見もの・読みもの日記

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交流の足跡/時代の美 中国・朝鮮編(五島美術館)

2013-02-25 23:58:51 | 行ったもの(美術館・見仏)
五島美術館 新装開館記念名品展『時代の美-五島美術館・大東急記念文庫の精華』第4部 中国・朝鮮編(2013年2月23日~3月31日)

 昨年10月の新装開館から半年にわたった記念名品展も、いよいよ大詰め。出し惜しみ(?)されていた同館の中国・朝鮮コレクションがようやく見られる、と思うと嬉しくて、初日から足を運んだ。展示室に入って、前半(右列)の壁には軸物が並び、後半(左列)が陶磁器であることは、すぐ把握できた。正面(奥)には一見何もなくて、あとで近寄ったら古版本や古版経が寝ていた。

 軸物のはじめは墨蹟(禅僧の書いた書)である。いいわー。むかしは、こんなもの何がいいのか、サッパリ理解できなかった。今でもきちんと言葉で説明することは難しいが、眺めていて、じわじわ染みわたる気持ちのよさは共感できるようになった。巧い字ばかりではないが、鷹揚だったり謹直だったり、それぞれ個性的な人格と向き合っている感じがする。ところどころ読める熟語を拾ってみると、自然と「日本」「日東」の文字が多いことに気づかされる。解説にも「(中国の禅僧が)帰国後、日本の大檀越に向けて送ったもの」とか「日本から入元した僧に与えたもの」「日本に帰国する弟子に与えた餞別の偈」などの説明が頻出する。当時の人々に国境や国籍の概念がどのくらいあったのか、よく分からないが、海を越え、はるかな距離を越えて師弟の交わりを持った人々がいて、その遺墨が守り伝えられてきたことに感慨を深くする。

 続いて、絵画が数点。伝・徽宗皇帝筆『鴨図』は、あくまで伝承筆者なのね。伝・牧谿筆『叭々鳥図』は、MOA美術館と出光美術館が有する同図と、もとは三幅対だったという。ネットで画像検索して、なるほどねと思う。私は何気ない坊さんの図、南宋の『対月図』と元の『政黄牛図』が好きだ。

 そして、展示室のいちばん奥に到達して、古版本・古版経を眺める。重文『宋版 石林先生尚書伝』は細い筆画がきれいだ。痩金体っぽい。五島美術館の表札を思い出す。静岡県の清見寺を意味する「清見寺常住」の朱印が押されている、という解説を読んで、おや?と思い当たることがあり、調べたら、やっぱり白隠の『達磨像』を持っているお寺である。展示箇所には「慶福院」印と「江風山月荘」印もあり。後者は稲田福堂という蔵書家の印らしい。

 ほかに文献資料はないかな、と前に戻って、清初に刊行された絵画制作の手引き書『芥子園画伝(かいしえんがでん)』を見つける。すごいわーこれ。Wikiによれば「寛延年代(1748年ごろ)以来、日本でも翻刻本が何度も出版されている」そうで、私もこの題名を持つ和本を何種類か見たことがあるが、本書は「初版に近い精巧さを保った早期の刊行本」。色数は、日本の浮世絵のように多くないが、品があって美しい。五彩の磁器の色付けみたいだ。

 明代の『十竹斎箋譜初集』は、箋紙(便箋)に添える小さな図案集。実は中国にもこういう(小さくかわいいものを愛でる)美意識があるんだな。そして、なんと精妙な多色摺りの技術。漢籍(中国の古い本)は基本的に白黒の世界だ、と言っていたおじさんを思い出し、うそつき~と思う。本を扱うのに、文学や歴史・思想の研究者の言葉だけを聞いていてはいけません。

 さらに敦煌経など隋唐の古写経を見て、一挙に年代がさかのぼるなあと思っていたら、いきなり紀元前13~11世紀の玉製品が出てきて、めまいがしそうになった。そのほか、銅鏡、陶芸、(別室に)金銅仏、仏頭(雲崗由来)などあり。中国ものが多く、朝鮮半島の陶芸は別室に集められている。

 多くは伝来品か将来品だと思うが、銅鏡に「千葉県で出土」「奈良県(大和国)出土」という説明があって、面白いと思った。また展示室2には、宮崎県西都原古墳群で出土した金銅馬具類(新羅時代)が展示されている。不思議なお宝を持ってるんだなあ、五島美術館って。

 中国の陶芸は、だいたい記憶にある品が多かったが、新しい照明になったせいか、以前より見栄えがよくなった気がする。特に青磁とか緑釉とか、単色の釉薬のトロリとした感じが美しい。
コメント (1)
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