語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【経済】TPPはいまや時代遅れの輸出促進策 ~中国の動き方~

2011年11月07日 | 社会
(1)貿易に影響を与える要因
 TPPに参加しても、日本の輸出を増やす効果はほとんどない。関税同盟という手法によって輸出増を求めるのは、今やアナクロニズムだ。現代世界の貿易は、関税以外の要因によって大きく影響されるからだ。特に重要なのは、次の3つだ。
 (a)為替レート・・・・数年間のレンジで見れば、これが貿易の変動に大きく影響を与える。韓国の輸出が増えているのは、韓国がFTAに積極的だからではない。経済危機後、顕著なウォン安が進んでいるからだ。日本の輸出が経済危機前に比べて大きく減ったのは、FTAに消極的だからではない。経済危機後、顕著な円高が進行したからだ。
 (b)相手国の経済成長率・・・・(a)より長い期間で見れば、これが日本からの輸出に影響を与える。日本とETAやEPAを結んでいるシンガポールとマレーシアに対する日本からの輸出増加率は、アジア平均より低い。中国の経済成長率が著しいため、日本から中国への輸出が高い伸びを示し、アジアへの輸出の伸びを高めているためだ。
 (c)その国の輸出の価格競争力・・・・ある国の輸出総額に長期的に影響するのは、これだ。1980年代後半以降、日本の輸出はアジア新興国、特に中国からの輸出によって浸食された。中国の、低賃金を背景とする圧倒的な価格競争力による。韓国、台湾の輸出増も同じメカニズムによる。仮に日本が米国とFTAを結んでも、日本の対米輸出は増えない。他方、中国と米国がFTAを結ばなくとも、中国の対米輸出が減ることはない。

(2)生産拠点海外移転の意味
 (a)ETAやTPPの議論は、ヤコブ・ヴァイナーのいわゆる「貿易転換効果」を無視している点でそもそも誤っている。
 (b)それに加えて、(1)の要因の影響を忘れて関税の効果に気を奪われている点でも誤っている。
 (c)さらに、生産拠点海外移転の意味を考慮していない点でも時代遅れだ。日本企業は、すでに生産拠点の移転によって、他国が締結したETAの利益を享受している。部品メーカーも移転すれば、日本からアジア諸国の組み立て工場に対する輸出はなくなり、アジア諸国とのETAやFTAを結ぶ必要がなくなる。
 海外移転は、円高によって必然的に進む。そして、円高はコントロールできない。

(3)ETAやTPPに対する基本的な誤解
 (a)TPPは経済連携を進める、と言われるが、連携協定を締結しても実際に連携が進むわけではない。<典型例>外国人看護師受け入れ問題。
 (b)ETAやTPPは、貿易自由化ではない。ブロック化なのだ。仲よしクラブは、複雑な外交ゲームを引き起こす。日本の外交がそえをマネージできるほど能力を持つとは、とうてい思えない。事実、今回のTPPに関しても、米国の対中戦略だ、との認識は希薄だ。
 (c)日本がTPPに参加しても、中国は参加しない。米国の関税率は低いから、中国がTPPに参加するメリットはない。それに、中国は辞を低うして参加を求める国ではない。中国にとっては、TPPに対抗してEUとFTAを結ぶほうが有利だ。EUの関税率は米国のそれより高いから、対米FTAより効果が高い。その結果、中国市場は独国に席巻され、日本の輸出は壊滅するだろう。
 (d)TPPも日中FTAも、という選択はあり得ない。TPPか日中FTAか、という選択において有利なのは後者だが、日本のとるべき道ではない。

(4)進むべき道
 日本は、あらゆるブロック化協定から距離を置くべきだ。日本がめざすべきは、海洋国家だ。そのモデルは英国だ。英国は、EUに入っているが、ユーロはいまだに加盟していない。そのため、ユーロの混乱に巻きこまれずに済んでいる。世界のどの国とも等しく付き合うことが、海に囲まれた国の歩むべき道だ。

 以上、野口悠紀雄「ETAやTPPはいまや時代遅れの輸出促進策 ~「超」整理日記No.585~」(「週刊ダイヤモンド」2011年11月12日号)に拠る。
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