に買いに行った。

 左、白い紙袋の上が純広東点心専門店「紅棉(こうめん)」の粽。右、赤い紙袋の上が同發の粽。



 その日に食べた紅棉の粽。筍の皮に包まれ、よく味の沁みた糯米。アヒルの塩卵に存在感。



 同發の粽は冷蔵庫で6月8日まで持つと言われたけど、今日、食べてしまった。笹の葉に包まれ、小豆と豚バラ肉の焼物が特徴。やはり塩卵入り。



 もっと試してみたかったが、覚えていたら、また来年。
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アイスショー"Fantasy on Ice 2019 幕張&仙台"

2019-06-03 00:33:22 | 行ったもの2(講演・公演)
Fantasy on Ice 2019 in 幕張(2019年5月25日 14:00~)/仙台(6月2日 13:00~)

 今年も生活の優先順位のトップにアイスショー観戦を据える季節がやってきた。今年のFaOI(ファンタジー・オン・アイス)は、幕張、仙台、神戸、富山の4会場で3公演ずつ開催される。やっぱり前半・後半1公演ずつは行きたいと思って、まず幕張2日目と神戸2日目を確保した。幕張は、昨年の反省を思い出してショートサイドのS席を取った。

 記録のために書いておくと、ゲストアーティストはToshl(龍玄とし)さん、BENIさん、バイオリニストの末延麻裕子さん。出演スケーターは、羽生結弦、織田信成、荒川静香、安藤美姫、宮原知子、紀平梨花。海外から、プルシェンコ、ステファン・ランビエル、ジョニー・ウィア、ジェフリー・バトル、ハビエル・フェルナンデス、エラジ・バルデ、メドベージェワ、ザギトワ、トゥクタミシェワ、アイスダンスのカペラノ(アンナ・カッペリーニ/ルカ・ラノッテ)、いつものアクロバット。エアリアル(フライング)はメリー ・アゼベドとアルフォンソ・キャンパという新顔。

 オープニング衣装は、女子は赤と黒のマーブル模様のようなミニワンピ。男子は大きな花柄のTシャツの上に黒のメッシュの長袖ジャケット。羽生くんはショートサイド前できれいなジャンプ(4T)を決めてくれた。怪我の影響で今年のFaOIは欠場かも?と危ぶんでいたのがウソのようだった。続く群舞はToshlさんとのコラボ、ユーミンの「真夏の夜の夢」で盛り上がる。男女スケーターがわちゃわちゃと楽しそう。

 印象的だったのは宮原知子の「Tabla and Percussion Solo」。エスニックな楽曲で、衣装もへそ出しパンツスタイルが新鮮。ザギトワもレザーパンツで「トゥームレイダー」をカッコよく滑っていたし、紀平梨花も来季はパンツスタイルのようだ。生バイオリンで「インフィニティ」を滑ったリーザも色っぽくてクールだった。ロシア女子は2曲ずつで、メドベージェワは、ピンク衣装でコケティッシュな演技のあと、ロシア民謡をしっとり滑ってくれた。荒川静香さんは何年経っても動作のひとつひとつが雅びで美しい。カペラノの「月の光」は、輝く三日月のショールを持った女性と道化師の、物語を感じさせるプロ。素敵だった。

 男子組。ジョニーは相変わらずファッショナブルで、激しい「Fuego」と情感あふれる「赤いスイトピー」。一時期より身体を絞っていて、動きにキレがある。ランビエルはシューベルトのピアノ曲(90-4)と「I love you」(尾崎豊)。客席に静かな緊張と陶酔が広がっていくのが分かった。完璧。ピアノは生演奏とのコラボで見たかったなあ。ハビエル・フェルナンデスは、アントニオ・ナハロさんとフラメンコダンサーズ(スケーターズ)と共演。カンテ・フラメンコが生唄で聴けたのもよかった。幕張2日目は、第1部のトリ、プルシェンコの「アルビノーニのアダージョ」が始まりかけたところで大きな地震。演技を中止して休憩に入り、第2部の途中で再登場となった。大事にならなくて何より。

 さて幕張2日目は、誰が何を滑るかなど、初日の情報をひととおりチェックしていた。大トリの羽生くんはToshlさんとコラボで「マスカレイド」を滑るらしい、2014-2015シーズンの「オペラ座の怪人」を彷彿とさせるプロ、と聞いていたので、完全にそのつもりで身構えていた。そうしたら「曲は、クリスタル・メモリーズ」のアナウンス。え? 一瞬、会場に困惑プラスちょっと落胆の声が流れた。いや、これはこれで美の極みだったんだけどね。公演終わりのマイクパフォーマンスで羽生くんから「今日は(クリスタル・メモリーズの振付をした)デヴィッド・ウィルソンさんが客席にいらっしゃっています」という紹介があって、デヴィッドさんのためにみんなで「ハッピー・バースディ」を歌った。

 それで幕張は楽しかったんだけど、どうしても「マスカレイド」を見ずにはおけない。というわけで、急遽、仙台公演のチケットを取ることにした。土曜にするか日曜にするか迷ったのだが、千秋楽は「マスカレイド」だろうと読んで、今日、日帰りで仙台に行ってきた。予想が当たってよかった。そして仙台会場(セキスイハイムスーパーアリーナ)はとても気に入った。仙台駅からの交通の便が不安だったが、行きも帰りもシャトルバスをがんがん出してくれたし、外の広場には牛タン串とかコロッケの店が出ていて楽しかった。席はショートサイド寄りのロングサイドS席だったが、リンクが近くて見やすかった。

 仙台会場にはテサモエ(テッサ・バーチュー/スコット・モイヤー)も参加。ほか、アーティストとスケーターは変わらなかったけど、カペラノのモノクロ映画から抜け出してきたようなプロ、素敵だった。宮原知子ちゃんは今季フリーの「シンドラーのリスト」を披露。これもよい。

 そして羽生くんの「マスカレイド」を堪能。これは見るべきプロ。しかし力が入り過ぎてか、2回のジャンプを2回とも失敗してしまい、悔しそうだった。フィナーレのジャンプも失敗して、最後は氷の上で土下座。以前にもあったなあ、こういうの。私は神戸からアーティストが全て入れ替わるような気がしていたのだが、今年は後半もToshlさんが一緒なのだな。神戸も楽しみである。
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人生ひまつぶし/見仏記・道草篇(みうらじゅん、いとうせいこう)

2019-06-01 23:40:58 | 読んだもの(書籍)
〇みうらじゅん、いとうせいこう『見仏記:道草篇』 角川書店 2019.4

 雑誌『文芸カドカワ』2018年3月号から2019年5月号まで連載していたものというから、出来立てホヤホヤの原稿である。自分と同世代であるみうらさん、いとうさんの近況を知ることができて嬉しい。そうか、みうらさんは還暦か。朝早いことが苦にならなくなったとか、長い山道では体力の温存を考えるとか、我が事のように分かる分かる。しかし男二人の見仏旅が、20年以上を経てまだ続いているのはうらやましい限り。

 今回の行先は、長野(西光寺、善光寺、清水寺、高山寺、智識寺、長雲寺)、群馬(慈眼院、達磨寺)、大分(文殊仙寺、両子寺、長安寺、天念寺、熊野摩崖仏、真木大堂、富貴寺、宇佐神宮)、青森(長勝寺、西福寺、最勝院、久渡寺、恐山菩提寺)、そして中国四川省に飛び、峨眉山、接引寺、華厳寺、報国寺、楽山大仏。

 私は、長野の善光寺には何度か行っている。その他、隠れた名刹を訪ねてまわったこともあって、清水寺(せいすいじ)へは行った記憶があるのだが、あとは思い出せなかった。でも本書のイラストを見ると、魅力的な仏像ばかりだなあ。行ってみたい。大分の国東半島もずいぶん前に定期観光バスで簡単にまわったことがある。実は、今年の夏は九州に行こうと思っていて、最近、国東半島(六郷満山開山1300年)のホームページを見たばかりだった。見仏コンビも20数年前に『見仏記』第1弾あたりで来たことがあるそうだが、旧作は振り返らずに前へ進む。それでいいと思う。しかし真木大堂は、そんなにゲストフレンドリーで洗練された施設ができていたのか。行ってみたい。

 国東半島で、奇岩の目立つ山並みを「中国の聖地=峨眉山っぽい」と感じたコンビは、これを「ガビる」と表現し始める。「あそこ、ガビってるんじゃないの?」と。同じことを青森の岩木山や恐山にも感じる。あれ?山西省・五台山篇はあったけれど、峨眉山へも行ったことがあったっけ?と首をひねったら、なかった。しかし勝手に「ガビってる」などと言い出した結果、聖地への憧れがつのり、ついに「自前でいいから峨眉山ツアーに参加してくる」と編集者に連絡して、二人で訪中することに。笑った。おじさんたち、自由でいいな~。

 そして11月下旬の峨眉山に出かけるのだが、頂上付近は吹雪で極寒。二人の記念写真のイラストには、申し訳ないが大笑いした。なお、晴れた日なら山頂には黄金に輝く巨大な普賢菩薩像(もちろん象に乗っている)が見られるらしい。私が峨眉山に行ったとき(2000年頃)はなかったと思う。見たいなあ。しかし、吹雪と霧の白いベールの中で、幻のように見える金色の象(普賢菩薩までは見えず)というのも、仏の示現らしくて乙な感じがした。あと、パンダ基地でパンダを愛でるみうらさんを想像すると微笑ましい。

 本作は「道草篇」ということで、いつも以上に見仏以外の話題が多いことを筆者のいとうさんは律儀に断っている。長野のリンゴ食べ比べとか、戸倉上山田温泉の貯金箱博物館、大分臼杵のフジジンの白味噌「夜明け」とか。しかし、さまざまな道草も含めて「見仏記」だというのは、長年の読者なら分かっていると思う。どこへ行っても(特に若い世代のご住職さんが)「あ、いとうさん!みうらさんも!」みたいな反応をしているのは嬉しい。むかしは、けっこう怪しがられていたから。

 みうらさんが時々、ドキリとする名言をつぶやくのを、いとうさんが逃さず聴き取って、我々に伝えてくれるのもありがたい。列車の中で夕日を見ながら「こうやって来迎しているんだ、仏は毎日」という発言が好き。あと、イラストページに小さな文字で書き込まれた「要するに人生、暇つぶしなのである」も、深い意味はないかもしれないけど好き。
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