見もの・読みもの日記

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慧可断臂図を見に/禅-心をかたちに-(東京国立博物館)

2016-11-20 23:11:12 | 行ったもの(美術館・見仏)
東京国立博物館 特別展覧会 臨済禅師1150年、白隠禅師250年遠諱記念『禅-心をかたちに-』(2016年10月18日~11月27日)

 春に京都国立博物館で見た展覧会の巡回展である。東京と京都ではかなり展示品が異なる(図録でいうと300余件中、約半数は東西1会場のみ)。しかし、さらに展示替えもあるので、東西1回ずつ行っただけは、残念ながら全部見たことにはならない。

 入口には白隠の彩色の『達磨像』(大分・万寿寺)。先日の山下裕二先生と山口晃画伯のトークイベントでも話題になっていたけど、下絵の線の無視のしかたが気持ちいい。特に頭頂部と鼻のあたり。そして、ふと自分の頭上を見上げると、アプローチを覆う天井板に「○△□」の穴が一列に並んでいて、向きを変えた照明がこの穴を通ると、床には横並びの「○△」と一歩下がった「□」の光が描かれる仕掛けになっているのだが、あまり気づいている人はいなかった。

 はじめのセクション「禅宗の成立」は祖師図など。達磨図多数。小さい目鼻がかわいらしくて、大阪のおばちゃんっぽい鹿苑寺の『達磨図』(彩色、鎌倉時代)と筋骨たくましく武術に長けていそうな静岡・成道寺の『芦葉達磨図』(墨画、鎌倉時代)が並んでいて面白かった。そして雪舟の『慧可断臂図』はいいなあ。最近、いつ見たっけ?と調べたら、2015年、2009年、2008年に見ていて、2008年に「初めて見たとき、キモチわるい絵だと思ったのがウソのようだ」と書いている。ほんとに不思議なことに繰り返し見るうちに、だんだんこの絵の魅力に取りつかれてしまった。師(と見込んだ人)を振り向かせるために自分の腕を切り落とすという主題も好きだし、技法とか構成の点でも、なんでそう描く?という謎がいっぱいあって好きだ。この展覧会は、特別に薄い展示ケースが使用されていて、いつもより作品に肉薄できて、とても嬉しかった。

 続く「臨済禅の導入と展開」は、臨済宗の本山14箇所+黄檗宗本山の計15のお寺(京博のレポート参照)の文化財が、創建順に紹介されていく。各寺院の簡単な説明パネルがあって、京博の会場より分かりやすかった。頂相(絵画・彫刻)がたくさんあった。なんとなく気に入ったのは中峰明本。「笹の葉書き」の文字も好きだが、福々しいお顔立ちもいい。宗峰妙超は解説に「鋭い眼差し」とあったけど、私には困り顔にしか見えない。東福寺所蔵の『円爾岩上像』は、スケッチふうの墨画の頂相で、野外でくつろぐポーズも珍しいもの。

 後半の始まりは「戦国武将と近世の高僧」で白隠、僊厓(仙厓)の作品がたくさん登場。近年発見されたという白隠の『慧可断臂図』(大分・見星寺)も確認。よく分からない絵であるが、下手な解釈をしようと思わないほうがいいのかもしれない。「禅の仏たち」では、神奈川・来迎寺の『跋陀婆羅尊者立像』(南北朝時代)が興味深かった。浴室の守り神で、袈裟をまとい、長い杖を両手で支えている。頭は垂髪のように見える。どこの来迎寺かと思ったら、鎌倉・西御門の来迎寺らしい。円覚寺の『達磨坐像』は、本当に達磨?といういうな若々しい表情。宝冠釈迦如来坐像をまつる仏殿の左斜め後方の祖師壇に安置されているというが、気づいたことがなかった。図録解説によれば、本展の事前調査で14世紀にさかのぼる古像と確認されたそうで、展覧会に出品されるのは、おそらく今回が初めてという。そんなこともあるのだな。また、鹿王院の『十大弟子立像』は京博でも見たが、ぐるり円形に並んでいて、一層かわいらしかった。特に振り返り方の色っぽい迦旃延尊者が気になる。

 最後は「禅文化の広がり」。大阪東洋陶磁美術館の『油滴天目』と相国寺の『玳玻天目』は、色合いもだが、きゅっと締まった形も美しい。この油滴天目は豊臣秀次所持なのか。織田有楽斎ゆかりの品も多くて、つい『真田丸』を思い出す。絵画は、大徳寺・高桐院の李唐筆『山水図』に再会。至近距離で見ると、小さく描かれた人物図(左・滝の図に2人、右・樹木の図に1人)にあらためて気づく。ほか等伯あり元信あり山楽あり。雪村の『瀟湘八景図帖』は3画面だけ見ることができた。藍色の繊細な淡彩が美しい。思ったより小品だった。
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