このところ連日のように日参している県立図書館では学習室ばかりでなく、ときどき「新刊コーナー」にも立ち寄っているがたまたま手に取ったのが「思索紀行」(上)だった。
いきなりの「思索」という言葉にちょっと抵抗感を覚えて「本のタイトルにあからさまにこんな言葉を付けるのはちょっと自意識過剰だな。おそらく村上春樹さんならこんなタイトルをつけないだろうよ」と、思ったが何せ借りて読むのはタダなので一読してみることにした。
すると、これが大当たり(笑)。
立花さんが1970年代以降、外国に行って1か月も2か月も現地で十分な時間を割きながら体験された記録をまとめたもの(再刊:文庫本)だが、読んでみるとまるっきり印象が変わって、さすがに「思索」と銘打つだけのことはあってやっぱり立花さんは「知の巨人」に相応しいとつくづく感じ入った。
おそらくあの噂に聞く「南方熊楠」に匹敵するのではあるまいか。
本書の中ではヨーロッパの奥行きのある文化、とりわけキリスト教やワイン、チーズなどに関する蘊蓄が圧巻だが、とても興味を惹かれた箇所があったので以下のとおりちょっと長くなるが紹介させていただこう。(188頁)
「フランス人は驚くほど情熱をこめてワイン文化を育ててきた。ワインに限らずなんでもそうだが、文化の外側にいる人には文化の内側にいる人の価値体系が見えてこない。で、外にいる人には内にいる人の情熱が全くバカげたものに見える。
ワインの味ききにしても、外側から見ている限り、何ともバカげたことを大真面目にやっているとしか思えない。しかし、自分もそれに参加して内側に入ってみると自分がとてつもなく豊饒な世界のまっただ中にいることに気が付き、今度は逆に外側の世界の貧しさが哀れむべきものに思われてくる。
内側に入ると、その中で形成されている価値の体系がわかってくる。外側にいる限り、どんなにうまいワインであろうと、どんなに金があろうと、1本のワインに十万円単位の金を出すなどということは理解を絶する狂気じみた話だろう。
十万円のワインを飲んでも物質的なものは何も残らない。ほんの一刻、味と香りを楽しんで陶然とできるだけである。
焼きものに凝る人が一つの茶碗に何百万円もの金を出す。これまた、その文化の外にいる人にとっては狂気じみたバカげた話である。しかし、この場合は茶わんが資産となりいつの日かそれを売ることもできるという点において、俗物にも多少の理解はできる行為となる。
ところがワインの場合はしばしの間感覚的快楽を楽しんだら、それで終わりである。残るものは快楽の記憶だけだ。そして1本10万円のワインと1本1万円のワインのワインとの間にはさしたる差がない。
1本千円のワインと1本1万円のワインの間にあるほどの差はない。どんな領域でもコスト・パフォーマンスは指数関数的に低下していく。1万円のワインと十万円のワインの間にあるのはほんのちょっとした違いである。ほとんど趣味性の領域に属する違いといっていい。
それでも1万円のワインを10本飲むより、1本十万円のワインを飲んでみたいと願い、実際にそうする人がいるかいないかがワイン文化の水準を決めるのである。
どんな世界でも同じことだ。ハイエンドの部分にほんのちょっとした違いを求めて狂気じみた情熱と資金を投じる人がどれだけいるかで文化の水準が決まるのである。」
以上のとおりだが、すでに気付かれた方が多いと思うが、この話はそっくり「オーディオ」にも当てはまりますね!
たとえば類似点を挙げてみると、
✰ オーディオの外側にいる人からは内側の価値体系が全く見えてこない
✰ 家庭での10万円のシステムと100万円のシステムとの音質の違いはほんのちょっとした趣味性の違いだけだが、それでも高額のシステムにあえて挑戦し投資する人がいる
✰ それにシステムといわず、1ペアで100万円もする「真空管」(WE300B:刻印)を購入する狂気じみた人が実際にいる
などだが、こういう人たちが「オーディオ文化の水準」を決めている貴重な存在なのかもしれないですね。
そこで、いよいよ現実的な具体論に入ろう。かねて注目していたオークションの出品物「AXIOM80」がようやく落札された。
グッドマンの「AXIOM80」といえば周知のとおり高級SPユニットの代名詞みたいな存在。
すでにオリジナル品と復刻品を1ペアづつ保有しているので別段求める気はさらさらなくて注目するのはその落札価格である。
この初期のオリジナルの極上品がいったいいくらで落札されるのか。
たとえば、売るつもりは毛頭ないが現在住んでいる自宅の相場を知りたい思いと似たようなものですかね(笑)。
商品のタイトルの中に「未使用に近い状態」とあるが、画像と解説で拝見する限りこれほど程度のいいものが出品されるのは極めて珍しい。
そして、落札当日(25日)がやってきた。落札7時間前の17時現在の入札価格は「24万1千円」だが、その最終落札価格ははたして・・。
続きは次回へ。
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