「音楽&オーディオ」の小部屋

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愛聴盤紹介コーナー~ベートーヴェン・ヴァイオリン協奏曲♯2~

2008年03月13日 | 愛聴盤紹介コーナー

ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲の後半については次のとおり。

(演奏者、指揮者、オーケストラの順)

☆11 ブロニスワフ・フーベルマン フルトヴェングラー ベルリンフィルハーモニー
     録音:1934年

☆12 ヤッシャ・ハイフェッツ トスカニーニ NBC交響楽団
     録音:1940年

☆13 エーリッヒ・レーン フルトヴェングラー ベルリンフィルハーモニー
     録音:1944年

☆14 イダ・ヘンデル クーベリック フィルハ-モニア管弦楽団
     録音:1948年

☆15 ヤッシャ・ハイフェッツ ミンシュ ボストン交響楽団
     録音:1955年

☆16 レオニード・コーガン シルヴェストリ パリ音楽院管弦楽団
     録音:1959年

☆17 ヨゼフ・シゲティ ドラティ ロンドン交響楽団
     録音:1961年

☆18 ジノ・フランチェスカッティ ワルター コロンビア交響楽団
     録音:1961年

☆19 アンネ・ゾフィー・ムター カラヤン ベルリンフィルハーモニー
     録音:1979年 

                 
           11                12                13 

                 
           14                15                16

                 
            17               18                19

≪私見による試聴結果≫ 

11 70年以上も前の録音なので、当然のごとく録音は良くない。高域はジャリつくし、低域はボンつく。しかし、演奏の方は間違いなく一級品。しっかりとした技巧に裏づけされた迷いのない演奏で、第一楽章ではやや淡淡とした演奏だが、第二楽章では一転して情緒たっぷりの歌い方で使い分けが見事。なお、カデンツァはシェリングと一緒だった。指揮者のセルは後年、クリーブランド管弦楽団を世界一流に仕上げるが、この時点から一流のウィーンフィルを率いるぐらいだから若いときから頭角を現していたのだろう。ただし、この盤も1,2と同様に一般向きではない。

12 オーケストラが一分のスキもない、まるで軍隊の行進のように正確無比に足並みをそろえて進んでいく。それも目標にめがけてまっしぐらに突き進み、ヴァイオリンがそれに合わせてついていく印象で演奏時間も全体で38分前後とこれまでで最も早い。
何だか
ヴァイオリン付き交響曲の感じで、ベートーヴェンが意図したのももしかするとこういう演奏かもと思わせるような説得力がある。
ハイフェッツは想像したよりも音色が細く繊細で確かに無類の技巧を発揮するが、自分にはいまひとつ、心に響いてくるものがなかった。

13 この盤のライナーノートによるとフルトヴェングラーの同曲ディスクは5種類あり(メニューインが3回、シュナイダーハンが1回)、この盤(ライブ)はやや激しい演奏の部類だという。ソリストのエーリッヒ・レーンは当時のベルリン・フィルのコンサートマスター。ヴァイオリンの音色がとても明るくて”行け行けどんどん”みたいで恐ろしく元気がいい。こういう開放的なベートーヴェンもたまには悪くない。それに1944年の録音にしては結構いける。しかし、もっと繊細な精神的な深みみたいなものも欲しい。

14 イダ・ヘンデルの名前も演奏も本格的に聴いたのはこれが始めてだが、非常にオーソドックスで破綻のない演奏。ライナーノートを見ると彼女が20代前半の録音とのことで、若い時期からしっかりした技巧を身につけている印象。しかし、第二楽章に入るとテンポや音程がやや不安定で若さがモロに出た演奏だと思った。第三楽章では元に戻ったのでヘンデルはアダージョが苦手なのだと思った。なお録音状態は雑音がほとんどしない割には不自然ではなく十分聴けた。

15 やはりハイフェッツの演奏は目くるめくように早い。トスカニーニ盤と同様、演奏時間が判で押したようにきっちりと38分前後と正確。通常よりは6分ほど早い。この盤のライナーノートにはこう書いてある。
「精巧無比なテクニックと一点の曇りもない透明で磨き抜かれた音色を駆使して綴りあげられたこの演奏は、恐ろしいまでの緊迫感とギリシャ彫刻を思わせる壮麗な造形的美観が光る驚異的な名演以外の何物でみない。」
どうやら大変な絶賛ぶりだが、技巧的にはともかく全体から受ける印象はそれほどでもなかった。どうも自分にはハイフェッツの演奏を縁遠く感じてしまってしようがない。もっと音楽に血を通わせて欲しいと思う。やはり
玄人受けのするヴァイオリニストなのだろう。なお、ミンシュ指揮のオーケストラはハイフェッツのスピードによく追従しておりさすがにスキがないと思った。

16 コーガンはロシア出身であの偉大なオイストラフの影に隠れがちなヴァイオリニストだが、負けず劣らずの実力の持ち主。1982年、公演旅行中の列車内で心臓発作のため58歳で惜しくも急死(怪死との説もある)した。さて、演奏のほうだが思わずトップレベルのシェリングと比べたくなるほどの好演。違うところは粘っこいのはいいのだがスマートさに欠けるというところ。造形のたくましさなどでやや及ばないと思った。しかし、全体的には格調が高く立派な演奏。オーケストラとの呼吸がよく合っていた。

17 シゲティは1892年生まれのハンガリーの大ヴァイオリニスト。この盤は69歳のときの録音となる。もともと深い精神性が売りものの奏者で、若いときからテクニックはさほどでもないとの評だが、この歳になると一層、音がかすれたり、ヴィブラートも粗くて音程がやや不安定でよほどのシゲティ・ファンでなければこの盤は敬遠したほうがよさそう。自分はいくら精神性といってもテクニックがしっかりした上での話だと思う。オーケストラの音の録音レベルが非常に高く、低域がボンつくので驚いた。

18 独奏ヴァイオリン付きの交響曲ともいうべきこの協奏曲にはソリスト、指揮者、オーケストラの三者の一体感がなければ名演とはならないが、その意味ではこの盤はワルター、フランチェスカッティともども円熟した境地が展開され、伸び伸びとよく歌っているとは思うものの、自分には、もっと緊張感、あるいは厳しさのようなものが欲しいと思った。一言でいえばロマンチックすぎてリアリティに欠けている。もっと若い時分に聴けば素晴らしいと思うのだろうが、歳をとって依怙地になり海千山千の人間ともなるとこの演奏では物足りない。

19 さすがにオーケスラ(ベルリンフィル)が実に分厚くて重厚だ。17歳のムターと72歳のカラヤンの組み合わせはなかなか好感が持てた。第一楽章は秀逸。録音もこれまた良くて、広い空間にヴァイオリンの音色が漂う様子に思わず背筋がゾクゾクした。ところが第二楽章のアダージョになってどうもムターが物足りなくなる。やはりベートーヴェンのアダージョはある程度の人生経験がないと弾けないと思った。これは14のヘンデルのときにも同様に感じた。とはいいながら、自分は若さとはつらつさに包まれたこの盤がとても好きだ。

≪最後に≫

ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を19曲まとめて聴くなんて生涯のうちで最初で最後だと思うが、ほんとうにいい経験をさせてもらった。こんな名曲を沢山の一流の演奏家でまとめて聴ける幸運はそうない。合わせて17枚のCD盤を貸していただいたAさんとMさんには感謝あるのみ。

結局、1~19の寸評を個別にご覧になればお分かりのように、
自分にとっては5のヘンリック・シェリングが満点に近い出来具合で断トツだった。19枚も聴いたのだからもっとほかにライヴァルがあってもよさそうなものだが不思議なことに皆無だった。ただ、2のヌヴー盤が指揮者とオーケストラがもっとシャンとしていればと惜しまれる。19のムターとカラヤンのコンビも持っておきたい盤だった。

ところでこの協奏曲に対して聴く前と集中的に聴いた後では随分と印象が異なってしまった。仰ぎ見るような高い山だと思っていたのが、登ってみると意外と簡単に踏破できる普通の山だったという感じ。

言い換えれば、これはベートーヴェンにとってほんとうに満足のいく作品だったのかな~という疑問が自然に湧いてきてしまった。

前回のブログ♯1の冒頭でベートーヴェンはこの協奏曲に満足したので以後ヴァイオリン協奏曲を作曲しなかった旨記載したのだが、むしろ反対にこのヴァイオリン付き交響曲の中途半端な形式の表現力に限界を感じて作曲しなかったのが真相ではないだろうかと思えてきた。

逆説的になるが、この協奏曲を作曲したのが36歳のときで、以後58歳で亡くなるまで十分に二番目以降を作曲する余裕がありながら、全然見向きもせずに交響曲、弦楽四重奏曲に傾斜していったのがその辺の事情を物語っているような気がする。

結局のところ、たしかに傑作には違いないが、精神的な深みが足りずベートーヴェンを骨の髄までしゃぶり尽くすには少々物足りない作品というのが19枚のCDを聴いた自分の結論。

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