見もの・読みもの日記

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人生相談と未来予測/内田樹の生存戦略(内田樹)

2016-07-24 20:02:27 | 読んだもの(書籍)
○内田樹『内田樹の生存戦略』 自由国民社 2016.6

 男性向けの月刊誌『GQ』に連載されていた人生相談。『GQ』といえば、一流企業で颯爽と働く金持ち男性が読む雑誌のイメージで、著者の読者層と合わないなあ、とはじめに思った。本書には、2012年5月から2016年5月までの相談が雑誌掲載順に収録されている。長いものもあれば、短いものもある。「はじめに」で著者が「僕の人生相談の回答はわりと『冷淡』です」と述べているが、読んでみたらそのとおりだった。「どうぞそのままで」とか「自分で納得されていれば、それでよろしいのではないですか」とか「悩んでも時間の無駄です」とか、これ大丈夫なのか?と慌てるくらい冷淡な回答もあって、だんだん笑えてきた。

 教育や政治についての回答は、だいたい著者がこれまでの著作で述べてきたのと同じことが書いてあった。「あとがき」に、途中から政治的な質問が増えてきて、いささか単調になってしまった、とあるが、確かにそんな感じがする。前半(古い時期)のほうが、思わぬトピックについて、内田先生の考えを聞けて面白い。

 古い回答に含まれる未来予測は、当たっているものもあり、当たっていないものもある。2012年9月には、憲法9条が日本人の海外ボランティアの安全を担保していると述べ、日本が憲法を改正して紛争に軍事介入できるようになれば、「日本人ボランティアや観光客が、思いがけないところでテロの標的になるということはかなり高い確率で起きるでしょう」と述べている。これは当たってしまったとみなすべきか。

 2014年1月の「護憲の最終ラインはアメリカ政府と天皇陛下」という発言には、まさに直近のニュースを思い合せて、ちょっと唸った。もし国民投票になったら、最後に日本国民は「で、陛下のご意向は?」ということを必ず気にかける。そのとき「陛下は改憲を望んでおられない」ということがリークされたら、国民投票の趨勢に大きな影響を及ぼす。うーん、でも後半は楽観的にすぎるような気がする。

 2014年10月の、集団自衛権が使えるようになりました、といっても、これはアメリカの許諾がないと使えないものなので、何もしないで終わる可能性があります、という予測はどうか当たってほしい。でも、2014年11月の沖縄知事選挙と2015年4月の統一地方選で、有権者が現政権への批判票を投ずれば、自民党がボロ負けして、責任を押し付けられた安倍さんが辞めさせられる可能性がある、というのは、全然当たらなかったなあ…。

 個人的に印象に残った解答のひとつは「どうやったら人生に名を残せますか?」という相談に対しての「名前を残したかっら贈与ですよ」という答え。たとえば自分の名前を冠にした奨学金制度。1,000万円あれば、ひとり100万円で10年続けられる。もっとお金があれば、体育館とか美術館とか橋でもいい。なるほど。子供のいない私としては(老後の生活にいくらかかるか分からないが、もし余裕があるなら)これは覚えておこうと思った。

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