見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

週末は滋賀:つながる美・引き継ぐ心(滋賀近美)+大津の浄土宗寺院(大津歴博)

2016-11-03 22:59:08 | 行ったもの(美術館・見仏)
滋賀県立近代美術館 企画展『つながる美・引き継ぐ心-琵琶湖文化館の足跡と新たな美術館』(2016年10月8日~11月23日)

 日曜日は早起きして正倉院を見て(後述)、そのあと、滋賀県に向かった。たまに関西に来たときは、見たいものから見ておくことにしている。本展は、平成20年(2008)に休館した琵琶湖文化館の収蔵品を中心に紹介するもので、前後期で75件を展示する。同館の収蔵品は、現在の県立近代美術館を再整備し、平成32年(2020)3月に開館する「新たな美術館」に引き継がれることが決まったそうだ。休館前の琵琶湖文化館は、二、三度訪ねただけだが、とても好きなミュージアムだった。収蔵品の落ち着き先が決まったことは喜ぶべきだろうが、再開の日を待っていただけに残念でもある。琵琶湖文化館のホームページは、休館後にぐんぐん充実して、情報発信はすごく頑張っていたのになあ。

 さて、展示会場の導入部は、琵琶湖を象徴するような深いブルーで飾られていた。冒頭に登場するのは、聖衆来迎寺の銅造薬師如来立像。左手に茶壺みたいな薬壺を掲げ、右手は体の側面で衣の端を握っている。田舎育ちの子供みたいに頬っぺたが膨らんでいて、小さな唇に浮かんだ笑みが愛らしい。収蔵品の中でも屈指の古さを誇る、奈良時代(8世紀)の像。今、自分のブログを検索したら、琵琶湖文化館の休館直前の特別展でも目を留めていた。

 それからしばらく仏像・神像が並ぶ。ずんぐりした体に強い霊力を感じさせる、東南寺の地蔵菩薩立像は私好み。仏具の数々も美しい。国宝『透彫華籠』は何度も見ているけど、斜めのガラス板に立てかけ、適度な照明が当たって、夢のようにキラキラしていた。『透彫華鬘』は、ちょうど正倉院展で見た鈴を思い出した。次の部屋に進むと、本展のポスターにもなっている正法寺の帝釈天立像(木造、平安時代)。帝釈天にしては眠たそうな表情で、戦闘意欲が全く感じられない。髪を高く結い上げ、衣の肘と広い襟ぐりにフリルがついている。襟元は片側だけ天衣で隠していて、左右非対称なところがお洒落。長幅寺の鉈彫りの阿弥陀如来像もいいなあ。御上神社の小さな神馬と馬丁像もいい。これらは「海外の展覧会等で公開された収蔵品」というカテゴリーで展示されていた。

 また、琵琶湖文化館とのかかわりを具体的に示した展示品も多く、大雨で付近の山が崩れたときに同館に一時避難したとか、ふだんは寄託されているが祭礼のときは戻されるとか、大きな不動明王坐像(伊崎寺)が同館職員の手で山道を下ろされたとか、ひとつひとつのエピソードが心に沁みた。あわせて、近年の指定文化財も展示されており、五百井神社の男神像は、平成25年(2013)9月の台風18号で本殿が押し流されたが、奇跡的に土砂の中から発見され、平成27年(2015)に県の指定文化財となったものだという。いろいろな物語があるものだ。

 絵画では、大清寺の『千手観音二十八部衆像』(鎌倉時代)が美しかった。桃色の蓮華座の上で、肉付き豊かな腕をくねらす千手観音坐像が色っぽい。画面の上部に風神雷神がいるが、左が風神、右が雷神なのだな。成菩提院の『普賢十羅刹女像』(南北朝時代)もいいものを見た。恐ろしげな正法寺の阿吽面(阿形と吽形の面、室町時代)は、琵琶湖文化館で見た記憶がなかったので、ちょっと驚いた。

 近世ものでは『山法師強訴図』(江戸時代)が面白かった。こんな屏風があるのか。展示品は左隻で、大きな屋敷の門前に、画面右から神輿と武装した山法師たちが進んでくる。屋敷を警護する武士の集団は、向かい蝶の紋が見えるのだが、平氏なのかな? でも笹竜胆(源氏)ぽい紋も見える。右隻は延暦寺の所蔵で、雲母坂を降りる神輿が描かれているそうだ。残念だが、私の大好きな曽我蕭白の『楼閣山水図』は後期展示のため見られず。紀楳亭の『蓬莱群仙図』も後期か~。また、会場内に飾られていた琵琶湖文化会館の大きな写真(秋の夕景)が懐かしくて、しみじみ眺めてしまった。もし取り壊されるなら、その前に一度、中に入れてほしい。

大津市歴史博物館 第71回企画展『大津の浄土宗寺院 新知恩院と乗念寺』(2016年10月15日~11月27日)

 同館は大津市内の浄土宗寺院に伝来する寺宝調査を継続して行っており、今回はその中から、大谷山新知恩院(伊香立下在地町)と香光山乗念寺(下百石町、現:京町)の歴史と宝物を紹介する。新知恩院は、以前、鎌倉時代の小さな木造釈迦涅槃像が見つかって、同館で展示されたときに名前を覚えた。乗念寺は全く記憶になかったが、地図を見たら大津の町中なので、大津祭に来たときに近くを通っていると思う。

 全体に文書の多い地味な展示だったが、新知恩院については、南北朝時代の『十六羅漢図』や室町時代の『観音・李白・陶淵明図』(なんだその三幅対は?)など絵画が印象的だった。南宋時代の『六道絵』は6幅をレプリカも含め2幅ずつ展示。私が見た「天道」「人道」は、水陸会のための絵画っぽくて面白かったが、図録を見ると「畜生道」がかなり異色。

 乗念寺は多様な阿弥陀来迎図多し。彫刻では、高い冠をかぶった、平安中期の木造聖観音立像がひときわよかった。実はこれも琵琶湖文化館の寄託品だったもので、調べたら、やっぱり私は休館前の特別展で出会っている。この日、ご縁があって観音様に招かれたみたいで嬉しかった。

 図録は『新知恩院』『乗念寺』それぞれA5サイズの小型本で出ていた。この「大津の浄土宗寺院」シリーズ、これからも続くのかな。こういう出版のしかたもいいと思った。
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