見もの・読みもの日記

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オタクと奸雄の住むところ/もっとさいはての中国(安田峰俊)

2019-11-18 22:35:06 | 読んだもの(書籍)

〇安田峰俊『もっとさいはての中国』(小学館新書) 小学館 2019.10

 未知なる中国を探し求めて世界を飛び回る突撃取材シリーズの第2弾。私は第1弾『さいはての中国』を読んでいないのだが、「こんなところに中国人!」というオビの文句が気に入ったので、最新刊から読んでみることにした。序章によれば、「さいはての中国」とは単に地理的な辺境を意味するのではなく、誰も気にとめず注意を払わない、現代中国の未知の素顔を意味している。「さいはて」は中国人の存在するところ、世界中のどこにでも散らばっている。そして「こうした中心から外れた場所にこそ、彼の国の本質を多角的に理解するうえで欠かせないピースの一片が埋もれている」。この考え方は共感できて、とても好き。

 本書で著者が訪ねた「さいはて」は計7カ所。アフリカのルワンダに進出する中国企業、中国に憧れるルワンダ人たち。また、ケニアにも中国資本の鉄道が整備されている。中国がアフリカ外交を重視し、巨額の融資をおこなってきたことは知っていたが、現地がこんなふうになっているとは。もう少しすると、中国語ができればアフリカを旅行するにも困らなくなるかもしれない。

 カナダのバンクーバーでは、チャイニーズ・フリーメーソンと自称する秘密結社「洪門」を訪ね、南京大虐殺など対日歴史問題をめぐる華人系議員の活動の背景を探る。しかして秘密結社の実態は、元来、移民や貧しい庶民の相互扶助が目的で、現在は老人たちの交流クラブとなっている。対日歴史問題を追及する議員たちの党派はさまざまで、要するに票になるから活動している側面が強い。海の向こうで断片的な情報だけを聞いていると、必要以上に禍々しく見えてしまうのかもしれない。

 中国本国での取材2件はどちらも面白かった。「中国農村版マッドマックス」と題されたのは、広東掲陽市省郊外。2013年の春節に、隣り合う寮東村と劉畔村の間で数百人規模の武力衝突が発生した。伝統中国では、このような民間の集団的武力衝突を「械闘(かいとう)」という。へえ~現象としては分かるが、この言葉は知らなかった。械闘からは伝統的な中国社会の性質が数多く垣間見えると著者は書いている。これは同意だが、日本の農村にも類似の習慣はあるのではないか(水争いとか)。そして中国には、まだこの伝統社会のパワフルな習慣が残っていることが驚きで、面白かった。

 もう1編は、恐竜オタク少年からホンモノの恐竜博士になってしまったシン・リダ(邢立達)博士に会いに行く。博士は琥珀の中に封じ込められた小型恐竜の尾を発見して、世界に衝撃を与えた(※参考:週プレNEWS 2018/11/17)。著者も恐竜少年だったそうで、たちまち意気投合してしまう様子が微笑ましい。オタク的情熱の共有は国境も国籍も軽々と超えるのである。

 著者の『「暗黒・中国」からの脱出』に登場する民主活動家・顔伯鈞氏の亡命後の姿も紹介されている。記事の最後に著者は「あなたは……ではないですか?」と推理を語り、顔氏から肯定されている。謎を残した終わり方だ。最後は、アメリカ在住の華人投資家・郭文貴へのインタビュー。著者は郭を「奸雄」と評する。後漢や唐の終わりに生まれていたら、きっと地方をいくつか切り取って天下を狙っていただろうと。そう、さいはての中国には、こういう歴史を超越したパワーが潜んでいるのが好き。


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