前回からの続きです。
最初期の「AXIOM80」(以下「80」)を手に入れたおかげですっかり出番の無くなった復刻版の「80」。それもスペアを含めて2セットも。
長年愛用してきたので可哀想だし、それにいつもの「もったいない精神」を発揮して何とか1セットをシステムの中に繰り入れることにした。それが次の画像(再掲)。
グッドマン社指定のエンクロージャーにオリジナルの「80」を収納してフルレンジ(全周波数帯域をカバー)で鳴らし、復刻版の「80」を自作のエンクロージャー(厚さ5センチの木)に容れて、低音域部分(およそ周波数100ヘルツ以下)を補強してやるというもの。
「80」愛好者からすると、この鳴らし方は邪道だと轟々たる非難を浴びそうだが、ま、オーディオには遊び心も必要だし~(笑)。
音楽ソースによっては効果を発揮してくれるし、別のアンプで駆動しているので不要なときはスイッチを切ればオリジナル単独で聴けるしでフレキシブルな聴き方をしているわけだが、はたして今回の試聴会でKさんはどういうご意見を洩らされるだろうかと興味津々。
テーマ2「フルレンジ+低音部の補強」という我が家の鳴らし方は、はたして適切なのか」
試聴盤のムスクーリの1曲目が終わったところで、Kさんから「復刻版のアンプのスイッチを切ってもらえますか」とのご要望。
そして聴き比べられた結果「低音部の補強は要らないんじゃないですか。オリジナルだけで十分だと思いますよ。それに、低音部だけ補強するよりも、復刻版も全帯域で鳴らし、ごく小さい目立たない音でオリジナルを補完するのも一つの方法ですよ。とにかく80にコンデンサーやコイルを(SPコードに)噛ませない方がいいと思います。非常にデリケートなユニットですから音が変質しますよ。」
ここでもやっぱり否定的な意見が出て、再び両者の「音楽感性の衝突」(笑)。
ここでおとなしく引き下がるわけにはいかないが、復刻版によって全帯域を目立たないように補完するやり方は“眼からウロコ”で、独りでは絶対に浮かんでこない発想だった。
我が家ではテレビの音も光デジタルケーブルで接続してこのオーディオシステムで聴けるようにしているので、そういうときは復刻版の出番となり大いに助かる面もあるのでこれは後日の検討課題としておくことにした。
とにかく、今回はお客さんの顔を立てることにして(笑)、以後はオリジナルの「80」だけによる試聴となった。
次に3の「4台の真空管アンプのうち最終的に「AXIOM80」とのベストマッチは?」のテーマへ移ろう。
オーデイオシステムは音声信号の入り口から出口までいっさい手を抜かないほうがいいのは当たり前だが、それでも若干の強弱は許される。その中で重要ポイントとされるのは何といってもスピーカーとアンプである。
このブログでも再々述べているようにスピーカーは人間でいえば顔にあたり、アンプはそれに精神を吹き込む役割を持つと、あるオーディオ誌に書いてあった。
生まれつきの顔の造作を変えることは基本的に不可能だが、精神の有り様となるとそのアプローチにはいろんな手段があるわけで、そこに多様なアンプの付け込む隙がある。
現実にアンプが変わるとコロリとスピーカーの音が変わるのだからたまらない。とりわけ「80」はメチャ敏感なのでそれぞれのアンプの差をイヤというほど明らかにする。それはもう怖くなるくらいガラッと違った表情を見せる。
そのため「80」愛好者はやたらに真空管アンプをいくつも集めたがる例が多い。たとえば今回の試聴会のKさんが代表的な事例で、プリアンプとパワーアンプ合わせてたしか20台近くの大盛況。
きっと、あれこれ無差別攻撃して「80」の正体を突きとめようとしておられるのだろうが、おそらくKさんの努力は“はかない抵抗”に終わるに違いないと睨んでいる。「80」はまるで怪人20面相みたいなところがあって永久にその正体を現すことはないと思うから(笑)。
しかし、Kさんのポリシーは一貫している。直熱三極管の双璧とされる「WE300B」と「PX25」にはいっさい見向きもされず、あくまでも「71A → 45 → 50 → 2A3」の系譜に繋がる小出力の古典管群にピタリと照準を定めておられる。
その理由を一言でいえば「80」を鳴らすのにパワーは有害無益とのことで、そういえば「80」愛好者で伝説の瀬川冬樹さん(オーディオ評論家)も245(45のナス管)で愛聴されていたと聞く。
Kさんに比べると自分はまだ可愛い方だが、それでも現在「80」専用のアンプとして鳴らしているのは「WE300B(オールド)」「PX25」「刻印付き2A3」「71A」の4台の真空管アンプ。いずれも直熱三極管シングル・タイプで、その日の気分次第でSPコードを繋ぎかえて聴いている。
それぞれに個性があって興味が尽きないが今回はこの4台を鳴らし比べてオリジナルの「80」のベストマッチのアンプを探ろうというものだ。
個人的に一番うまく鳴って欲しいのは「血(お金)と汗と涙」を最も注ぎ込んだWE300Bアンプなので、ここでもKさんとの音楽感性の衝突が起きたのはご想像に難くない(笑)。
さて、もったいぶらずにあっさり結論から言うと「1920年代製の真空管」を使ったアンプがダントツのベスト1だった。オーディオ仲間たちから「口外無用」と釘を刺されているので、ここで簡単に型番を明かすわけにはいかないのが残念(笑)。
この球は1か月ほど前にKさんのルートで手に入れたものだが、この日に限らず我が家を訪れたマニアたちが口をそろえてこの真空管を絶賛するのでこれは衆目の一致するところで、Kさんからは「80に限って言えばおそらく日本有数の音でしょう。」と太鼓判を押してもらった。
巷間「80」の弱点とされている中低音域の薄味、高音域の神経質さを補ってくれるところがあって、たいへん重宝しているが、この球はおよそ90年前の製造なので程度のいいものが少ないし、オークションにも滅多に出ないしで手に入れるのは至難の業。現在、Kさんともども八方手を尽くして血眼になってスペアを探し回っているところ。
したがって、もし球が故障でもしたらという恐怖感が先に立って、うかつにアンプに挿すわけにはいかないのが悩みの種。その辺は真空管マニアならお察しのとおりである。そこで現在はお客さんがお見えになったときだけ差し換えて聴かせてあげている。
真空管アンプのポイントは出力トランスをはじめいろいろ挙げられるようだが、個人的には最終的に出力管で運命は決まると思っている。
たとえばの話だが高価なアンプに中国製の出力管を挿した場合と、安価なアンプに古典管(もちろん規格に合ったもの)を挿して聴き比べた場合、音質はきっと後者に軍配が上がることだろう。
次回は最後のテーマ「プリアンプとアッテネーターの違いと音質実験について」