画像の狐の土人形については確固とした裏付けもなく、100パーセントの自信がないので、タイトルにも???をつけました。
最後の今戸人形師であった尾張屋・金澤春吉翁(明治元年~昭和19年)の他に、実際には戦前まで今戸で代々今戸人形製作に当たってきた作者が2人いたことが記録されており、「鈴木 たつ」とならんで旧・浅草区今戸町3丁目にいたといわれる「加野 とく」についても触れてみたいと思います。
有坂与太郎による戦前の記述に出てくるのですが、この人たちの生年等詳しくは記録されていませんでした。
別に戦前の「郷土風景」という雑誌のバックナンバーの中に「昭和8年5月号・第2玩具号」というのがあり、その中で山崎荻風という人が「今戸人形」という記事を書いています。この中で尾張屋・金澤春吉翁に関する内容とともに「此外鉄砲狐を作る加野トクといふ、文久元年生れの今年七十三才のお婆さんが居る。同じく狐を作る鈴木タツさんと云ふ若いおかみさん。此外には玩具を作る人は一人も居ないのです。それでも狐だけは、流石に信仰物だけに中止した事は無く今日に至ったので、今でも二軒で一ヶ月平均二千五百位は作られる、おとく婆さんは一日四十個は作られないと云って居る。此年で型から仕上げまで一人でぼつ々こしらえて居る。此人達の家も昔は人形を作って居たのです。寒紅の牛や玉姫稲荷の入口狐(ママ)は鈴木で作って居る。土は四ツ木、又は亀有方面から買ふので、現在では十貫目六十銭位、燃料は松槇を用いる事は云ふまでもないが、おとく婆さんは七輪釜で炭で焼いて居る。明治の末期におみよさんと云ふ狐の型抜きの達者な女があって、一日に千個以上も型を抜いたと云ふので仇名を馬車馬と云はれた當事の話から、現在の製作数は百分の一だと云って居る。・・・・・鉄砲狐の販路は赤坂の豊川稲荷、浅草の被官稲荷、王子の稲荷等が主で、型は昔は土型を用いたが今は石膏型ばかりです。」と記されています。
もう一度有坂与太郎による著述に戻ると、「土直事するがや惣三郎が利助の亡後、その妻を娶り、佐野屋と号し娘に業を伝へてゐる事(鉄砲狐専業)」とか「現在の(狐の)生産者は今戸に土直の末葉、佐野屋加野トクと、あぶ惣の後裔鈴木たつ、向島に井上了斎(ママ)と由縁のある福田重太郎の三人を数へるのみである事は、これらの需要が如何に低減されてゐるかゞ判るであらう。」(以上郷土玩具大成・第一巻東京篇 昭和10年より)とあり、加野とくが「文久元年生れ」で「佐野屋」という屋号であったこと、父が、「土直事するがや惣三郎」であることがわかります。
しかし前記の鈴木 たつもまたあぶ惣の末裔とあるので、どうなっているのでしょうか?さっぱりわかりません。
しかし昭和8年の時点で今戸町内で人形を作っていたのは尾張屋・金澤春吉翁と鈴木 たつと加野 とくの3人のみしかいなかったこと。昭和10年の時点で奉納狐を作っていたのが、向島の福田重太郎と今戸では鈴木 たつと加野 とくの2人と尾張屋春吉翁(実際作っていた)の合計4人ということになるわけですね。
加野 とくが作っていた狐の種類については、上記の有坂与太郎の著作からだと昭和10年時点で、鉄砲狐、深川区常盤町所在・柾木稲荷の狐、下谷区上野公園五条天神社境内所在・花園稲荷金狐と記されています。
白黒写真があって、柾木稲荷の狐については「これは狐が跼居しているだけで、台を設けてゐない。些か大形である。」花園稲荷金狐については「鉄砲狐の型を其儘縮小したもので、金色、初午に出される」とあります。
画像の狐ですが、うしろの2対は面描きが白黒写真とちょっと違うようなのですが、柾木稲荷の狐ではないかと思います。手前の「向かい狐」の一対は記述にも白黒写真にもありませんが白黒写真の柾木稲荷の狐の面描きとよく似ているので、加野 とく作のものではないかと思っているのですがどうでしょうか?今戸以外のよその地域の狐については皆目わからず、案外これが他所の狐であるという可能性も無きにしもあらずという感じも否定できません。富山だとか関西方面だとか、、。ご存じの方いらっしゃいませんか?作りとしては今戸っぽいと思うのですが勇み足?
画像の柾木稲荷の狐?と思われる狐ですが、胡粉地の上にきら(雲母粉)を塗ってあります。また手足の辺りに朱か丹の摺り込みが見られます。天保年間の人形玩具の配色手本には、猫など白地の動物の今戸人形の手足や人物を含め眼の周りなどにも朱や丹の摺り込みの指示があるものがあり、符合するように思われます。
上記の花園稲荷金狐については今戸人形のカテゴリーの「落語 今戸の狐から」という記事の画像にそれらしきものがありますので、お時間ありましたらご覧ください。
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