つい先日、我が家に試聴にお見えになったKさん(福岡)。
希少な古典管、それもマニア垂涎の新品に近い質のいい球を山ほど持ってあり、同時に知識も豊富なのでいろいろと折にふれアドバイスをいただいている。
そのKさんが実験用として持参されたのが「6SN7」という電圧増幅管だった。真空管にはいろんな役目のものがあって、ざっと上げるだけでも、整流管、出力管、そして今回の電圧増幅管がある。
その中では、さしずめ出力管が野球でいう4番バッターとすれば、電圧増幅管は1番バッターとして、いわば小回りの利く役どころといったところだろうか。
この「6SN7」の使用例でいえば、有名な300Bアンプの前段管として使ってあるケースが多いようだが、小ぶりな恰好からしてけっして主役にはなれそうにない球だと従来から思っていたが、これがどうしてどうして凄い役割を持っていることが判明したので述べてみよう。
Kさんが当日持参されたのは5ペアの「6SN7」で、ブランド名を挙げてみると、
レイセオン「軍用錨マーク入り」、ロシア製メタルベース「メルツ・1578」、東ドイツ製、シルヴァニア・メタルベース「軍用錨マーク入り」、レイセオン(ダブル耐震構造)
一口に「6SN7」といっても「こんなに種類がたくさんあるんですか!」と、まずは仰天した(笑)。しかもいずれも入手が難しい球ばかりとのこと。
我が家には前段管に「6SN7」を使った「371A」アンプが1台あるので、それを差し換えながら実験してみた。下記の画像の一番左の小ぶりな球(GT管)がそうである。
現在、我が家にあるブランドとしては「GE」「レイセオン」「ホフマン」「ボールドウィン」(Baldwin)といったところ。
ボールドウィンというのはアメリカのオルガンメーカーで、昔は真空管を使って鳴らしていたそうで「選別球」なので品質は確かだと聞いたことがある。
当日の実験用システムは、CDトラポとDAコンバーターは「dCS」のコンビ、スピーカーは微細な表現力に富む「AXIOM80」を使用した。
すると、これらの「6SN7」を差し換えるごとに音がくるくる変わり、それぞれに個性があって、これを「百花繚乱」というのだろうか、とても楽しかった。
実験中の会話で、これほどの希少な「6SN7」を一堂に会して試聴できるのは、おそらく世界中でここだけでしょうねと、二人で自画自賛し合った(笑)。
試聴結果についてはいずれも捨てがたい球ばかりだったが、これらのうちでベストだと思ったのは「シルヴァニアのメタルベース・軍用錨マーク入り」だった。「6SN7」に限らず、やはり軍用の真空管は人間の命がかかっているので、民生用とははっきりと一線を画すようで、透明感、音の力感、分解能など非の打ちどころがなかった。
「これはぜひ欲しいですねえ」と、喉まで出かかったが、どうせKさんを困らせるだけで言うだけ野暮だろう(笑)。
Kさんが辞去された後で、シルヴァニアのメタルベースの残像が鮮明に残っている中、まったく同じタイプの「371A」アンプを引っ張り出してみた。
このアンプは回路からインターステージトランスや出力トランスまで何から何まで先ほどのアンプとツクリは同じだが、前段管だけが違っている。
2年ほど前に「北国の真空管博士」から改造していただいたもので、「6SN7」の代わりに「AC/HL」(英国マツダ:初期版)が使ってあり、「はたして違いやいかに」と耳を澄ましてみたところ、これもたいへん良かった。
力感はシルヴァニアに一歩譲るものの、高音域の艶とか色気はこちらの方が上で、あとは好き好きといったところだろうが、吾輩はこれで十分満足。けっして負け惜しみではありませんぞ~(笑)。