前回からの続きです。
我が家へのオーディオ愛好家のご来訪は久しぶりだが、正直言って初対面の方はちょっと緊張する。たかが趣味とはいえオーディオシステムが醸し出す音は、その持ち主の性格を含めて「美的センス」をすべて白日の下にさらけ出すようなものだし、なんだか心の奥底まで覗かれるような気がするから不思議。
よほどの自信家は別として、普通のマニアならこの心境は心当たりがあるかも。
自分の場合は不安、それに照れくささと、それに”もしかすると絶賛!”という期待があったり、複雑な感情が織り交じって、とにかく早朝からそわそわ。
約束の時間(26日午前10時)に合わせて30分前からすべてのシステムのウォーミングアップ開始。
我が家の場合15分~30分で正常動作に入るが、「今日に限っていきなりハム音が出たりしてトラブルがありませんように」と祈るような気持ちでスイッチを入れた。CDトランスポートとDAコンバーターは常時通電中だが、それでも6つの機器のスイッチを下流から上流へと順次入れていくのだからたいへん。
ほぼ定刻になってそろそろ約束の時間だがと玄関を出てみると我が家の前に目にも鮮やかな”えんじ色”の日産「リーフ」(電気自動車)が音もなくス~っと横付けに。
いやあ、はじめまして~。どうもどうも。
メールにあったとおり「Y」さんに加えて「U」さんのお二人がお見えになった。「U」さんはジャズがお好きでJBLの「パラゴン+275+C220」をお持ちだという。とうとう最後まで聞きそびれてしまったが275とはマッキンの真空管アンプのことかな?
ご挨拶もそこそこにオーディオルームにご案内すると、「ワーッ」という悲鳴(?)が上がった。持ち主のほうは日頃見慣れているので何てことはないが、部屋の中がスピーカーとアンプだらけという光景は初めて見る人には驚きなのだろう。
そりゃそうかもしれない、真空管アンプが5台、トランジスターアンプが3台、SPユニットが22本(ボックス入り)もあればねえ・・・・。
ひととおり、システムの流れを説明してからいよいよ試聴に入った。
かねての作戦どおり初めの試聴盤はウォルフガング・シュルツの「魔笛」。「Y」さんが音楽室まで作ってフルートを演奏されるというので、我が家の手持ちの中で「メロディ良し」「演奏良し」「録音良し」の三拍子そろったフルートの名盤を探した結果がこれ。
シュルツは周知のとおり現ウィーンフィルのフルート首席奏者である。
モーツァルトの最後のオペラ「魔笛」にトチ狂ったのが30代半ばの頃。爾来、世界中で発売された「魔笛」を聴いてやろうと集めに集めまくって今では44セットがそろっている。
このシュルツの「魔笛」はその流れもあって今でも大の愛聴盤だが、あまりにも気に入ったので続けて購入したのが同じくモーツァルトのオペラ「ドン・ジョバンニ」(2枚組)。
しかし、残念なことに「魔笛」ほどにはピッタリこなかった。もちろん演奏や録音がどうのこうのという話ではない。オペラそのものの性格がフル-ト演奏に合っていないのである。
「魔笛」は「ジングシュピール」(歌芝居)というだけあって、他愛ない筋書きのオペラだが、美しい旋律に彩られた音楽がすべてで、次から次に名曲が登場してまったく聴き惚れてしまう。ベートーヴェンがモーツァルトの最高傑作と称え、「魔笛の変奏曲」を自ら作曲してモーツァルトにささげたというのもよくわかる。
一方、「ドン・ジョバンニ」は実に人間臭いオペラである。ドン・ジョバンニという色事師が次から次に女性をたぶらかして悪事を重ね、最後には地獄に落ちるという筋書きだが、オペラの中の男女心理の駆け引きが見ものである。
モーツァルトもドン・ジョバンニ並みの女性大好き人間だったので、まるで自分が主人公になりきったかのように(笑)、気合を入れて作曲しているが、メロディの美しさよりも人間の心理を音楽で絶妙に表現するところにこのオペラの最大の特徴がある。
モーツァルトにとって音符とは言語と同じ意味を持っているが、人間の感情を音楽で完璧に表現した例としてこれほどのオペラは後にも先にも、そしてどんな作曲家にもない。オペラに何を求めるかによって左右されるのだろうが、「ドン・ジョバンニ」こそは「魔笛」を凌ぐほどの最高のオペラかもしれない、と近年ようやくその真価に気付き始めたところ。
おっと、つい話がそれてしまった。
「この演奏者は誰ですか?」とYさん。「シュルツです~」
次にジャズ好きの「U」さんのために鳴らしたのが「ホリー・コール」
以下、次回へ~。