見もの・読みもの日記

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70年代の忘れもの/韓国からの通信(T・K生)

2005-08-16 22:59:36 | 読んだもの(書籍)
○T・K生,「世界」編集部『韓国からの通信-1972.11~1974.6-』(岩波新書)岩波書店 1974.8

 「韓国からの通信」は、1970~80年代、岩波書店の雑誌『世界』に「T・K生」のペンネームで連載された匿名記事である。韓国の軍事独裁権力による弾圧のすさまじさと、民主化を求める民衆の抵抗を生々しく伝えて、日本の知識人に大きな反響を呼んだ。一方で、この匿名通信は、「世界」編集長・安江良介氏の「捏造」である、とする憶測もあったが、2003年7月、韓国翰林大学日本学研究所長の池明観(チ・ミョングワン)氏が、筆者であることを告白し、疑惑を晴らした。

 という経緯を、私が知ったのは、つい最近のことだ。たぶん2003年7月に「T・K生」の真実が判明、というTVニュースを見た記憶があるのだが、何それ?という感じで、特に何の感銘も受けなかった。

 ごく最近、和田春樹氏の『同時代批評』(彩流社 2005.3)を読んで、この匿名通信が、連載当初に持っていたインパクトと、それゆえ、保守系論客によって「捏造」の誹謗を与えられた理由が、初めて少し分かったように思った。

 そんな折も折、書店の平積み棚で本書を見つけたときは驚いた。私は、この匿名通信が、岩波新書で刊行されていることさえ知らなかったのだ。「戦後60年、私が薦める岩波新書」と題し、6人の論客が5冊ずつの岩波新書を薦めるという企画である。本書は、姜尚中氏の「お薦め」で、どうやら緊急増刷されたものらしい。ありがたいことである。

 本書で取り上げられている時代は、1972年11月から1974年6月。朴大統領による戒厳令の宣布直後から、金大中氏拉致事件、詩人の金芝河氏への死刑宣告などを含む。

 日本は、大阪万博、札幌冬季オリンピックを成功させ、平和と繁栄に浮かれていた頃だ。私はこの間に中学生になった。世界にはさまざまな国があり、言葉や習慣の違う人々が住んでいることまでは理解できた。でも「政治体制」が違うという意味は、まだ理解できなかったなあ。

 どこの国、どこの地域の人々も、だいたい、同じように「自由」を享受し、同じような「権利」を行使して生活しているのだと漠然と信じていた。旱魃や天災で穀物が取れないとか、工業化が進んでいる/いないというような差異はあるにしても、現政府の批判を口にしたら逮捕されて、拷問で生命を落としかねないとか、普通の人々が相互スパイや密告におびえながら暮らすという不幸が同時代に存在することは、全く想像もできなかった。

 まあ、私が特別に鈍い中学生だったわけではないと思いたい。いま、大人になって本書を読んでも、やっぱり、韓国の近現代史って、分かりにくいなあと思う。もちろん朴政権の独裁と悪逆非道ぶりは憎むべきなのだが、にもかかわらず、誰がどうして悪者なのか、どうもスッパリ割り切れない感がある。本来、敵対してはならない同一民族が分断されているせいか、または、日本政府(および企業)が、隠微な絡み方をしているせいかなあ。まだまだ、韓国現代史をきちんと語るには、私には勉強が必要だ。
コメント (1)
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