見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

模写・模造の心意気/東京国立博物館

2005-08-02 22:38:14 | 行ったもの(美術館・見仏)
○東京国立博物館 特別展『模写・模造と日本美術-うつす・まなぶ・つたえる-』

http://www.tnm.go.jp/

 このポスターを見たときはにやりとしてしまった。赤い背景の中央に、白い小さな字で「模写だけで展覧会になるとは思わなかった。横山大観」。その下に、もっと小さな字で「(だったら言う)」と付け加えてある。おいおい! 京博の曽我蕭白展の「丸山応挙がなんぼのもんぢゃ!」に匹敵する名コピーだが、東博のサイトには、このポスター、非常に小さい画像しか載っていないのが残念だ。

 実際、展示もおもしろかった。浄瑠璃寺の吉祥天女に迎えられて、最初の展示室に入ると、そこには、仏像好きにとって、夢のような光景が広がっていた。手前に薬師寺の聖観音がおわします。細身のプロフィルは法隆寺の百済観音。東大寺の執金剛神もいる。背を向けているのは、二月堂の日光か月光か。少し離れたところには興福寺の無著・世親。という感じで、シルエットクイズでもすぐ分かるような有名どころの仏像が、文字通り、一堂に会しているのだ!

 これら仏像の模作の多くは、明治初期、岡倉天心の理論的指導のもとに行われた事業である。よく見れば確かに「摸造」なのだが、見事なものだ。内面から真に迫ろうとする気迫が、新たな美を生み出している。執金剛神などは、厨子に入った本物では扉の影になってしまう、天衣の鋭い翻り具合に、初めて気づくことができた。

 興味深かったのは、正倉院宝物のひとつ、讃岐国から献上された白絹の「復元」である。きわめて細い絹糸で織られているので、通常の繭から取れる絹糸では復元できないのだ。そこで、皇居内で皇后さまが昔ながらの方法で飼育している蚕の繭から取った糸を用いたという。どんなに高度な職人芸、最新鋭の工業技術があっても、材料が確保できなければダメというのが印象的だった。

 なお、展示品中にたぶん1つだけ(?)「本物」が混じっている。岡倉天心の直筆書簡なのだが、みんな、周りの模写・模造を眺めるのと同じ視線で眺めて通っていくんだよなあ。
コメント (1)
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