見もの・読みもの日記

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女子の生き方/中華ドラマ『夢華録』

2022-08-10 21:18:25 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『夢華録』全40集(企鵝影視他、2022年)

 中国では今年最高のヒット作と言われているドラマ。舞台は宋・真宗の時代(らしい)。銭塘に暮らす趙盼児は、役人だった父親が皇帝に諫言して罪に問われたため、少女時代に官妓(賤籍)となったが、長じて良民となり、孫三娘とともに茶舗を営みながら、婚約者の欧陽旭が科挙に及第して迎えにくる日を待っていた。あるとき、都の皇城司で「活閻羅(生き閻魔)」と恐れられている顧千帆が、『夜宴図』という絵画を求めて銭塘に下ってきた。かつて銭塘県の県令が所有していた『夜宴図』は、趙盼児の手に渡り、いまは欧陽旭のもとにあった。

 趙盼児は、料理上手の孫三娘、琵琶の名手である宋引章とともに東京(汴京=開封)に上り、欧陽旭を訪ねる。しかし、科挙で探花(第三位)の好成績を得た欧陽旭は、高官の女婿になる約束を交わしていた。悄然と東京を立ち去ろうとする趙盼児たちを引き留めたのは顧千帆。女三人で茶舗「半遮面」を開き、次に酒楼「永安楼」に商売を拡大し、「女の店など認めない」という同業者たちの嫌がらせに屈せず、さまざまな工夫で評判を呼ぶ。生き生きと仕事に励む盼児に惹かれていく顧千帆。

 一方、欧陽旭は本当に心変わりしたわけではなく、高官に睨まれた場合の盼児の身を案じて別れを言い出したはずだったが、人生の歯車が狂って、次第に闇落ちしていく。手元の『夜宴図』に劉皇后の前半生の秘密が描かれていることに気づき、それを皇帝に注進し、顧千帆と趙盼児の罪を捏造しようとするが、皇帝の皇后に対する愛情は揺るがず、失敗。悪人は去り、女性たちはそれぞれの幸せを手に入れる。

 趙盼児(劉亦菲)は、舞踊から蹴鞠まで運動神経抜群で、茶芸にも通じ、教養もあり、商売も巧い。苦境に立てば思い悩み、頭を下げて金策に走り回るが、不当な侮辱には決して屈しない。官家(皇帝)にもはっきり意見を申し上げる。今の社会ならごく普通の女性の姿だが、古装劇で、こういう女性を違和感なく描き出したところが新鮮だった。

 あらゆる困難を、不屈の闘志と才覚(と女どうしのチームワーク)で乗り越えていく盼児に対して、恋人の顧千帆(陳暁)は影が薄い。序盤こそ冷酷無比な武闘派として登場するが、父親との関係に悩んだり、怪我で病床に伏せる描写が多くて、むしろ彼のほうがヒロインぽかった。しかし、別に女主が自力で運命を切り開いても、男主が女主を守り通さなくても、本人たちが幸せならいいのでは?と思う。お互いを信頼し、尊敬しあっている関係が伝わるので、この二人、欧米の映画やドラマに登場するカップルみたいな雰囲気があった。

 孫三娘(柳岩)は、夫も息子もいたのだが、身勝手な夫に息子を奪われ、離縁されてしまう。しかし東京で、風采は上がらないが誠実な杜長風と出会い、30歳で再婚の花嫁衣裳を着る。母親を追ってきた息子にも祝福されて新しい家庭を築く。宋引章(林允)は、はじめ商人に見初められ、趙盼児と孫三娘の反対を押し切って結婚するが、実は財産目当てだったことが発覚。法廷に訴え出て離婚を勝ち取る。東京では音楽好きの風流才子・沈如琢に言い寄られて心を許すが、これも利用されただけと分かる。楽伎という賤籍を脱したい焦りが、男たちに付け込まれてきたことを反省し、琵琶の技量に誇りを持って生きていこうとする。ちなみに三人のスポンサーとなる大金持ちの坊ちゃん・池衙内が最後は宋引章をデレデレと見守っていて、幸せな未来が想像できた。

 この池衙内(代旭)、大言壮語するだけで泣き虫の小心者なのだが、どこか憎めない。ドラマ『無証之罪』でサイコな殺人犯・郭羽を演じた俳優さんで、そのギャップにびっくりした。顧千帆の部下の陳廉は、細身の優男の上に兄弟は姉ばかりという設定で、女性たちとのフラットな付き合い方が巧い。いるなあ、こういう男子。陳廉は、趙盼児らの茶舗に拾われた招娣という元気な少女と相思相愛になるが、「招娣」も「盼児」も、女子より男子を望む気持ちを反映した名前であることが、ドラマの中で語られている。

 趙盼児は酒楼「永安楼」のVIP客のために、飲食だけでなく華麗なショーを提供する。大唐絵巻ふうのショーだが、ダンサーの中に女装した何四(胡宇軒=『将夜』の陳皮皮)が混じっていて笑った。このドラマ、かなり意識的にジェンダーの撹乱を狙っている。原作の古典劇『趙盼児風月救風塵』がどのように換骨奪胎されているのかは読んで調べてみたい。ちなみに導演の楊陽さんも編劇の張巍さんも女性である。全編美しく楽しいドラマだが、顧千帆と父親の蕭欽言(王洛勇)が最後に和解できたのかどうか示されないのが、私には物足りなかった。


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