語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【経済】中野剛志の、経産省は「経済安全保障省」たるべし ~TPP~

2011年11月27日 | 社会
 1980年代以降、高度経済成長が終わり、もはや政府が経済を指導する時代ではない、という声が上がった(通産省不要論)。
 産業よりも金融を重視する金融資本主義的な動きが強まり、企業は短期的な利益を追い求め、技術開発や人材育成にお金を回さなくなった。グローバル化の結果、先進国では輸出が伸びても国内賃金が上がらず、輸出企業の利益と国民の利益が一致しなくなった。
 こういう時代には、産業を所管する経済官庁の役割はますます重要になっている。企業の利益と対立してでも経済を規制し、国民の長期的な利益につながる事業や地域共同体にお金が回る仕組みをつくる必要がある。
 だが、旧通産省/経産省は、まったく逆に、世論に押されて規制緩和と自由化を進めてしまった。致命的なミスだ。
 90年代から、新自由主義的な勢力や世論が力を持つようになった。経産省はその手先として働いた。経産省は政治力が弱い。予算が少なく、規制の権限も弱い。世論に迎合せざるをえない素地がもともとある。

 08年のリーマン・ショック以降、世界市場は縮小し、各国は限られたパイを求めて市場獲得競争を繰り広げている。
 TPPは、米国がそのために進めている構想だ。
 日本政府は、外国の攻勢から国内の市場を守り、内需を成長させるべきだ。しかるに経産省は、またしても逆に、TPPを推進して外需を取ろうとしている。
 TPP推進は、誤った新自由主義的な議論だ。被災地を見捨てる。TPPに加盟するのではないかとの不安があると、東北の農業の復興は難しくなる。

 この厳しい時代には、世論の不評を買ってもやらなくてはいけないことがある。政治家には選挙があるし、企業は利益を上げなくてはいけない。官僚だけが世論に抵抗できる。
 経産省はしかし、経産省不要論を恐れるあまり、ずっと世論に迎合してきた。

 今後経産省が果たすべき仕事は、(a)国内市場の防衛、(b)エネルギー安全保障や安全対策の強化、(c)お金を国民の長期的な利益になる方向に回すことだ。
 グローバル化を推進するのではなく、国民の利益を守る「経済安全保障省」であるべきだ。

 以上、語り手:中野剛志(京都大准教授)/聞き手:尾沢智史「〈耕論〉どうした経産省 経済安全保障省めざせ」(2011年11月22日付け朝日新聞)に拠る。
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