語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【政治】原発輸出に巨額の国民負担 ~東電も東芝も損しない仕組み~

2011年11月01日 | 震災・原発事故
 7月21日、菅直人・首相(当時)が参院予算委員会で原発輸出の「見直し」を示唆した。
 7月22日、経団連夏季ゴーラム公開討議で、上記「見直し」に批判が続出した。
 8月初旬、原発輸出継続を閣議決定。
 9月22日、野田佳彦・首相は、国連本部で新興国などへの原発輸出・技術協力を継続する意向を表明した。

 原発輸出は、東京電力の利害に完璧に合致している。
 原子炉新増設で潤うのはメーカーだ。電力会社は、そのコストを消費者に転嫁するにせよ、カネを払う立場だ。
 しかし、新しく発電所を作れば、送電線を新たに引くことになる。東電の場合、それを請け負うのは関電工だ。同社株の46.15%(11年3月末現在)を握る筆頭株主は東電だ。東電が送電インフラを関電工に発注すれば、投じた資金の一部は配当として環流する。
 福島第一原発事故後、国内の新増設は見込めなくなった。東電が関電工を生かし、そこから環流する利益を守ろうとすれば、海外に出るしかない。
 これと同様の構図は、関西電力や中部電力にも見られる。原発事故後、東電はベトナムやトルコなどへの進出撤回を表明している。関電などが東電と入れ替わる形で、同様の目論みが維持されるわけだ。

 安全性の問題は残っても、原発輸出が純粋なビジネスとして成功するならまだいい。
 問題は、失敗したとき、誰がツケを払うか、だ。
 民主党の打ち出したパッケージ型インフラ海外展開は、日本から原発を導入しようとする国に対して資金繰りの面倒までみる。
 融資するのは、国際協力銀行(JBIC)だ。全額政府出資の特殊銀行だ。ビジネスが失敗すれば、国民のカネが焦げつくのだ。

 民主党が新成長戦略(10年6月18日閣議決定)を掲げる前から、東電は東芝とともに原発輸出案件に深く関与していた。米国テキサス州に改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)2基を増設するプロジェクトだ。東電は、07年に同原発の運転管理会社と技術支援の契約を締結。10年5月に、同プロジェクトに1億2千万ドルの出資を発表した。
 このプロジェクトは頓挫した。当初56億ドルとされていた建設費が3倍に膨らんだからだ。また、米国では技術革新によって豊富な非在来型天然ガスが安価に供給される見とおしが開けて、高コストの原発では天然ガス火力に太刀打ちできなくなったからだ。 
 このプロジェクトには、JBICが融資することになっていた。プロジェクトが頓挫せず、原子炉が完成しても発注元の電力会社が市場競争に勝てないまま経営破綻すれば、国民のカネが焦げついていた可能性が高い。

 仏アレバ社も、原発輸出で損失が生じた。海外輸出戦略路の初号機、フィンランド・オルキルオト原発3号機は、建設の遅れで、費用が当初の30億ユーロから56億ユーロに膨らみ、累計で26億ユーロの引当金を積んでいる。その結果、10年には創業以来初の営業損失4億2,300万ユーロを計上した。

 日本の原発輸出は、米国の安全保障政策に組みこまれているから、その断念は容易ではない。原発輸出は、日本の単なる経済政策でなく、米国の核戦略と表裏一体のものなのだ。
 米国は、00年代半ば、スリーマイル島原発事故から30年ぶりに原発新規建設を「解禁」し、核武装したインドとの原子力政策に踏み出すなど、世界を「原子力ルネッサンス」に誘いこんだ。その狙いは、最新の原発の提供を見返りとして、新興国に核兵器関連技術へのアクセスを断念させる点にあった。
 ところが、スリーマイル島原発事故から30年間も新規原発を造ってこなかった米国に、単独で原発を輸出する力はない。そこで、重要になったのが日本だ。

 最近になって、日本政府は新興国との原子力協定を加速させている。
 カザフスタン、モンゴル、ポーランド・・・・ロシア、中国と国境を接する国だ。
 インドネシア、マレーシア、ベトナム・・・・東南アジアの地域大国として、中国との間に緊張を抱えている。
 ヨルダン、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェート・・・・中東の親米国家であり、イランなどイスラム原理主義を抑える上で重要だ。
 日本は、米国の安全保障戦略に沿って、原発輸出を準備しているのだ。
 そして原発輸出は、JBICを介して使われる国民の血税を担保としている。

 以上、李策(ジャーナリスト)「原発輸出で巨額の税金が消える ~日立、東芝、三菱重工、電力会社が損をしないカラクリ!!」(「別冊宝島 原発の深い闇2」、宝島社、2011)に拠る。
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