見もの・読みもの日記

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お目当ては『平治』と『吉備大臣』/ボストン美術館展(東京都美術館)

2022-08-16 21:54:43 | 行ったもの(美術館・見仏)

東京都美術館 特別展『ボストン美術館展 芸術×力』(2022年7月23日~10月2日)

 今年のお盆休みは、感染対策に気をつかいながら(基本的に単独行動で)いろいろ出歩いている。まずは東京編。本展は、世界有数のコレクションを誇るボストン美術館から、エジプトのファラオ、ヨーロッパの王侯貴族、日本の天皇・大名など、古今東西の権力者たちに関わる作品およそ60点を紹介し、力とともにあった芸術の歴史を振り返る。新型コロナウイルス感染拡大の影響で2020年に中止となって以来、2年越しの開催となる。

 大好きな『平治物語絵巻・三条殿夜討の巻』と『吉備大臣入唐絵巻』が来ると知って、これは見逃せないと思い、慎重に情報をチェックしたら、会期が長いわりに展示替えがないと分かった。ちょっと驚いたが、ありがたいことだ。職場がお盆休みに入った8/12(金)、開館10分前くらいに到着すると、美術館の周囲に沿って、けっこう長い列ができていた。あらかじめ日時指定券を購入していたので、スムーズに入場。私の前に50人くらいが入場していたと思う。冒頭には、洋画の肖像画が2点並んでいたが、私は一番見たいものから見ることに決める。

 2部屋くらい飛ばして先に進むと、人影が途絶えた先に『平治物語絵巻』が出ていた。一組だけ、ケースを覗き込んでいた二人連れは、私と同様、この絵巻に直行して来たのだろう。ケースの横に立った係員のお姉さんが「お並びいただく必要はございません」「列の後方からもご覧ください」と(たぶん)決められたセリフを小声で繰り返していたが、全くそんな案内が必要な状態ではなかったので、自分のペースで、じっくり眺めることができた。

 図版では何度も見てきた絵巻だが、何度見てもすごい。絵巻の序盤、三条殿に駆けつけようとする大臣、公卿らの牛車で大混乱する場面、牛車に引かれる直前の白いイヌの絶望的な表情に目が留まる。別の大きく傾いた牛車の窓からは、中に乗った貴族の顔が見えている。拡散→密集→拡散→密集を繰り返す群衆表現の巧みさと、ひとりひとりの緻密な描き分け。鮮やかな色彩。折り重なる女房たちの死体、職業的な冷静さで、捕えた者の首を斬る武士など、凄惨な場面にも関わらず、ものすごく美しい。

 私はこの絵巻、2000年に名古屋ボストン美術館(2018年閉館)で初めて見た。その印象があまりに強くて、今回が2回目のような気がしていたが、2012年に東博の『ボストン美術館 日本美術の至宝』で見たことをすっかり忘れていた。

 それから会場入口に戻って、順路に従って見てゆく。「姿を見せる、力を示す」のセクション冒頭の巨大な肖像画はナポレオンだった。ふむ、どこかで見た顔だと思ったら。その隣、青いドレスの少女は、英国のチャールズ1世の娘のメアリーだという(あとで調べて、チャールズ1世はピューリタン革命で処刑された国王と知る)。あとは、エジプトのホルス神のレリーフがあったり、中国・乾隆帝の龍袍があったり。

 「聖なる世界」には、キリスト教の宗教画。ルーカス・クラーナハ(父)にエル・グレコって、日本人の好みの分かった選択ではないだろうか。中国・南宋の『三官図』(伝・呉道子筆)は、3幅に天官・地官・水官の三神とその眷属たちをそれぞれ描いたもの。天官は雲の上で壇上に座り、地官は騎馬して雲に乗り、山の中を行く。水官は龍に跨って海を渡る。激しく波立つ海の描写が独特でおもしろい。元代の『托塔羅漢図』は、あまり奇矯に走らず、写実的な人物表現。平安時代の大日如来像は、図録によれば、体内に長治2年(1105)の墨書銘が確認されているのが興味深かった。あと、二月堂焼経とか中尊寺経とか、祥啓の山水図もボストン美術館にあるのだな。

 「宮廷のくらし」には、インド・ムガル帝国時代の宮廷生活を描いた彩色絵など。「貢ぐ、与える」では、伝・狩野永徳筆『韃靼人朝貢図屏風』がおもしろかった。2曲1隻のほぼ四角い画面の上部(奥)には、船に乗った漢人ふうの一行、下部(手前)には、馬に乗った韃靼人の一行が描かれる。全体を飾る華やかな金雲。この時代、南蛮屏風が多数描かれているけれど、「韃靼人」も人気のモチーフだったように思う。

 最後の「たしなむ、はぐくむ」のセクションは最上階(2F)へ。エスカレータの前に、次は『吉備大臣入唐絵巻』という予告のポップがあって、やばい、混んでいたらどうしよう、と慌てたが、それほどではなかった。広い展示室の三方の壁を使って巻1~4が完全公開されており、3周くらいして、じっくり眺めた。『平治』とは、ずいぶん人の顔の描き方が違う。髭を生やした人物が少ない(または髭が目立たない)ように思う。あと、吉備真備、どう考えてもズルいんだが、知恵比べでは勝てばいいのである。展示には、物語のポイントを示す解説が添えられていたが、1箇所「碁盤」が「基盤」になっていた。そして「碁盤の誤りです」という訂正のキャプションが展示ケースの上に追加されていたが、間違ったキャプション(展示ケースの中)は取り除かれていなかった。これは、展示ケースの中を一定の環境に保つため、展示期間中は容易に開け閉めできないのではないかと想像し、逆に感心した。

 このセクションで印象に残ったのは、南宋の『詩経書画巻』。伝・馬和之筆という絵画が、涼やかで愛らしくてとてもよかった。狩野山雪筆『老子・西王母図屏風』は整然とした構図の墨画屏風。日本初公開とのこと。左隻、西王母より偉そうなおじさんがいると思ったら、「(漢)武帝会西王母」という主題なのだそうだ。最後は、上野にゆかりの増山雪斎の『孔雀図』2幅でまとめていた。

 なお『吉備』は、私は2010年に奈良博『大遣唐使展』で見たのが最初で、2012年に東博でも見た。どちらの絵巻も今回が人生で3回目の出会いになる(正確には、東博の『ボストン美術館 日本美術の至宝』は会期中に2回行ったので4回目である)。欲張りだけど、いつかまた次の機会があることを願う。

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