見もの・読みもの日記

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俗世の向こう側/ユートピア(出光美術館)

2009-12-08 23:45:33 | 行ったもの(美術館・見仏)
出光美術館 『ユートピア-描かれし夢と楽園-』(2009年10月31日~12月20日)

 ユートピア(理想郷)をテーマに、古来描かれてきた「夢」と「楽園」の特質を探ります、って具体的にどんな作品が出ているのか、まるで分からない。こういう曖昧模糊としたタイトルの展覧会は嫌いだ、と文句を言いながら、行ってみた。冒頭には、山の向こうにすっくと立ち上がって、巨大な上半身をあらわした『山越阿弥陀図』(南北朝時代)。お、佐竹本三十六歌仙の『柿本人麻呂』もある。他館からの貸出品も多少あるが、基本は同館所蔵の名品選であるようだ。

 したがって、見覚えのある作品が多いが、中には、初見のものも。斎藤秋圃の『涅槃図』はかわいい。釈迦見立てで、禿頭の小さな爺さんが向こう向きに寝そべっているのは、博多・聖福寺の住持をつとめた仙涯和尚。芭蕉扇を枕元に置いて、夕涼みの体か。寝台の周囲には、にこにこ顔で近所の人々が集まり、動物たちの代わりに、仙涯の好物や愛用の品々が集っている。盆栽、文具、茶道具、火鉢、時計にメガネ? 仙涯って「本来無一物」の禅僧かと思ったら、意外といろんな愛用品を持っていたんだな、と微笑ましかった。

 室町時代の『布袋図』は初公開だそうだ。この、だらしなく毛深いでぶ男を「ユートピア」の表象とする感覚、宮仕えの塵労を知らない若者には実感できまい、と思う。本展では、ユートピアの描き方を、いくつかの類型に分けて紹介しているが、私は、冒頭の「俗世」の対極に幻視されるユートピアにいちばん惹かれた。会場に掲げられていた陶淵明の詩はいいねえ。中年過ぎて分かる味わいだなあ。

 それに比べると、「美人衆芳―恋と雅」のユートピアは、ああ、そういうのもありね、という程度の共感しか湧かない。しかし、作品としては、大好きな宗達の伊勢物語色紙『武蔵野』そして源氏物語色紙『少女』が見られて、嬉しかった。どう見ても雛人形の紙芝居で、生身の人間を描いているようには見えない愛らしさ。『松下弾弦図屏風』は、以前にも見た記憶がある。満開の桜の下、3人の美女と2人の禿(かむろ?)=少女。とりわけ、2人の少女ののびのびと自然な表情、姿態が目をひく。美女の髪型、着物の柄、そしてオバケのように長い煙管も近世初期の風俗だが、よく見ると、強い陰影が描き込まれていて、実は新しい作品なのかしら、とも思う。

 「花楽園―永遠なる四季」も、日本人好みのユートピアのひとつ。酒井抱一の『十二カ月花鳥図貼付屏風』では、十月の柿の木に目白が可愛かった。
コメント
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