見もの・読みもの日記

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一陽来復/日本の漆(日本民藝館)

2013-02-04 22:07:50 | 行ったもの(美術館・見仏)
日本民藝館 特別展『日本の漆-南部・秀衡・浄法寺を中心に』(2013年1月10日~3月24日)

 日本民藝館には、年に2、3回行っているけど、新春の特別展がいちばん好きだ。近年、東京では、個人の家からも公共空間からも、正月らしさがほとんどなくなってしまったのに、ここには、ちゃんと正月が来ている感じがする。「日本の漆」というのも、新春にふさわしいお題だ。

 さて、今回の大階段のしつらえは、どんなふうかな、とわくわくしながら、玄関の戸をゆっくり引き開ける。左右の壁には藍染の筒描。正面には、化けて出そうな朱の盆。手前の展示ケースには、張子や粘土細工の古人形が飾られている。ほっこりして目出度い。

 「二階からご覧ください」の声に押されて、大展示室に入る。「南部・秀衡・浄法寺」と聞いて、頭の中が東北イメージに染まっていたが、最初のケースに収まった朱塗りの小品(椀・酒器・丸膳など)が、すべて沖縄製だったのに戸惑った。あとのほうにアイヌ使用品もあり。ただ、いかにもアイヌらしい刀綬(太刀の紐)などもあれば、交易で得たと思しい浄法寺塗の器などもあった。また、螺鈿・漆皮・卵殻貼・金唐草など、多様な漆工芸の技も紹介されている。

 展示室の奥の壁際には、螺鈿漆絵鍵文の菓子箱、「柳に扇面」文の漆盆などの優品4件が、展示ケースなしで飾られていて、新春らしい、おおどかな感じがした。背景には華やかな革羽織。

 朱塗の漆器には藍染筒描がよく似合うが、それ以外にも、友禅や大きな種子曼荼羅と取り合わせるなどの工夫があった。展覧会のポスターになっている漆絵柏文瓶子は御家流の漢詩の軸と一緒に飾られていた。

 それ以外の展示。「朝鮮陶磁器」の室では、陶磁器よりも『花下狗子図』『猫蝶図』『架鷹図』と揃った朝鮮絵画コレクションに驚く。「民芸運動と木漆工」では丸山太郎の「卵殻貼」作品が面白かった。黒田辰秋作の葛切り用器は岡持ちみたいな箱型。京都・鍵善の葛切り用器は円錐形だったな、と思い出す。(調べたら、あれも黒田辰秋の作品だそうだ。→鍵善社長談

 「東アジアの漆工芸」。朝鮮の漆工芸は、展示品に限ってだけど、小ぶりで線が細いものが多かった。子どもの悪戯みたいな、素朴な螺鈿の愛らしさ。化けて出そうなものがない。日本の朱塗りの大蜀台なんて、ほとんど妖怪みたいだったのに(褒めてます)。「仏教絵画」は、鎌倉時代の慈恵大師像、来迎阿弥陀図など。「民藝」の空間で見る仏画は、信仰の場であるお寺で見るのとも、博物館で見るのとも違う、独特の感興がある。面白かったのは、江戸の聖衆来迎図で、酒屋だろうか、樽桶の並んだ店先で町人ふうの男が手を合わせているところに、阿弥陀如来と聖衆が到達しようとしていた。さりげなく置かれた卵殻貼の卦算にも注目。

 階下は「九州の古陶」「民藝運動の作家達」そして「日本の染織」。明治時代の火消半纏が、水中に駆け入る騎馬武者を描いていて、宇治川合戦かな、と思った。それから、藍染筒描の夜着に、巨大な揚羽蝶文が描かれているのを見たときも、平家だ!と感に入ってしまった。
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