父の不倫で離婚した母と暮らしてきた衿子。母が認知症の症状を呈し始めた頃、手紙のやり取りをしていた父の書く字に異変を感じ、父に大きな病院で検査をすることを提案すると、パーキンソン病と診断されました。父が老人ホームへ入居してから、仕事の手がすくときに訪問していましたが、施設で4年4ヵ月の暮らしの末に脳梗塞で亡くなりました。
異母姉妹とホームでの父の部屋の遺品整理から、父のワープロを引き取り、中のデータから父の文書を取り出すと、衿子の知らなかった父の人生が掘り起こされました。女性関係、そして、趣味であった短歌の交友関係、また、母への、さらには衿子に対する思いが綴られていました。父とはどういう人なのかがワープロには眠っていました。
「人生はそう簡単には括れない。すべて、人が通り過ぎてきたことは必然だったと考えるしかない。」
高齢化時代に読まれるべき1冊です。
『沈黙のひと』(小池真理子著、文春文庫、本体価格700円、税込価格770円)