見もの・読みもの日記

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画の中の小宇宙/円山応挙(根津美術館)

2016-11-22 03:18:13 | 行ったもの(美術館・見仏)
○根津美術館 開館75周年特別展『円山応挙 「写生」を超えて』(2016年11月3日~12月18日)

 考えてみると、私の中で円山応挙(1733-1795)という画家のイメージもずいぶん変わった。むかしは、全く面白くない画家だと思っていた。京博の蕭白展の名コピー「円山応挙が、なんぼのもんぢゃ!」みたいな感じである。それが、今ではむしろ「奇想派がなんぼのもんぢゃ!」と言いたい衝動に駆られる。

 本展の見どころは、同館所蔵の名品『藤花図屏風』に加えて、三井記念美術館の『雪松図屏風』が展示されること。しかし、出品目録を見ると、ほかは「個人蔵」がすごく多い。美術業界って不思議だなあと思う。入ってすぐ『雨中山水図屏風』ですでに魅了される。画面のほとんどは雲か霧にかすみ、端の方にわずかに見える渓流と樹木、舟を操る人の姿。図録を見たら『雪中山水図』(後期展示)と対になるもので、以前にも見たことがあるのを思い出した(奈良県立の『応挙と蘆雪』展)。私は応挙のひろびろした空間把握が好きで、山水画がすごく好きだ。淡彩の『三井春暁図』も美しかった。

 一方、花鳥画や人物画はいまいちで、『牡丹孔雀図』は、早い時期に応挙の名前と結びついた作品だが、好きになれなかった。しかし、ベルベットのような羽毛の光沢、無駄や迷いのないブルーの使い方は素晴らしいと思う。『雪中残柿猿図』のサルはかわいい。

 墨画の『雨竹風竹図屏風』(圓光寺所蔵)は、細い竹の濃淡で、竹林の深い奥行きを描き出す。墨色の薄い竹ほど奥にあるように見える。実際に描くときは、濃い竹から描いていくのだろうか? 『藤花図屏風』はむかしから大好きな作品なので、今回、図録の表紙にもなっていて嬉しい。青・白・紫など複雑に色を重ねた藤の花は、モネの睡蓮を思い出させる。黄金の池に浮かぶ睡蓮だ。そして極度に抽象化されて、ほとんどリボンにしか見えない藤の幹と枝。展示室の角を隔てて『雪松図屏風』。これも確固とした空間表現が評価される作品だが、ふと、先月、和歌山で見てきた『雪梅図』(草堂寺)を思い出す。

 再び小品が続く中では、静岡県立美術館の『木賊兎図』がかわいい。白ウサギ2匹と黒ウサギ(鼻先は白い)1匹が、木賊の陰に身を潜めている。絵本「しろいうさぎとくろいうさぎ」みたいだ。『老松鸚哥図』は、伝統的な老松の枝に、赤と緑のツートンカラー(頭は黒)のインコが止まっている。その唐突感に笑ってしまった。

 展示室2も応挙特集。数々の写生帖が展示されていた。株式会社千總(京友禅の会社)が所蔵する『写生図巻』には、白ウサギ、黒ウサギの図あり。ウサギの口元を丹念に写生している。東博の『写生図帖』にはニホンザルの図。何かの手本を写したのかと思ったが、「猿 三才」とあるから本物を写したのかな。全身像のほかに、サルのお尻を書き留めているのが応挙先生らしい。

 さらに展示室5では、相国寺の『七難七福図巻』全3巻を展示(※詳細は承天閣美術館で全場面を見たときの記録参照)。いずれも巻頭から途中までが開いている。「人災巻」は、強盗~心中した男女遺体の検証まで。まあそこを選ぶよな、と思ったが、後期(11/29~)から巻替えがあるというので、もっと血みどろな問題シーンも展示されるかもしれない。外国人客が多いけど大丈夫かな…と、余計な心配をしてしまっている。

 展示室6は、気の早いことに「茶人の正月」。 展示ケース内の床の間に因陀羅筆『布袋蔣摩訶問答図』が掛かっているのが珍しく、嬉しかった。
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