見もの・読みもの日記

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山下裕二先生 vs 山口晃画伯トークイベント「雪舟 vs 白隠」(東京国立博物館)

2016-11-05 22:51:56 | 行ったもの2(講演・公演)
東京国立博物館 トークイベント『雪舟 vs 白隠 達磨図に迫る』(2016年11月3日 13:30~15:00)(講師:山下裕二、山口晃)

 東京国立博物館で開催中の特別展『禅 心をかたちに』の関連トークイベントを聞きに行った。山下裕二先生と山口晃さんだから、絶対面白いだろうと思っていたが、期待以上だった。トークの前にお坊さんの指導で、15分ほど椅子坐禅を体験。それから両講師の登場となる。進行の主導権を取っていたのは山下先生。まあそうだろうな。6月に藤森照信先生と山口晃さんのトークイベントを聞いたときは、年長の藤森先生が仕切っているように見えて、根が自由人なので、山口さんがハラハラしている感じが面白かったが、今回は山下先生が安定のツッコミ、山口さんが鋭いボケの関係でバランスが取れていた。

 はじめに山下先生が、スライドを使って山口画伯の画業を紹介。20年位前、山下先生は山口さんの最初の個展を見に行って、会っているのだそうだ。あの頃は極貧だけど時間はたっぷりあったよねえ、などと回想。それから『邸内見立 洛中洛外図』や富士山世界遺産センターに掲げられた『冨士北麓参詣曼荼羅』などの作品について、画伯ご本人の解説や裏話を聞く。最後に、前日の11月2日から始まったミヅマアートギャラリーの個展『室町バイブレーション』の会場風景を映して、制作が全然間に合っていないことを紹介。山口さん、会場の一角でまだ「描いている」そうで、会期の終わり(12月)には、もう少し展示作品が増えるはずとか。

 続いて「雪舟 vs 白隠」の話題に入り、雪舟の『慧可断臂図』と白隠の代表的な彩色の『達磨図』(大分・万寿寺)を示し、「どっちが欲しい?」と山下先生。山口さんは即答で雪舟を選びながら、「でも、こっち(白隠)も管理にあまり気を使わなくていいから楽かも…」とよく分からないフォローを入れるのが可笑しい。山下先生の話では、むかしこれは雪舟の真筆ではないと考える学者もいて国宝になっていなかった(僕の先生の先生、とおっしゃっていたな)、それはおかしいと言い続けて、2004年にようやく国宝指定になった、云々。そういえば山下先生は、著書『驚くべき日本美術』でも2002年の『雪舟展』の裏話を暴露していらした。それから本展には出ていないが、雪舟の代表作『天橋立図』や『秋冬山水図(冬景図)』や『四季山水図巻(山水長巻)』について二人とも熱く語る語る。この黒々した墨色が、とか、このわずかな朱線が、とか、この墨継ぎの跡が、とか、こだわりの細部を拡大したスライドもたくさん用意されていて楽しかった。

 雪舟について30分ほど語り、残り30分が白隠で、なんて的確な進行と感心したが、「白隠は10分でも」と小声で山口さん。やっぱり雪舟に対するほどの思い入れはないのだな。山下先生は、引き続き熱く語る。そういえば「東博は白隠に冷たい」ともおっしゃっていた。山下先生の好きな白隠作品を次々に紹介。『隻履達磨』『達磨像(どふ見ても)』『大燈国師像』など、これ好きなんだよ!とおっしゃる。私は、白隠の絵は受けつけ難いものもあるのだが、今回、山下先生が挙げた作品はどれも好きだ。禅宗のスタンダードである円相の横に堂々と「遠州浜松良い茶の出どこ」云々と賛をつける、というあたりで、みんなで爆笑する。いや楽しかった。

 白隠30分で予定どおりかと思ったら、本当は山下先生は、白隠の奔放不羈な達磨図が、若冲や蕭白に影響を与えたのではないか、という話までしたかったらしい。そこは駆け足になってしまったが、またいつか詳しく聞きたい。最後に『日本美術応援団』シリーズの新刊紹介で、表紙は団員3号に加わった井浦新さんと山下先生の伝統の学ラン写真。「こういうの、どうなの?」と山下先生から聞かれて「いや、(赤瀬川さんが亡くなられて)どうなるのかと思っていたら、様子のいいのがサッと入られて」と山口さん(様子のいいのってw)。「入る?」と迫られて「じゃ、団員2.8号くらいで」と答えていらした。おお、ぜひ三人でトークセッションを。しかし「日本美術応援団」が世に出た頃は、こんなに日本美術が注目される時代が来るなんて、思ってもいなかったなあ。

 これにてトーク終了と思ったら、「ささやき女将」みたいなのが舞台袖にいて、色紙を差し出し、山口画伯に「達磨図」を描かせる! うわ、初めて見るけど「席画」ってやつか。ここからは写真撮影OKで、ぜひ皆さん、SNSで発信してください、とのことなので、載せておく。



※会場の様子と山口画伯が描いた「達磨図」はこちら(公式ホームページ)。

 なお、今回のトークイベントは全席指定の予約制(有料)だった。個人的には何時間も並ぶより、こちらのほうがいいと思う。しかし、トークイベントのチケットが「展覧会の鑑賞券付」であることが分かっていなくて、展覧会を見ずに帰ってきてしまったのは大失態。いや~『慧可断臂図』が後期出品なので、行くなら11月8日以降と決めていたもので。

 本館はいろいろ珍しいものが出ていた。特集展示『歌仙絵』(2016年10月18日~11月27日)には、佐竹本が5件(坂上是則、住吉大明神、小野小町、壬生忠峯、藤原元真)。安土桃山~江戸の書画が、狩野派描く「帝鑑図屏風」や「歴聖大儒像(孔子)」などを小特集していたのも面白かった。
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