現代の自由貿易協定、特に米国の推進するものについて、TPP賛成論者は根本的に誤解している。
(1)いまや貿易協定の中心は関税ではない。ルールを自国の企業にいかに有利に変えるか、だ。(a)米国の主要な製品の関税はすでに低い。(b)日本の製造業は現地生産を進めているため、輸出促進に何の効果もない。輸出に大きな影響を及ぼすのは為替レートだ。
(2)「アジアの成長を取りこむ」など妄想だ。(a)GDPでTPP参加国のシェアは5%に満たない(日米豪を除く)。(b)皆、外需依存度が高く、国内市場は小さい。(c)そのうち6ヵ国とすでに日本はEPAを結んでいる。
要するに、TPPは実質的に日米間の協定だ。
米国の意図は明らかだ。米国の「輸出倍増計画」は、相手国の雇用を奪う“近隣窮乏化策”のことだ。
農業だけではなく、米国が非関税分野で“制度”をどう変えようとしてくるか。これがTPPの問題だ。日本は、金融や医療サービスなど守りたい分野は山ほどあるが、取りたい分野はない。交渉に参加して有利なルールをつくることなど不可能だ。
そして、中国は米国主導のTPPに乗るはずはない。
仮にFTAAPが形になっても益はない。各国がルールを自分に有利に変えようとする“戦争”になる。
そもそもFTAをたくさんやったほうがいい、という考えが間違いだ。今後、世界的に需要縮小が進み、供給過剰になる。そんな状況で経済連携しても外需の取り合いになるだけで、国益にはならない。
中野剛志(京都大学大学院工学研究科准教授)「失うものは多く、得るものはゼロ TPP交渉参加は日本を脅かす」(「週刊ダイヤモンド」2011年11月12日号)に拠る。
*
<やってはならないのは日米二国間交渉である。それを行ったならば、アメリカは一方的な要求をしてくる。90年代の日米構造協議にいたる日米交渉がそれを物語っている。>
<その時アメリカの力を発揮させたスーパー301条というのは、1988年にアメリカが通商法を変え、アメリカの利益を損ねている国と貿易慣行を、アメリカが特定し、そのための交渉が、不調に終わったときには制裁措置をとることができるとしたものである。アメリカ自身が検事であり、裁判官であり、相手国は被告である。アメリカの利益を損ねているかどうかは、アメリカがきめる--一方主義 Unilateralism であり、加えて交叉的報復--農業分野で相手国が不公正であるときめつけ、製造工業分野の特定品目に報復関税をかける等--をとるというものである。>
注意しなければならないのは、このような米国政府の行動に対して、米国の経済学者はこぞって反対したことだ。
外国市場を開放させるために二国家関係で報復という脅迫を使う現在の手段は、時代に逆行する堕落した対策だ。単に誤った政策というだけではない。このような政策は、世界貿易体制の根幹に攻撃を加え、致命的な打撃を与えることになるだろう。ガットに結実した国際貿易体制こそ、第二次世界大戦後の世界経済に未曾有の経済的成果をもたらし、それとともに今も米国の国益にも貢献しているからだ。【米国の経済学者40人の「米国貿易政策に関する声明」、1989年4月10日】
声明は、多角的貿易交渉を行うGATTのウルグアイ・ラウンドが大切であるとし、こうした「強者のみが利益を得る」二国間交渉を批判している。
かかるGATT重視・・・・したがってWTO中心の考え方は、主立った経済学者共通の考えだ。よって、米韓FTAは行ってはならないものなのだ。もちろん日米FTAも。
交渉の場は、世界153の国と地域が集まるWTOの場だ。
以上、伊東光晴「戦後国際貿易ルールの理想に帰れ(下) ~TTP批判~」(「世界」2011年6月号)に拠る。
【参考】「【経済】伊東光晴の、日本の選択 ~TPP批判~」
「【経済】伊東光晴の、TPP参加論批判」
「【経済】TPPはいまや時代遅れの輸出促進策 ~中国の動き方~」
「【震災】復興利権を狙う米国」
「【読書余滴】谷口誠の、米国のTPP戦略 ~その対抗策としての「東アジア共同体」構築~」
「【読書余滴】野口悠紀雄の、日本経済再生の方向づけ」
「【読書余滴】野口悠紀雄の、中国抜きのTPPは輸出産業にも問題」
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(1)いまや貿易協定の中心は関税ではない。ルールを自国の企業にいかに有利に変えるか、だ。(a)米国の主要な製品の関税はすでに低い。(b)日本の製造業は現地生産を進めているため、輸出促進に何の効果もない。輸出に大きな影響を及ぼすのは為替レートだ。
(2)「アジアの成長を取りこむ」など妄想だ。(a)GDPでTPP参加国のシェアは5%に満たない(日米豪を除く)。(b)皆、外需依存度が高く、国内市場は小さい。(c)そのうち6ヵ国とすでに日本はEPAを結んでいる。
要するに、TPPは実質的に日米間の協定だ。
米国の意図は明らかだ。米国の「輸出倍増計画」は、相手国の雇用を奪う“近隣窮乏化策”のことだ。
農業だけではなく、米国が非関税分野で“制度”をどう変えようとしてくるか。これがTPPの問題だ。日本は、金融や医療サービスなど守りたい分野は山ほどあるが、取りたい分野はない。交渉に参加して有利なルールをつくることなど不可能だ。
そして、中国は米国主導のTPPに乗るはずはない。
仮にFTAAPが形になっても益はない。各国がルールを自分に有利に変えようとする“戦争”になる。
そもそもFTAをたくさんやったほうがいい、という考えが間違いだ。今後、世界的に需要縮小が進み、供給過剰になる。そんな状況で経済連携しても外需の取り合いになるだけで、国益にはならない。
中野剛志(京都大学大学院工学研究科准教授)「失うものは多く、得るものはゼロ TPP交渉参加は日本を脅かす」(「週刊ダイヤモンド」2011年11月12日号)に拠る。
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<やってはならないのは日米二国間交渉である。それを行ったならば、アメリカは一方的な要求をしてくる。90年代の日米構造協議にいたる日米交渉がそれを物語っている。>
<その時アメリカの力を発揮させたスーパー301条というのは、1988年にアメリカが通商法を変え、アメリカの利益を損ねている国と貿易慣行を、アメリカが特定し、そのための交渉が、不調に終わったときには制裁措置をとることができるとしたものである。アメリカ自身が検事であり、裁判官であり、相手国は被告である。アメリカの利益を損ねているかどうかは、アメリカがきめる--一方主義 Unilateralism であり、加えて交叉的報復--農業分野で相手国が不公正であるときめつけ、製造工業分野の特定品目に報復関税をかける等--をとるというものである。>
注意しなければならないのは、このような米国政府の行動に対して、米国の経済学者はこぞって反対したことだ。
外国市場を開放させるために二国家関係で報復という脅迫を使う現在の手段は、時代に逆行する堕落した対策だ。単に誤った政策というだけではない。このような政策は、世界貿易体制の根幹に攻撃を加え、致命的な打撃を与えることになるだろう。ガットに結実した国際貿易体制こそ、第二次世界大戦後の世界経済に未曾有の経済的成果をもたらし、それとともに今も米国の国益にも貢献しているからだ。【米国の経済学者40人の「米国貿易政策に関する声明」、1989年4月10日】
声明は、多角的貿易交渉を行うGATTのウルグアイ・ラウンドが大切であるとし、こうした「強者のみが利益を得る」二国間交渉を批判している。
かかるGATT重視・・・・したがってWTO中心の考え方は、主立った経済学者共通の考えだ。よって、米韓FTAは行ってはならないものなのだ。もちろん日米FTAも。
交渉の場は、世界153の国と地域が集まるWTOの場だ。
以上、伊東光晴「戦後国際貿易ルールの理想に帰れ(下) ~TTP批判~」(「世界」2011年6月号)に拠る。
【参考】「【経済】伊東光晴の、日本の選択 ~TPP批判~」
「【経済】伊東光晴の、TPP参加論批判」
「【経済】TPPはいまや時代遅れの輸出促進策 ~中国の動き方~」
「【震災】復興利権を狙う米国」
「【読書余滴】谷口誠の、米国のTPP戦略 ~その対抗策としての「東アジア共同体」構築~」
「【読書余滴】野口悠紀雄の、日本経済再生の方向づけ」
「【読書余滴】野口悠紀雄の、中国抜きのTPPは輸出産業にも問題」
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