○府中市美術館 企画展『春の江戸絵画まつり かわいい江戸絵画』(2013年3月9日~5月6日)
「かわいい」をキーワードに、江戸時代の絵画の中に表現された、さまざまな感情に注目してみる展覧会。まず、幕開けに並ぶのは、文句なく「かわいい」(と企画者が判断した?)作品。対青軒印(宗達筆)の真っ黒な子犬。松花堂昭乗のまんまるい袋にもたれる布袋。うむ、まるくて重心が低くて、コロコロしているものは、だいたいかわいい。え?でも長谷川等彝の、アバラの浮き出た洋犬図はかわいいか? じゃれあう子犬に注目しろということらしいが、このへんはすでに微妙。
続いて「かわいい」に含まれる、さまざまな感情を分析してみる。「かわいそう」「健気」「慈しみ」などのキーワードで、作品を並べているが、うーん、そうかな?と首をひねるものが多かった。おかしかったのは、開き直ったような「微妙な領域」という括りで、若冲の『布袋図』、仙義梵の『老子図』(う、牛!)など、画家は全然かわいく描こうとしていないのに、微妙にかわいい。「ぽつねんとしたもの」の、池大雅筆『鼓を打つ動物図』(ネズミ?)にも、うまく言えない微妙さがある。蘆雪の『鶏雛図』にも。私は、文句ない直球の「かわいさ」よりも、どこか情けなかったり、気持ち悪かったりする、微妙な「かわいさ」のほうが好きだ。
蕪村の『捨篝図』は好きだが、私の中では、ちょっと「かわいい」とは違う範疇に含まれる。中村芳中の『蝦蟇鉄拐図』の蝦蟇仙人は、バカボンのパパみたいな顔をしていて、腰をひねった一本足の蝦蟇は、みうらじゅんの絵みたいである。
少し途中を急いで、私がいちばん感激した「虎の悩ましさ」のセクションに進もう。応挙の『虎皮写生図』(本間美術館)は、大きな(実物大?)の虎の毛皮の写生図と、何枚かの虎図を屏風仕立てにしたもの。写生図の一部は、はみ出して屏風の裏面に続いている。ここには、岸駒、宋紫山など、さまざまな画家が試みた虎図が集められている。展示替えのため見られなかったけど、後期に登場の横井金谷や菊田伊州の虎図も見たかったなー。
でも、長澤蘆雪の虎を見ることができたので満足としよう! 最も有名な、飛び出す『虎図』じゃないけど、前期は『四睡図』(草堂寺/和歌山県立博物館寄託)と『豊干禅師図』(個人蔵)が出ていた。後者は、甘えるように禅師の身体に巻きつけた、もふもふの尻尾に萌え死ぬ。蘆雪の虎はいいなあ。猛獣の顔と姿を捨てていないのに、同時に愛らしい。蘆雪というのも、そういう人物だったのかな、と思う。後期登場の、もう1枚の『四睡図』(本間美術館)は、ヘンなポーズをとる後ろ足が、寝相の悪い子どもみたいだ。
「応挙の子犬、国芳の猫」というのも、面白い注目ポイントだと思った。犬も猫も、古代から愛玩動物として人間のそばにあったが、「かわいい」犬や猫の絵は、江戸時代、新しい描き方をする画家の登場によって成立する。でも私は、応挙の子犬より、それを崩したような蘆雪の子犬のほうが好き。国芳の猫は、それほどかわいく見えないのだが、猫好きにだけ分かる「かわいさ」が描き込まれているような気がする。
楽しい作品の多い展覧会。出品目録を見直して「個人蔵」の多さに感嘆した。ずいぶん見ているはずの若冲や仙でも、まだまだ初めて見る作品があるものだ。ほぼ入れ替えとなる後期展示作品は、読み応えある解説とともに図録でチェック。
「かわいい」をキーワードに、江戸時代の絵画の中に表現された、さまざまな感情に注目してみる展覧会。まず、幕開けに並ぶのは、文句なく「かわいい」(と企画者が判断した?)作品。対青軒印(宗達筆)の真っ黒な子犬。松花堂昭乗のまんまるい袋にもたれる布袋。うむ、まるくて重心が低くて、コロコロしているものは、だいたいかわいい。え?でも長谷川等彝の、アバラの浮き出た洋犬図はかわいいか? じゃれあう子犬に注目しろということらしいが、このへんはすでに微妙。
続いて「かわいい」に含まれる、さまざまな感情を分析してみる。「かわいそう」「健気」「慈しみ」などのキーワードで、作品を並べているが、うーん、そうかな?と首をひねるものが多かった。おかしかったのは、開き直ったような「微妙な領域」という括りで、若冲の『布袋図』、仙義梵の『老子図』(う、牛!)など、画家は全然かわいく描こうとしていないのに、微妙にかわいい。「ぽつねんとしたもの」の、池大雅筆『鼓を打つ動物図』(ネズミ?)にも、うまく言えない微妙さがある。蘆雪の『鶏雛図』にも。私は、文句ない直球の「かわいさ」よりも、どこか情けなかったり、気持ち悪かったりする、微妙な「かわいさ」のほうが好きだ。
蕪村の『捨篝図』は好きだが、私の中では、ちょっと「かわいい」とは違う範疇に含まれる。中村芳中の『蝦蟇鉄拐図』の蝦蟇仙人は、バカボンのパパみたいな顔をしていて、腰をひねった一本足の蝦蟇は、みうらじゅんの絵みたいである。
少し途中を急いで、私がいちばん感激した「虎の悩ましさ」のセクションに進もう。応挙の『虎皮写生図』(本間美術館)は、大きな(実物大?)の虎の毛皮の写生図と、何枚かの虎図を屏風仕立てにしたもの。写生図の一部は、はみ出して屏風の裏面に続いている。ここには、岸駒、宋紫山など、さまざまな画家が試みた虎図が集められている。展示替えのため見られなかったけど、後期に登場の横井金谷や菊田伊州の虎図も見たかったなー。
でも、長澤蘆雪の虎を見ることができたので満足としよう! 最も有名な、飛び出す『虎図』じゃないけど、前期は『四睡図』(草堂寺/和歌山県立博物館寄託)と『豊干禅師図』(個人蔵)が出ていた。後者は、甘えるように禅師の身体に巻きつけた、もふもふの尻尾に萌え死ぬ。蘆雪の虎はいいなあ。猛獣の顔と姿を捨てていないのに、同時に愛らしい。蘆雪というのも、そういう人物だったのかな、と思う。後期登場の、もう1枚の『四睡図』(本間美術館)は、ヘンなポーズをとる後ろ足が、寝相の悪い子どもみたいだ。
「応挙の子犬、国芳の猫」というのも、面白い注目ポイントだと思った。犬も猫も、古代から愛玩動物として人間のそばにあったが、「かわいい」犬や猫の絵は、江戸時代、新しい描き方をする画家の登場によって成立する。でも私は、応挙の子犬より、それを崩したような蘆雪の子犬のほうが好き。国芳の猫は、それほどかわいく見えないのだが、猫好きにだけ分かる「かわいさ」が描き込まれているような気がする。
楽しい作品の多い展覧会。出品目録を見直して「個人蔵」の多さに感嘆した。ずいぶん見ているはずの若冲や仙でも、まだまだ初めて見る作品があるものだ。ほぼ入れ替えとなる後期展示作品は、読み応えある解説とともに図録でチェック。