見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

2022年6-7月@東京:展覧会拾遺

2022-08-01 22:28:08 | 行ったもの(美術館・見仏)

日比谷図書文化館 特別展『鹿島茂コレクション2「稀書探訪」の旅』(2022年5月20日~7月17日)

 稀書コレクターとして著名な鹿島茂氏。本展は、ANA機内誌『翼の王国』に連載された「稀書探訪」全144回に採り上げられた書籍や資料を総覧する。パリの景観図や風俗図など、以前、練馬区立美術館の『19世紀パリ時間旅行』で見たものもあったが、カラフルな絵本や児童書、四コマ漫画などもあって面白かった。窒息しそうな圧倒的なボリュームは、いかにも本好きと図書館員のつくった展示空間で好感が持てた。

五島美術館 『館蔵・近代の日本画展』(2022年5月14日~6月19日)

 風景画を中心に、明治から昭和にかけての近代日本を代表する画家の作品約40点を展観。数では横山大観と川合玉堂が圧倒的に多かったのは、五島慶太の、あるいはその時代の趣味だろうか。個人的には、小川芋銭の『夕風』とか、小林古径の『柳桜』とか、小茂田青樹の『梅さける村』とか、ほのぼのした風景が好き。玉堂はやっぱり巧いと感じる。平台の展示ケースでは、宇野雪村コレクションの文房具が展示されていて、筆・紙・墨・硯の文房四宝だけでなく、文鎮や水滴、筆筒、筆架などの取り合わせが楽しかった。

五島美術館 『館蔵・夏の優品展:動物の饗宴』(2022年6月25日~7月31日)

 絵画や工芸、考古資料などに表されたキュートな動物のかたち約60点を紹介する。しかし、いきなり『沙門地獄草紙断簡・火象地獄図』(平安時代)が展示されていたのだが、堕落僧を蹴散らし、食いちぎり、血走った目で暴れ狂う火象(恐竜みたいだ)は「キュート」なのか? 『駿牛図断簡』(鎌倉時代)は、江戸時代の模本から、もと10頭の牛と1人の牛飼を描いたものと分かり、これは9番目の牛であるとのこと。顔が小さく、頸や肩の筋肉が逞しくて強そう。絵画では、橋本関雪『藤に馬』が実は好き。今尾景年『真鶴図』は、ふわふわした白い羽がリアルな上に目が怖い。形を崩したポーズもよい。逆に、金島桂華の『鶴』は完璧なポーズに惚れ惚れした。展示室2「江戸時代の言葉遊び」は、地口、なぞなぞ、はんじもの尽くし。ゆっくりした気持ちで味わうと楽しい。

文化学園服飾博物館 『型染~日本の美』(2022年6月15日~8月4日)

 小紋、板締、型友禅など、さまざまな型染の服飾を紹介する。日本の型染は、型紙の登場によって世界で類を見ないほどに発達した。量産に向く型染は、日常着に多用され、幅広い人々に愛用された。確かに江戸後期の日常着といえば型染の浴衣である。手ぬぐいや半纏も。近代には化学染料を用いた型友禅の技法が開発され、庶民の女性たちにも華やかな友禅染めの着物が広がる。大正・昭和前期のモダン柄の友禅も面白いが、やっぱり驚くのは、複数の型紙を重ね合わせることで複雑な文様を生み出す職人芸。数学的な頭脳がないとできないと思う。

台東区立書道博物館 企画展『美しい楷書-中国と日本-』(2022年6月28日~10月23日)

 中国で楷書が完成するまでの過程を時代ごとに紹介するとともに、日本の楷書作品もあわせて展示する。久しぶりに同館を訪ねて、展示解説を読んでいるうちに、北朝では激しい楷書、南朝では穏やかな楷書が生まれ、隋唐でこれが融合する、という見取図が頭によみがえってきた。2010年の『墓誌銘にみる楷書の美』や2019年の『王羲之書法の残影』で教えてもらった見取図である。私は隷書好きだが、欧陽詢の『九成宮醴泉銘』は文句なくよいと思う。「楷書の極則」と呼ばれるそうだ。徽宗の『張翰帖跋(三希堂帖所収)』は長文で、痩金体の魅力を堪能した。林則徐の文字に「いかにも官僚らしい」という解説がついていたのには苦笑した。確かに細かくて読みやすい字が書けなければ、科挙に合格できず、官僚としてのスタートラインに立てないのだ。でも偉くなると大字の揮毫も求められるから、さらに大変だろうな。

 「三国志ではチョイ役、書道の大物」という解説つきで鍾繇の作品が出ていたのは個人的に嬉しかった。中国ドラマ『軍師連盟(軍師聯盟)』にも登場する、鍾会のお父さんである。日本の楷書には、不折の書を愛した森鴎外の作品も出ていた。

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