見もの・読みもの日記

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神道的国民意識への回帰/日本会議 戦前回帰への情念(山崎雅弘)

2016-07-25 00:22:48 | 読んだもの(書籍)
○山崎雅弘『日本会議 戦前回帰への情念』(集英社新書) 集英社 2016.7

 菅野完『日本会議の研究』(扶桑社新書)が出たあと、テレビや新聞でも日本会議への言及が増えたような気がする。そして、(売れると分かったとたん?)同じテーマの出版が相次ぐのはなんだかなあ、と思いながら、もう一冊くらい読んでみることにした。著者の山崎雅弘さんは戦史・紛争史研究家で、著作を読むのは初めてだが、ときどきSNS上で発言を拝聴している。

 よく知られているとおり、安倍政権の閣僚の多くは「日本会議国会議員懇談会」のメンバーである。もうひとつ「神道政治連盟国会議員懇談会」(会長は安倍首相)のメンバーも多く、両者は重なりあっている。両団体は「仲の良い兄弟」のようなものである、と著者は説く。確かに両団体がホームページに公開している目標はよく似ている。

 そこで、慰安婦問題、南京大虐殺問題、憲法改正などについて、安倍政権と日本会議の主張・価値観・その目指すものがきわめて類似していることを確認し、日本会議の人脈と組織の系譜を検証する。著者が重視するのは「神道・宗教勢力」である。日本会議の淵源のひとつ「日本を守る会」は1974年成立。著者によれば、当時の日本社会には共産主義に共鳴する市民が少なからず存在し、宗教家や保守的な政治家は懸念を強めていた。臨済宗円覚寺派管長が伊勢神宮で「世界に目を向ける前に、まず自分たちの足元を見直せ」という神託を受けたことが、同会設立のきっかけとなる。僧侶なのに伊勢神宮で神託を受けるって、日本の伝統に忠実だなあ、とへんなところに感心した。

 なお、創価学会は公明党を通じて国政への影響力を有し、「国立戒壇(仏教の国教化!)」を目指していたため、当時、他の宗教団体からは(共産党と同じくらいの)「脅威」とみなされており、「日本を守る会」には参加しなかった、というのも興味深い。宗教に動かされる政治って、過去のものではないんだなあ。

 宗教勢力の中でも、特に著者が注目するのは「神社本庁」である(菅野氏の著書が重視した「生長の家」の人脈は、それほど掘り下げられていない)。いや、実は私、神社本庁が単なる民間の宗教法人のひとつだということを認識できていなかった。よく考えれば、当たり前なのだけど。伊勢神宮を頂点とし、全国の神社が神社本庁の下に入るかどうかは、その神社の判断に任されたが、ほとんどの神社が加入した。神社本庁は、GHQによって変質させられた「神道的国民意識」を取り戻すべく、さまざまな活動を展開していく。それは安倍政権が目指すものとほぼ一致すると言ってよい。天皇中心の国体、愛国的歴史教育、家長中心の家族主義、など。

 そして、戦後日本の悪いところは全部「日本国憲法のせい」と考えて、敵意と憎悪を隠さない。最後に自民党の憲法改正草案(2012年4月)が示され、短い紙数ではあるが、さまざまな問題点が指摘されている。しかし、もっと驚いたのは、2013年4月に産経新聞が紙面に発表した「国民の憲法」と題した改正案。自民党案が霞んでしまうくらい酷い。でも、これ覚えていないなあ…まだ改憲に現実味がなかったからだろうか。彼らが取り戻そうとしている「神道的国民意識」なんて、せいぜい幕末このかた百年も持たなかった流行に過ぎないので、もっと大きい歴史の流れに任せて、変わるものは変わるままにしておけばいいと思うんだけどね、私は。

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