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見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。
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あるユートピア/図説・着物柄にみる戦争(乾淑子)

2007-07-12 23:29:16 | 読んだもの(書籍)
○乾淑子『図説・着物柄にみる戦争』 インパクト出版会 2007.7

 昨日、たまたま東京駅に出た。ひとを待ちながら丸善で時間をつぶしていたら、人文科学のコーナーに平積みになっていた本書を見つけた。

 表紙には、1枚の着物の後ろ姿が小さく写っている。よく見ると、その着物をいろどるのは、鉄カブトに銃剣を携えた幼児たち。伝統の”唐子”さながら、丸々と肥えた裸の手足をさらしている。背景には戦闘機、戦車、パラシュート、そして旭日旗の赤が、吉祥文様のように鮮やかである。一瞬のうちに全てを見てとったわけではない。タイトルも写真も、非常に控えめな造りなのだ。しかし、にもかかわらず「なんだ、これは?」と思わせる妖しいオーラが匂ってくる。

 おそるおそる手に取って、中を開いて吃驚した。本書は、日清~日露戦争期につくられた、戦争柄の着物(浴衣、半纏、襦袢、羽織裏、風呂敷、手拭い、布団など)を集めた図集である。百聞は一見に如かず、札幌・紀伊国屋ギャラリーで行われた展覧会のサイトをご覧いただきたい。すごい。想像を絶する世界のトビラを開けてしまった感じである。

 けれども、私は何か似たものを知っている、と思った。昨年、ボストン美術館で見たソビエト・テキスタイル」の展示である。飛行機、工場、トラクターなど、モダン・テクノロジーの産物を用いたポップなデザインが印象的だった。

 戦争柄の着物も、最も好ましいのは子供向けの着物である。「子供の着物の戦争柄は、現代で言えば、ウルトラマンや仮面ライダーのついたTシャツやトレーナーと同じように少年たちを楽しませ」た。そこに描かれた飛行機、戦車、オートバイなどの愛らしく魅力的なこと。そこには、科学技術と未来への無垢な信頼が感じられる。戦争が悲惨な経験であったことは言うを俟たない。しかし、アダ花のように、こんな見事な実践アートがあったことは心に留めておきたいと思う。

 札幌の展覧会は終わってしまったが、9月に西宮で小規模な展覧会があるらしい。ぜひ見に行きたい。あ、図録は、もちろんその場で買いましたとも。
コメント (3)
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