ラジトピ 7/22(月) 17:30
ブリンバンバンボン…どんな意味があるんでしょうか?(※画像はイメージです)
大ヒット曲のCreepy Nuts『Bling-Bang-Bang-Born』。タイトルにもなっている謎フレーズにどんな意味があるのかと深読みする人もいるようですが果たして……? このたび、シンガーソングライター・音楽評論家の中将タカノリと、シンガーソングライター・TikTokerの橋本菜津美が、ラジオ番組のなかで「Bling-Bang-Bang-Born」の真の意味に迫りつつ、日本の歌謡・ポップス史上の謎フレーズをひも解きました。
※ラジオ関西『中将タカノリ・橋本菜津美の昭和卍パラダイス』より
【中将タカノリ(以下「中将」)】 今年1月にリリースされ大ヒット中のCreepy Nutsの『Bling-Bang-Bang-Born』。6月25日発表の「オリコン上半期ランキング2024」では作品別売上数部門のデジタルシングルランキング、ストリーミングランキングでともに1位を獲得ということです。
【橋本菜津美(以下「橋本」)】 ダンスもとても流行ってますよね! でも「Bling-Bang-Bang-Born」ってどんな意味なんでしょう?
【中将】 インターネット上では「どんな意味?」と深読みする人もいるようです。「Bling」が輝く、「Born」が生まれるだからどうとか、アニメ『マッシュル-MASHLE-』オープニングテーマとして書き下ろされたので物語の設定に合わせているとか、いろいろ考えているようですが……。僕は「Bling-Bang-Bang-Born」というフレーズ自体には特に重要な意味はないと思っています。
【橋本】 おぉ!
【中将】 僕たちも楽曲を作る側なので菜津美ちゃんはわかってくれると思うのですが、メロディーが先に浮かんで、当てはめる歌詞が特に浮かんでこないときってあるじゃないですか。
【橋本】 めっちゃあります!
【中将】 そういうときに、無理に言葉を当てはめるんじゃなくて、「ラララ~♪」とかで済ましてしまったほうが結果オーライになることって多々あるんですよね。だからCreepy Nutsも、このフレーズに合わせて語呂のいい発音を放り込んだだけで、「Bling」だの「Born」だのっていうのは後付けだと思うんですよ。
【橋本】 なるほど~! この曲も大ヒットしてるし、それで結果オーライになったパターンというわけですね。
【中将】 これはCreepy Nutsの発想力をおとしめているのではなくて、日本のポップス史上こういった謎フレーズが歌われるのは“あるある”なんですよね。僕の知る限り、謎フレーズでヒットをおさめた曲は戦後間もない頃から存在します。まずは、伊藤久男さんの『イヨマンテの夜』(1950)。
【橋本】 すごい迫力! でも、確かに「ア~ホイヨ~」とか、出だしから謎フレーズですね!
【中将】 もともと、NHKのラジオドラマ『鐘の鳴る丘』(1947)劇中の、山男をイメージにした挿入曲でした。その後、正式にレコード化することになったんですが、作詞を担当した菊田一夫さんが当時、劇作家としてアイヌの作品を手がけていたため「ア~ホイヨ~」などアイヌ語の謎フレーズを盛り込んだ歌詞になったそうです。「明日天気になあれ」的なことを言っているそうですが、時代が時代なので意味を理解して聴いている人はほとんどいなかったでしょうね。
【橋本】 そういう意味なんですね! でも意味がわからないこそ神秘的なイメージが湧くことってありますよね。この曲はまさにそういうパターン。
【中将】 ではどんどん謎フレーズの名曲を紹介していきましょう。お次はザ・ドリフターズの『ドリフのビバノン音頭』(1973)。原曲はデュークエイセス『いい湯だな』(1966)ですが、ドリフターズもカバー。『8時だョ!全員集合』(TBS)など冠番組でもそれぞれのバージョンで多用されました。
【橋本】 有名すぎる名曲ですね! 私は「ババンバ バン バン バン」や「アービバノンノン」が謎フレーズだなんて思いもせず受け入れてしまっていましたが、これって何か意味があるんですか?
【中将】 これにも深読み勢がいるんですよ。イタリア語の「Viva(万歳)」に「Nonno(祖父)」、もしくはフランス語の「Non(いいえ)」を組み合わせたとか……。教養ある人がひそかなメッセージを歌詞に含めたって思いたいんだろうね。でも、これはレコーディングのときに加藤茶さんが即興で思い付いたとか、当時、銀座のお姉ちゃんたちの間で流行っていたお囃子を取り入れたとか言われています。
【橋本】 元ネタっがあったとしても即興でこんなフレーズ思い付くのって天才ですね! そして「Bling-Bang-Bang-Born」にも似てる(笑)。
【中将】 確かに(笑)。1967年にはザ・スパイダースの『バン・バン・バン』もヒットしてるし、バンバン系謎フレーズの源泉はこの時代にありそうですね。
【橋本】 バンバン系ってインパクトあるし覚えやすいから、子どもにも受け入れられやすそうですね。意味の前に楽しいですもん。
【中将】 次に紹介する曲も昭和歌謡を代表する謎フレーズです。青江三奈さんの『伊勢佐木町ブルース』(1968)。
【橋本】 「ドゥドゥビ ジュビドゥビ ジュビドゥヴァ」。これも有名な謎フレーズですね!
【中将】 これはジャズやブルース由来のスキャットですよね。そもそもアドリブでテキトーなフレーズを音楽に乗せたところから始まっているので、意味なし謎フレーズということになります。海外由来の意味なし謎フレーズということではヨーデルとかもそうですね。
【橋本】 スキャットは感情を音に乗せる感じで、無意味なのに意味を感じますよね。
【中将】 「無知の知」ならぬ「無意味の意味」ですよね。この曲に関していえば、この意味のないフレーズがあるからこそ底知れないセクシーさが醸し出されるわけで。
【橋本】 余白があるからリスナーの想像が膨らむんですよね。
【中将】 年配の人が最近のJ-POPの歌詞を腐すのに「ブログみたい」と言うことがありますが、確かに言葉を詰め込み過ぎてて余白がないんだよね。そういう視点はCreepy Nutsはけっこう詩的センスがあるのかもしれない。
【橋本】 でも昭和世代でもさだまさしさんの歌詞とかすごいブログみたいですよね(笑)。
【中将】 あそこまでいけば名ブログなんですよ(笑)。お次に紹介するのは沢田研二さんの曲です。『酒場でDABADA』(1980)。
【橋本】 「ダバダ ディディ ダバダ ディダ」……沢田さんが歌えばどんな謎フレーズでもかっこいいですね。
【中将】 このフレーズの由来はわからないんですが、作詞を手がけたのは阿久悠さん。阿久悠さんは詞先のイメージがあるけど、曲先の曲もたくさん手がけておられて、『酒場でDABADA』もそうなんじゃないかと思いますね。イントロのギターなり、サビのメロディーを聴いた上で、そのフレーズを最大限活かすために「ダバダ ディディ」をはめたんじゃないかと想像します。
【橋本】 わかります。結果的に「ダバダ ディディ」がすごくフックになってますよね。
【中将】 ちなみに当時の子どもたちは替え歌で「沢田でんでん虫食べた」って歌ってたそうです(笑)。もっと下品なのもあるけど、ここでは控えておきます。
【橋本】 小学生の発想はすごいですね(笑)。でも、やっぱりヒット曲ってリスナーに想像してもらったりいじってもらえる要素が必要なんですよね。
【中将】 我々の耳には届いてこないけど『Bling-Bang-Bang-Born』ってブリブリ言っているから子どもたちによってとんでもない下ネタに替え歌されてる可能性もあるんだよね(笑)。さて、お届けする謎フレーズの名曲は次で最後になります。やしきたかじんさんで『砂の十字架』(1981)。映画『機動戦士ガンダム』の主題歌として作られた曲です。
【橋本】 「ライリー ライリー ライリー リラー」……登場キャラクターの名前かなんかだと思ってました(笑)。
【中将】 この謎フレーズにはけっこうないわくがあります。この曲は谷村新司さんが作ったんだけど、歌詞の内容にこだわるたかじんさんは「ライリー」の意味が理解できなくてレコーディングに苦悩します。たまらず谷村さんに電話して「あの『ライリー』の意味は何ですか?」と尋ねたんですが「民謡の合いの手『アラエッサッサー』『あーこりゃこりゃ』みたいなもんだ」と返され、ますます意味がわからなくなったと。結果、この曲はたかじんさんにとって初のヒット曲になったんだけど、後年まで「人生の汚点」とおっしゃって人前で歌うことはありませんでした。
【橋本】 たかじんさんらしい、すごいエピソードですね……。
【中将】 でも谷村さんがおっしゃるように、スキャットやヨーデルみたいに日本にも伝統的な謎フレーズって存在するんですよね。謎フレーズって人間の音楽文化が形作られる上で重要な要素なのかもしれません。その先に『Bling-Bang-Bang-Born』があると言うことですね。
ラジオ関西
https://news.yahoo.co.jp/articles/bacf3464e435d59cd425825dfec73173469680ed