見もの・読みもの日記

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体験的〈愛国〉論/〈愛国心〉に気をつけろ!(鈴木邦男)

2016-06-21 22:51:59 | 読んだもの(書籍)
○鈴木邦男『〈愛国心〉に気をつけろ!』(岩波ブックレット) 岩波書店 2016.6

 高校生の頃から〈愛国心〉に目覚め、50年以上も「愛国運動」をやってきて、そのために逮捕されたこともある著者が、近年の排外的な〈愛国心〉と自由のない改憲論を真っ向から批判したエッセイ。

 私は、ずいぶん前から論客としての鈴木邦男さんが好きで、札幌に住んでいたときは、連続企画「鈴木邦男シンポジウムin札幌時計台」にも何度か出かけた。政治学者の山口二郎さんや中島岳志さんと話したり、元オウム真理教幹部の上祐史浩氏と話したり、懐の深い人だなあと感じた。元来「右翼」をやっていたことを、忘れたわけではなかったけれど、最近、話題の『日本会議の研究』で鈴木さんの名前を見たときは、驚かなくてもいいのに驚いてしまった。

 本書には、その頃(「生長の家」学生道場時代)の回想も詳しく語られている。著者が道場に入った1963年、「生長の家」創設者である谷口雅春先生は「革命が起きたら、日本の伝統・文化は否定される。天皇制も否定される」と述べ、「君たちは国家を守るために立ち上がるべきだ」と説いていた。この感覚は、私にはよく分からないものである。左翼は革命の実現を信じ、少数派の右翼は、中国やソ連による日本侵略を本気で恐れていたと聞くのだが…。

 谷口先生の教えを信奉する著者は、日本国憲法を諸悪の根源と考えて「改憲」もしくは「明治憲法の復元」を主張し、行動していた。スローガンのもとに終結した運動は、気持ちのよい一体感、高揚感を生み出す。しかし集団は暴走する。「右翼の運動だけでなく、左翼にも、また市民運動にも、そうした危険性はひそんでいる」という著者の分析は冷徹で正確だ。

 著者は改憲派だったが、『朝まで生テレビ』での論争を契機に憲法について考えるようになる。著者は40代後半くらいか。あらためて読んでみると、スローガンで凝り固まっていたときは見えなかった、日本国憲法の良さにも気づいたという。この正直さが著者のいいところ。そして、憲法起草にかかわったベアテ・シロタ・ゴードンさんに会い、「女子大生が大学のレポートを書くような気分で書いたんじゃないか」と「不愉快」に思いながら、二度三度と話を聞きに行く。ここで「不愉快」な存在をシャットアウトしないのが、鈴木さんて面白い。そして、とうとうベアテさん(とアメリカ人たち)が憲法草案に込めた夢と理想に打たれ、さらに憲法学者の小林節さんの影響も受けて、考えを改める。

 「実は改憲派」だという小林節さんの主張がどのようなものなのか、私はよく知らなかったので、ずっと警戒を抱いていたのだが、本書に紹介されている小林さんの「日本国憲法への改憲提案」は、非常に納得のいくものだった。全面賛成でないにしても、日本をよくするための議論の叩き台になる提案だ。これを見た自民党の政治家たちが、小林さんを改憲派の憲法学者として重宝していたというのは、全く意味が分からない。この「改憲案」と自民党案の、根本的な差異も目に入らないのだろうか。

 2015年、韓国のソウル大学に「右翼」として招かれて講演した体験も語られている。大学の学生たちも、街で出会った人たちも友好的だった。書店には日本の小説家の翻訳本がたくさんあったが、「反日」本は全くなかった。いまさら日本の侵略、帝国主義を批判しても「みんな知っているから」誰も読みません、という説明に笑ってしまった。

 最後に、三島由紀夫が〈愛国心〉について語った言葉がいくつか紹介されている。出典は、1968年1月8日付けの朝日新聞夕刊の記事「愛国心-官製のいやなことば」。この標題が全てを表している。著者は、三島の意図を解説して「三島は右翼が嫌いだったのだ。自らの〈愛国心〉だけを認め、それを押しつけようとする姿勢が嫌だったのだ」と述べる。「自らの〈愛国心〉だけを認め、それを押しつけようとする姿勢」は、今の「政府」あるいは「政権」の振舞いでもある。

 〈愛国心〉に気をつけろ!〈愛国心〉を汚れた義務にしてはならない、という著者の真剣な呼びかけが、今の日本に暮らす多くの人々の耳に届いてほしい。拍手と歓声を浴びる「体制」側ではなく、むしろ「国賊」「売国奴」という罵倒に甘んじる人々の中にこそ、真の愛国者はいると思っている。

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