〇『君子盟』全29集(騰訊影業、2023)
若手イケメン俳優によるブロマンス・ミステリーと聞いて、あまり私の好みではないかな?と思ったのだが、ホラー風味もありつつ、骨格は善因善果・悪因悪果のスカッとした物語で、けっこう楽しめた。舞台は架空の王朝・大雍だが、雰囲気は唐を思わせる。皇帝はすでに成人しているが、政治の実権は太后が握っており、実子である皇帝との仲はあまり睦まじくないと噂されていた。さて礼部侍郎の蘭珏は、やや線の細い上品な貴公子。20年前、蘭珏の父親は敵に内通した罪で捕えられ、処刑された。蘭珏は苦労を重ねて現在の地位を得たが、いまでも父親の潔白を信じていた。
もうひとりの主人公・貧乏書生の張屏は孤児で、いまは弟分の陳筹と拉麺の屋台を引いて生計を立てている。架空の名探偵が活躍する犯罪読みものが大好きで、科挙に合格したら、大理寺(裁判所・検察庁)に就職することが夢。おっとりした好青年だが、犯罪推理には頑固なこだわりを貫く熱血漢。また「鏡花水月」という器に水を満たし、一種の催眠術で他者の心を覗く術を心得ていた。
張屏は蘭珏の境遇に同情し、20年前の真相を明らかにする捜査に協力を申し出る。次第に明らかになったのは、20年前、蘭珏の父親は、ある少数民族の女性とともに南方に赴いたこと。時を同じくしてその民族が暮らす、嶺南道(唐代では広東・広西あたり)の摩籮村が焼き打ちにされたこと。張屏の「鏡花水月」は摩籮村に伝わる術で、張屏のかすかな記憶に残る母親は、摩籮村の女性らしいこと、などだった。
このまま核心に迫るかと思われたところに登場したのは、かつて蘭珏と知己の間柄だった清辜章。今よりさらに不遇だった時代の蘭珏の支えとなった、気骨ある青年。10年ぶりの再会を喜ぶ蘭珏だが、張屏はおもしろくない。これ、ブロマンス三角関係ドラマなのか?と苦笑した。【ネタバレ】この清辜章こそが黒幕だった。30年前、いまの太后(李妃)は皇子を出産したが、病に苦しむ皇子の生命を救うため「回生陣法」の呪術を用いなければならなかった。この呪術を執り行った呪禁科の首領・玄機は、皇子を別の赤子とすり替えたのだった。たまたまその場に立ち会ったのは、のちに張屏の母親となった摩籮村の女性。殺されかけた皇子を連れ帰り、張屏(幼名・苦若)とともに育てた。10年後、彼女は上京し、縁のあった蘭珏の父親・蘭林に相談した。驚いた蘭林は、皇子に会うため南方に下ったが、事の露見を恐れた太后によって、蘭林も、摩籮村の人々も抹殺されたのだった。しかし真の皇子は生き残り、太后に復讐するため、清辜章となって帰って来た。
清辜章は、拉致した太后に、王城の人々を嬲り殺しにする様子を見せつけようと、赤色の毒粉「血霧」を宙に放った。蘭珏、張屏らは、マスクで防護した人々を誘導して高台に避難させ、塩と火薬を混ぜた砲弾を打ち上げて人工雨を降らせ、血霧を鎮めることに成功する。実母を憎み切れなかった清辜章は、ひとり血霧の中に消えていった。
蘭珏(井柏然)、張屏(宋威龍)、清辜章(汪鐸)は、それぞれタイプの違うイケメンで目の保養になった。主人公たちの友人あるいは補佐役の陳筹(郭丞)、王硯(洪堯)、それから旭東(强巴才丹)も好きなキャラだった。皇帝は、あまり風采の上がらないタイプで、申し訳ないが、もっとカッコいい俳優さんを当てればいいのに、と思ったが、展開に従って納得した。高貴な血筋ではないけれど、よき皇帝になろうとする覚悟が好ましかった。あと小悪党の玄機(楊雲棹)もよかったなあ。地味に怖いのだ。美術や音楽も独特のセンスがあって好きだった。ホラーな場面、特殊効果ではなく、舞台演劇的な演出が印象的だった。
男子たちの友情と、母子あるいは父子関係が主軸のドラマで、男女の恋愛エピソードは全くなく、そもそも、そういう対象の女性キャラが登場しないことに途中で気づいたが、特に違和感はなかった。しかし最終話で、蘭珏が妻子の存在を匂わせるセリフを言っているのは原作にあるんだろうか。どうも「ブロマンス」規制対策なのではないかと思われる。そんなこと、しなくてもいいのに。