語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【経済】中野剛志『TPP亡国論』

2011年11月20日 | 社会
 15万部超も売れている本書の、760円+税の本代を惜しむ人は、中野剛志へのインタビュー「TPPはトロイの木馬──関税自主権を失った日本は内側から滅びる」を参照するとよい。
 本書の主な論点は、このインタビューに集約されている。
 TPPは米国の輸出倍増計画の一環として推進されている、とする著者の観点を共有できるならば、中野のTPP批判はすんなりと受け入れられるだろう。
 米国は、リーマンショック以降、消費・輸入で世界経済をひっぱることができなくなり、輸出拡大戦略に転じた。世界不況でEUもガタがきて、どの国も世界の需要をとりにいこうとしている。ことに先進国は世論の支持が必要なので、雇用を守るために必死になる。
 本当は、日本がデフレを脱却して経済を成長させれば、日本の関税は低いから輸入が増える。
 米国としては、それをしてほしかった。ガイトナー財務長官は2010年6月、日本に内需拡大してくれ、という書簡を送った。ところが、日本は財政危機が心配だ、と財政出動せず、内需を拡大せずに輸出を拡大しようとするので、米国は待ち切れずにTPPに戦略を変えたのだ。米国は、「とりあえずTPPを進めれば農業は儲かるからいいや」となった。
 ちなみに、日本から米国への輸出増は、米国の貿易赤字減らし政策からして、見込めない。そもそも、失業率が10%の米国で何を売るのか。

 しかし、当然ながら、本書は前掲インタビューよりさらに議論を展開させている。
 例えば、日本がめざす輸出主導の成長戦略は、破綻した。グローバル・インバランスの是正のため、世界経済再建のため、日本は輸入を拡大すべきだ。大規模な公共投資を行い、デフレを脱却して経済を成長させ、国民所得を向上させれば、これが可能になる。そのためにも、TPPに参加すべきでない。TPPに参加すれば、デフレが悪化するからだ、云々。

□中野剛志『TPP亡国論』(集英社新書、2011)

 【参考】「【震災】原発>TPP亡者たちよ、今の日本に必要なのは放射能対策だ
     「【経済】TPPをめぐる構図は「輸出産業」対「広い分野の損失」
     「【経済】TPPで崩壊するのは製造業 ~政府の情報隠蔽~
     「【経済】中国がTPPに参加しない理由 ~ISD条項~
     「【社会保障】TPP参加で確実に生じる医療格差
     「【社会保障】「貧困大国アメリカ」の医療 ~自己破産原因の5割強が医療費~
     「【経済】TPPとウォール街デモとの関係 ~『貧困大国アメリカ』の著者は語る~
     「【経済】TPP賛成論vs.反対論 ~恐るべきISD条項~
     「【経済】米国は一方的に要求 ~TPP/FTA~
     「【経済】伊東光晴の、日本の選択 ~TPP批判~
     「【経済】伊東光晴の、TPP参加論批判
     「【経済】TPPはいまや時代遅れの輸出促進策 ~中国の動き方~
     「【震災】復興利権を狙う米国
     「【読書余滴】谷口誠の、米国のTPP戦略 ~その対抗策としての「東アジア共同体」構築~
     「【読書余滴】野口悠紀雄の、日本経済再生の方向づけ
     「【読書余滴】野口悠紀雄の、中国抜きのTPPは輸出産業にも問題
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